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第3章・6:見えないもの

その空間は、

あまりにも神秘的で、あまりにも天上的だった。


胸の奥を優しく満たす幸福感。

理由もなく、涙がこぼれそうになるほどの感覚。


目の前には――

まるで銀河の中心に存在しているかのような、

巨大な広間が広がっていた。


壁、床、天井――

すべてが宇宙そのもので彩られている。


そして、その中央には、

六つの眩い球体が浮かんでいた。


それぞれは、

奇妙な紋様が刻まれた

六つの“手”によって支えられている。


球体の中には、

六つの漢字が刻まれていた。


水。

火。

地。

風。

光。

闇。


「……ようやく、辿り着いた」


エデンは、

決意に満ちた眼差しでそう呟いた。


……


エデンは、

ゆっくりと歩みを進め、

広間の中心へと向かう。


あまりの光景に、

瞬きすら忘れていた。


懐かしさと、

得体の知れない恐怖が、

同時に胸を締めつける。


――その時。


彼の視線は、

即座に“それ”へと引き寄せられた。


六つの球体の中央に、

二体の巨大な像がそびえ立っていた。


右側に立つのは、

奇妙な“天使”の像。


放射するような緑の石――

モルダバイトで構成されているかのようだった。


その姿は、

美しさと恐怖を同時に宿している。


人間の顔は、

天上的な翼と、

地獄的な角との対比の中で淡く輝いていた。


両の手は、

かつて何かを抱いていたかのように、

虚空へと差し伸べられている。


その足元には、

ヤン」の紋章。


一方、左側に立つのは――

“龍”の像。


獣の身体を持ちながらも、

その顔は温かく、人間的だった。


青緑色の石――

アレキサンドライトで構成されているようだが、

その両手では色彩が変化していた。


一方の手は、

優しく天使へと差し伸べられ。


もう一方の、

爪を思わせる手は背後に隠れ、

一枚の“仮面”を握っている。


その足元には、

イン」の紋章。


……


「……ここ、芸術のセンスは悪くないな」


エデンは、

思わず笑いながらそう言った。


「ありがとう」


厳かな声が、

即座に返ってくる。


その瞬間――

エデンの背筋を、

強烈な悪寒が駆け抜けた。


彼は即座に振り返る。


――だが、誰もいない。


「……どこだ?」


周囲を見渡し、

首を巡らせるが、

人影は一切見当たらない。


「ここだ」


再び、声。


だが――

その発生源を、

エデンはまったく捉えられなかった。


まるで、

すべての方向から、

同時に聞こえてくるかのようだった。


「……まさか、俺の思考を読んだのか?」


「そうだ」


「誰だ!? 姿を見せろ!」


「ここにいる」


「ありえない!

全部見渡したが、誰もいないじゃないか!」


「私は、ここに“正確に”存在している。

見えるものすべてであり、

見えないものすべてだ」


「……何が言いたい?」


「私は、すべてであり、同時に無でもある。

始まりであり、終わりだ」


「……薬でもやってる哲学者か?」


エデンは、

鼻で笑いながら吐き捨てた。


「ハハハハ!

いい度胸だな、それは気に入った」


「じゃあ結局、何者なんだ?

透明化能力でも持ってるのか?」


「うーん……

それは、なかなか難しい質問だ」


「私は、様々な名で呼ばれている」


「ある者は“ビッグバン”と呼び、

ある者は“世界の創造主”、

“すべての起源”、

“混沌”、

――“神”と呼ぶ」


「……なるほど」


エデンの表情が、

一気に冷えた。


「じゃあ、

この世界の元凶はお前か?」


「私か……?

いや、違う」


「私は世界に興味などない」


「お前が死のうが、

私にはどうでもいいことだ」


その冷酷な言葉に、

エデンはわずかに笑みを浮かべた。


「……ずいぶん、

腐った神様だな」


「思っていた以上に、反吐が出る」


その瞬間――

その“存在”の笑い声が、

嵐のように広間全体を包み込んだ。


「実に久しい……

ここまで不敬な存在に会うのは」


「これは、実に面白い」


「……実に興味深いぞ」


「エデン・ヨミ」


その名を呼ばれた瞬間、

エデンの肌に、

鳥肌が一斉に立った。


「これは……

本当に、面白くなりそうだ」


歪んだ、

不気味な声が、

空間に溶けていった。


……




闇と炎の球体が、

何の前触れもなく、ゆっくりと宙へと浮かび上がった。


「……な、何が起きてるんだ?」


「どうやら運命は、

君のためにとても興味深いものを用意していたらしい」


その声は、

楽しげで、どこまでも無機質だった。


「“人生”という名の冒険において、

炎と闇は――

君の伴侶となるだろう」


エデンの目が、

驚愕に見開かれる。


二つのエネルギーが、

彼の身体へと流れ込み始めた。


全身を駆け巡る、

灼熱と、底知れぬ冷たさ。


「……これは……」


「ゼンカだ」


揺るぎない声が、

即座に答えた。


「この二つの元素は、

君の“救いを求める声”に応えた」


「そして――

君の使命を果たすための力となる」


エデンは、

即座に視線を上げ、低く呟いた。


「……最初から、分かっていたのか?」


「私は、

君たちが考え、行動するすべてを知っている」


「知らぬことなど、何一つない」


「……なら聞く」


エデンの声が震える。


「俺の意図も知っていながら、

なぜ……

俺に、血で手を汚す力を与えた?」


「――娯楽だ」


あまりにも冷たい答え。


エデンは、

言葉を失った。


「……娯楽?」


乾いた笑いが、

喉からこぼれ落ちる。


「冗談だろ……?」


「一体、どんな神なんだ……」


「君たちが言う“善”や“悪”という概念は、

私には存在しない」


「この世界で起きるすべては、

君たち自身の行動の結果だ」


「最終的に、

光が支配するか、

闇が支配するか――

それを決めるのも、君たち自身だ」


「私にとって、

君たちはただの“娯楽の道具”に過ぎない」


「……クソ野郎……」


エデンは、

拳を強く握りしめた。


怒りが、

身体中を駆け巡る。


「大いに楽しませてくれ、

エデン・ヨミ」


「待て……この野郎!」


――パァンッ!!


空間全体に響き渡る、

一度の拍手。


次の瞬間、

エデンの身体は、

時空の狭間へと弾き飛ばされた。


……


再び、

静寂が支配する。


「……?」


残された空間で、

他の球体が不規則に瞬いた。


「本当に……

飽きさせないな、人間よ……」


……


その瞬間、

一人の少年は、

“神域”へと足を踏み入れた。


彼の人間性は、

砂時計の砂のように、

静かに、確実に失われていく。


そして――

神の眼は、

彼の一歩一歩を見つめ続ける。


それは、

歪んだ娯楽に酔う神。


自らの狂った計画に、

また一つ、

新たな駒を加えた存在だった

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