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第3章・4:時は来た

ドン! ドン! ドン!

ザスッ――スラッシュ!

ザスッ! ドン!


剣と剣がぶつかるたび、冥界そのものが震え上がった。

凄まじい衝撃に、火花が散り、二人の戦士は獣のような眼光で睨み合う。


ザスッ、ザンッ!


その二体の“怪物”の速度は、もはや理屈を超えていた。

相手の動きを捉えるため、視線だけが異常な速さで動く。


キィン!

ガァン!


エデンは剣を正確に振るった。

その動きは流れる水のように滑らかだった。


突き。

返し。

全方位への連撃。


……


テンザクは、エデンのすべての攻撃に外科医のような精度で応じる。

彼の刀は優雅で、なおかつ迷いのない軌道を描いていた。


常にエデンの体勢を崩そうと狙っていたが、

エデンの足運びは、すでに以前とは別物だった。


「うああああっ!」


ドォン!


エデンの振り下ろしは、

剣だけでなく、相手そのものを揺るがすほどの威力だった。


「捉えた!」


ザスッ!

バフッ!


エデンは完璧な突きをテンザクの腹部に叩き込み、

テンザクは血を吐きながら吹き飛ばされた。


数メートル後方へ転がり続けるが――

突如、地面に刀を突き立て、摩擦で勢いを殺す。


そして数秒で、何事もなかったかのように立ち上がった。


二人の呼吸は荒く、

粘つく汗が顔を伝い落ちる。


それでも、その視線は一切揺らがない。


「ただのクソガキにしちゃ、悪くねぇな」


テンザクは誇らしげに笑った。


「そっちこそだよ、クソパンク」


エデンも自信に満ちた笑みで応じる。


「だが……」


テンザクの身体から、

太陽の残光のような、重く濃密なオーラが噴き出し始めた。


「……何だ、あれは」


「まだ、俺の領域じゃねぇ」


ゴォォッ!


瞬きをする間もなく、

テンザクはエデンの眼前に現れた。


「くそ――」


ドンッ!


