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第3章・1:彼は何者だ?

エデンの身体を覆っていた

あの塊は、

ゆっくりと崩れ落ちていった。


放たれる臭気は腐敗そのもの。

その場にいた者たちの胃をかき乱すほど、

吐き気を催す悪臭だった。


見た目は――

あまりにも醜悪。


だが、その内部には。

一人の、か弱い少年の無意識の身体が横たわっていた。


―――


シュンは指を鳴らした。


――パチン。


すると、

あれほど強固だった黒い鎖は、

ただの塵へと変わり、消え去った。


少年の身体を見つめるシュンの瞳には、

悲しみと苛立ちが混ざっていた。


「……後は任せた、テンザク」


興味なさげに言い捨てる。


「死なせるな」


「……は、はい……」


シュンは踵を返し、

その場をゆっくりと離れていく。


その頬を伝う一滴の血が、

彼の完璧な仮面を静かに崩していた。


―――


一方、

テンザクは命令通り、

高速で地上へと降下する。


だが――

その表情は、すぐに変わった。


(……この少年……)

(……これほどの再生因子を持っていたとしても……)


エデンの身体は、

完全に無傷だった。


まるで、

変貌以前の出来事など

最初から存在しなかったかのように。


与えられた傷は、

すべて癒えていた。


その異様さに気づいたシュンが、

背を向けたまま問いかける。


「……なんだ、その間抜け面は?」


「シュン……」

「この少年は、一体何者なんだ?」


「何もかもが普通じゃない」

「まるで――怪物だ」


「……お前と同じように」


その言葉を聞いた瞬間、

シュンは振り返った。


同時に、

彼の傷は驚異的な速度で塞がっていく。


「……あいつはな」


静かに告げる。


「呪われている」


「……え?」

「の、呪われてる!?」


「おいおい、シュン……」

「一体どういうことだ?」


「こんな存在を連れてきておいて、

 何も説明せずに理解しろって言うのか?」


「……あいつの中には、

 とてつもない力が眠っている」


「それは――」

「お前も、俺も、

 理解できないほどの力だ」


「……そんな力、関係ない」


テンザクは強く言い切る。


「危険すぎる」


「それだけじゃない」

「この世界における、

 悪魔への嫌悪と憎悪を知っているだろう?」


「あいつだけじゃない」

「お前も、巻き込まれる」


「悪魔と関わったことで、

 お前の評判は地に落ちる」


「……十二家も、

 黙ってはいないはずだ」


―――


それを聞いても、

シュンは動じなかった。


穏やかな笑みを浮かべ、

静かに言い放つ。


「……あの老害どもが、

 俺をどう思おうと関係ない」


「文句があるなら来ればいい」

「……全員、殺してやる」


「評判が地に落ちる?

 そんなもの、元からどうでもいい」


「俺は――

 英雄じゃない」


苛立ちを滲ませながら、

そう言い切った。


……


「……なぜ、そこまでする?」


テンザクの問いに、

シュンは少しだけ間を置いて答える。


「……昔の知り合いへの、

 借りを返しているだけだ」


テンザクは何も言わず、

ただ彼を見つめた。


そして、

地平線の向こうを見据えながら、

シュンは呟く。


「……それに」


「あいつは世界を変える」




時は、静かに流れていった。


思考は混濁し、

視界はぼやけている。


――ゆっくりと。

エデンは目を覚まし始めた。


「おはよう、眠り姫」


からかうような笑みを浮かべ、

シュンが声をかける。


「……まだ悪夢の中みたいだな」


エデンは、かすかに笑いながら呟いた。


「……クソ野郎……」


周囲を見渡し、

そして理解する。


(……夢じゃない)


シュンは腰を落とし、

エデンと目線を合わせて言った。


「まだまだ、お前には知るべきことが山ほどある」


「この世界のこと」

「お前の力のこと」

「……そして、俺たちですら理解できていないもの」


一拍、間を置き。


「……だが、その前に」


シュンは背中から、

一枚の黒い外套を取り出した。


深い闇のような布地。

そこには、

雲のように白い二枚の翼が刺繍されていた。


それを少年へ差し出し、

静かに告げる。


「ようこそ――」


「俺の“バカどもクラブ”へ」


「エデン・ヨミ」


―――


その瞬間。


彼の地獄の訓練は、

確かに始まった。


恐怖に立ち向かう覚悟。

疑念を押し潰す勇気。


そして――


初めて、

あの小さな鳥は

空へと羽ばたいた。


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