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第1章・1: 目覚め

微かな風が吹き、

灰色に染まった暗い戦場に、舞い上がる塵が広がっていた。


剣と剣が激しくぶつかり合い、

戦の叫びが響き渡る。

それは――

彼らが、まだ生きているという証だった。


血が流れ、

刃は肉を裂き、

夢は瞬き一つで砕け散る。


戦士たちは、次々と命を落としていった。


戦場を駆け巡る炎は、

その進路にあるすべてを喰らい尽くす。


家々、武器、人間、天使――

何一つ、復讐の炎から逃れることはできなかった。


やがて――

高き山の頂で、

無数の傷を刻んだ一人の男が立っていた。


その手には、

光そのもののように輝く剣と、

深淵の闇のように黒き剣。


彼は、自らに問いかける。


「……なぜ、ここまで辿り着いてしまったのか」


命の光を失った無数の視線が、

彼を見つめていた。


まるで――

自らの命を差し出した理由を求める、

処刑人を見るかのように。


そして、

その“約束”が果たされる日まで、

安らぎを待ち続ける者のように。


―――


理解し難い恐怖に満ちた彼の視界に、

数え切れぬほどの悪魔たちが、空を覆い尽くす。


その咆哮は、

最も勇敢な魂すら震え上がらせた。


だが――

計り知れぬ勇気を宿したその男は、

二振りの剣を強く握り締める。


そして――

魂を震わせる咆哮と共に、

迷うことなく、自らの死へと駆け出した。


……


―――


「リン! リン!」


目覚まし時計の音と共に、

黒髪の少年は、ゆっくりと目を開けた。


(……また、あの変な夢か)

ぼんやりとした視界のまま、そう思う。


「……ん?」

「もう、起きる時間か……?」


半分眠ったまま呟き、

時計を見ると、表示は 7:30。


彼はゆっくりと起き上がり、

気だるそうに服を着て、

鏡の前で髪を整える。


外は、まだ暗かった。


(つまらないな……)

(毎日、毎日――授業、ルーティン……)

(何一つ、面白いことなんて起きやしない)