刀の柄で放たれた一撃が、

エデンの腹部に叩き込まれる。


その衝撃で、

一瞬――エデンの身体から空気が消え失せた。



エデンは腹部を押さえながら、その場に膝をついた。


彼の前に立つテンザクは、

悲しみと誇りが入り混じった眼差しで彼を見下ろしていた。


「……くそ……」


エデンは苦しそうに呟く。


「顔を上げろ、エデン。

ここまで来たことを、誇りに思え」


「俺の技量がなければ……

今頃、お前は俺と同じ場所に立っていた」


温かい視線を向けながら、テンザクはそう告げた。


「……はい」


エデンはテンザクの手を取り、

再び――自らの足で立ち上がる。


……


パチン。パチン。パチン。


その瞬間、

皮肉と嘲笑に満ちた拍手が空気を裂いた。


「悪くない、悪くない……」


低く不気味な声で、シュンが言う。


「取るに足らない蟻から、

ゴキブリくらいには進化したな」


「おめでとう」


「……何しに来たんだ?」


エデンが眉をひそめて問う。


「任務だ。

もっとも……あいつらは相手にならなかったがな」


「……何か、やらかしてないだろうな?」


テンザクは、すでに答えを知っているかのように尋ねた。


「俺を何だと思ってる。

任務をこなしただけだ」


「その間抜け面が、全部語ってる」


シュンの顔には、

隠しきれないほどの満面の笑みが浮かんでいた。


「そんなに分かりやすいか?」


「嘘つくの、下手すぎ」


「はいはい、どうとでも」


「……で、何か良い知らせはあるのか?」


テンザクが刀を鞘に収めながら尋ねる。


「ああ、ある」


「本当か?」


「ただし……嫌われるだろうがな」


「……どういう意味だ」


「良いニュースは、

エデンがGODSの試験に登録されたことだ」


「……悪いニュースは?」


「試験が、予定より早い」


「……は?」


「へへへ……」


「てめぇ正気か!?」


テンザクはシュンの首元を掴み、激しく揺さぶった。


エデンは、恥ずかしさに顔を覆う。


「まだ一年は基礎を鍛える予定だっただろう!」


「それでこのタイミングだと!?」


「ごめんね~」


テンザクは、

山のように重いため息を吐いた。


「……どれくらい猶予がある」


「えっと……一週間もない」


「……死ぬな」


「……死にますね」


「おいおい、悲観的すぎるだろ。

まだ希望はある」


「希望!?」


「赤ん坊を核爆弾と戦わせるようなもんだぞ!」


「それです!」とエデンが便乗する。


「一瞬で消し飛ぶ!」


「一瞬で消し飛びます!」


「なんでお前まで敵側なんだ!」


「知らない。

ただ、あんたが嫌いなだけ」


……


テンザクはシュンを放し、

地面に腰を下ろした。


「……くそ……」


「順調だったのに……早すぎる」


「たとえ禅化ゼンカの儀式を行っても、

制御には時間がかかる……」


シュンはエデンを真っ直ぐに見つめ、言った。


「ここで決めるのは、お前だ。エデン」


「……俺が?」


「ああ。正直に言うと、

試験中にバラバラにされる可能性が高い」


「今のお前の合格確率は……1%だ」


……


エデンは、小さく笑った。


「……それって、可能性があるってことですよね?」


テンザクとシュンは、同時に目を見開いた。


「今までの人生、

全部が映画やアニメの中の話みたいでした」


「でも……今、俺は生きてる」


「どんなに小さな可能性でも、

俺は信じたい」


「祖父を取り戻せる力が、

自分にあるって」


シュンとテンザクは視線を交わし、

静かに頷いた。


「……時だな」


「え?」


禅化ゼンカの儀式を始める時だ」


シュンは、これまでで最も強く目を輝かせながら宣言した。


……



空気は重く、湿り気を帯びていた。


エデンは仲間たちと共に、

タルタロスの奥深くに存在する、奇妙な広間に立っていた。


その場は冷え切り、

青い松明が弱々しく周囲を照らしている。


部屋の中央には、

古代のルーンで描かれた円陣があり、

倒れた者たちの血によって刻まれていた。


円の内側には、五芒星。


その中心に、

無数の深紅の蝋燭に囲まれたエデンが立つ。


その瞳には、迷いはなかった。


シュンが近づき、

耳元で静かに囁く。


「……死ぬな」


シュッ――!


冷たく、鋭い短剣が、

エデンの胸を貫いた。


目を見開いた瞬間、

血が円陣へと滴り落ちる。


「……な……に……?」


一瞬で、

体内から酸素が消え失せた。


エデンは必死に胸を掴み、

反応を求めるように、かすかに叩く。


だが――


無意味だった。


最後の力を振り絞り、

彼は、これまで信じてきた者たちへ視線を向ける。


しかし、

その瞳には一切の光がなかった。


冷たい――

あまりにも冷たい。


「……クソ……野郎……」


その瞬間、

世界は灰色へと染まった。


ガシャァァン!


空間が、

無数の破片となって砕け散る。


歪んだ声、

嘆き、

引き裂かれるような悲鳴。


混沌の中で、それらは同時に存在していた。


歪む映像。

想像を超えた存在。


血――

血――

血――!


「うあああああああッ!!」


……


沈黙。


そよ風が、

エデンの髪をわずかに揺らした。


彼は混乱したまま、

ゆっくりと目を開く。


「……ここは……どこだ……?」


身体を起こそうとした、その瞬間――


彼の目は、

限界まで見開かれた。


目の前には、

威厳を湛えた巨大な城が聳え立っていた。


錆びついた鉄で作られた、

巨躯の衛兵たちが、

無言で彼を見下ろしている。


恐怖に駆られ、

エデンは一歩、後ずさる。


――だが。


振り返った先には、

何もなかった。


地平線の彼方まで続く、

果てなき砂漠。


再び振り返り、

彼はその巨大な城を見つめる。


疑念と、

血を凍らせるほどの恐怖を胸に抱えながら――


エデンは、

一歩、前へ踏み出した。

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