歯を磨きながら、

鏡に映る自分を見つめて、心の中で呟く。


「エデン、朝ごはんできてるぞ!」


キッチンから、祖父の声が響く。


「はいはい、今行く……」


足を引きずるようにして、

エデンは食堂へ向かった。


――そして。


テーブルの中央に置かれた、

立派に飾られた一つのホールケーキ。


「……じいちゃん?」


「ん?」


「そのケーキ……何?」


「お前のだ」


祖父――ゲン・ヨミは、

穏やかな笑みを浮かべて言った。


「今日は、お前の誕生日だろ?」


「……ああ、そうか」


「最近忙しくて、すっかり忘れてた……」


「なら、今から思い出せばいい」


落ち着いた口調で、ゲンは言う。


「祝ってる暇なんてないよ……」

「また遅刻する」


「心配するな。時間はたっぷりある」


「何言ってるんだよ、今……」


エデンは時計を見て、

違和感に眉をひそめた。


「……ちょっと待って」


困惑したように呟き、

皮肉な笑みを浮かべる。


「じいちゃん」


「どうした?」


「……なんで、時計が五時なんだ?」


「五時だからだが?」


肩をすくめて、平然と答える。


「いや、アラームは七時半のはずだろ……」


「ああ、それなら俺が変えた」


まったく悪びれる様子もなく、

真顔で言い放つ。


「……はは……はは……」


「このクソジジイ!」


怒鳴り声と共に、

エデンは祖父に飛びかかる。


――しかし。


一瞬の出来事だった。


次の瞬間、

彼は床に押さえつけられていた。


「お前のためだ」

「いつも遅刻するからな。今回は親切にしてやった」


悪戯っぽく、ゲンは笑う。


「……俺のため?」

「どう考えても、楽しんでるだけだろ」


「十歳の誕生日の時、覚えているか?」


「ちょっと、話を聞けよ!」


「家族で動物園に行ったなぁ……」

ゲンは、どこか懐かしそうに呟く。


「……家族で?」

「俺が覚えてるのは、腹を空かせたライオンに囲まれて目覚めたことだけだ」


「楽しかっただろ?」


笑いながら問い返す。


「どこがだよ! いつ死んでもおかしくなかったぞ!」


「本当は蛇のエリアに置くつもりだったんだが、あそこは閉まっててな」


「それで安心しろって?」

「正気の祖父なら、そんな“試練”を誕生日プレゼントにしない」


「他の孫が弱いだけだ」


そう言って、

ゲンは真剣な眼差しで孫を見る。


「お前は違う」


「……またそれか」


エデンの声は、弱々しくなる。


「物心ついた頃からずっと言ってるけど……」

「何を意味してるのか、未だに分からない」


「時が来れば分かる」

「お前は、他とは違う」


「……褒め言葉なのか、皮肉なのか分からないな」


「まあ、どっちでもいい」

「ほら、座れ。今回は“普通”の誕生日プレゼントをやろう」


そう言って、

ゲンは手を差し出した。


「……じいちゃん……」


エデンがその手を取った瞬間――


――バチッ!!


激しい電流が、

全身を貫いた。


「……くそ……じじい……」


そう呟いたきり、

エデンは力尽き、床に倒れ込んだ。


―――


時間が流れ――

エデンは、街の中を人ならざる速度で駆け抜けていた。


その速さは、

通り過ぎるだけで周囲を揺らすほど。


(クソ……あのジジイ……)

(また騙しやがって……)


走りながら、心の中で毒づく。


(まさか、あんな悪ふざけ用の道具をまだ全部持ってたとは……)

(……絶対、仕返ししてやる)


――その時。


「カン、カン……!」


学校の鐘の音が、

街中に響き渡った。


「……最悪だ!」

「また遅刻だ……!」


エデンはそのままの勢いで校門をくぐろうとする。


「ヨミ君、もう――」


教師――レオが声をかけた、その瞬間。


「すみません!」


エデンは、

言葉を残して一瞬で通り過ぎた。


「……まったく、懲りないな」


レオは、ため息をついた。


―――


教室の扉が勢いよく開く。


「はぁ……はぁ……」


息を切らしながら、

エデンは中に飛び込み、深く頭を下げた。


「遅れてすみません!」


……


返事がない。


不思議に思い、

ゆっくりと顔を上げる。


――視線が、集まっていた。


「……え?」

「……誰もいない?」


「誰に謝ってるんだ?」

親友のミヤが、笑いながら言う。


「先生、まだ来てないぞ」


「……え?」

「本当か……?」


「助かった……」


ほっと息をつく。


「最近、毎日ギリギリだな」


「まあな……」


エデンは少し迷ってから、口を開く。


「最近、変な夢を見るんだ」


歪んだ映像が、脳裏をよぎる。


「巨大な存在……」

「天使みたいなのもいれば、人の形をしてないのもいて……」


「よく分からない」

「でも……どんどんリアルになってきてる」

「まるで、俺が“そこにいる”みたいで……」


「アニメ見すぎなんじゃないか?」


「……かもな」


エデンは苦笑し、

小さくうなずいた。


――その時。


再び、扉が開く。


「遅れてごめんなさい。少し用事があって」


担任のメイが、教室に入ってくる。


「おはようございます!」


クラス全員が声を揃えた。


「おはよう」

「それから……ヨミ君」


「レオ先生から、これを渡すように言われてるわ」


メイは、一枚の紙を差し出す。


「……え?」


戸惑いながら、エデンはそれを受け取った。


「……あ、ありがとうございます」


「じゃあ、昨日の続きに戻りましょう」


メイは歴史の教科書を開く。


「12ページを開いて」

「今日は、ギリシャとその信仰について話します」


「はい!」


だが――

エデンの視線は、

その紙切れから離れなかった。


そこに書かれていたのは、

たった一言。


―――

「目を覚ませ」

―――


……


その瞬間。


背筋を、

冷たい何かが駆け上がった。


エデンは、ゆっくりと顔を上げる。


――そして。


彼の視界は、

現実ではあり得ない光景に塗り替えられた。


理解不能な文字のようなルーン。

床に広がる血。

切り刻まれた無数の身体。


そして――


すべてを見下ろすように、

ただ一つの**“目”**が、

エデンを見つめていた。


まるで――

彼の運命を、

裁くかのように。


呼吸が重くなる。


心臓が、

激しく脈打つ。


目の前に広がるのは、

理解を遥かに超えた――何か。

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