第六幕:黄金の利用と一目惚れ
やあ、君。哲学よりも、商売。
黄金の女を選んだ哲学者の話を、
始めるとしよう。
第五幕では、女ソクラテスによって、哲学者は哲学から解放された。
彼は平民層の黄金の名を持つクリュシスという女性と共に、新たな道を歩むことになる。
月明かりが道を照らす夜だった。
アテネの街は、青い光に照らされて、蜃気楼のように揺れる。
クリュシスは哲学者の前を歩く。
石畳の街道を歩き、彼女の家族のもとへと急いだ。遠くで、夜の市場の賑わいが聞こえる。
歩きながら彼女は、
哲学者を警戒した。
大衆食堂で、
知らない女性の前で、
自分の意見を言っただけだ。
クリュシスは、哲学者からお金をもらっていた。
だから、自分の考えを言った。
「まるで夢みたい」と。
この言葉が、クリュシスの目の前にいた女性をひどく困惑させていた。
一方、哲学者と言えば、クリュシスの弱さを見極めていた。
彼女は生活に苦しみ、怯えている事を見抜いた。
平民でい続ける金も支払えない彼女は、いつか誰かの所有物となる。
哲学者が知恵を貸さなければ、
確実の破滅がくると彼女に匂わせた。
哲学者はクリュシスの平民の立場が、欲しかった。彼がアテネで稼ぐには、旅人である立場は、衛兵からの尋問や身分の証明など、危険を呼び寄せる。
彼女を盾に、自由に動くことにした。
薄汚れた石のレンガを積み上げただけのような家に二人は来た。
そこが彼女の家であった。
扉の前で揺れている厚めの布が開かれて、腰の曲がった女が顔を出す。
彼女の母がクリュシスの帰りを心配していたんだ。
「ずいぶん遅かったね、クリュシス。
その方は誰だい?」
哲学者は、自分を『哲学者』と名乗り、クリュシスの母親が大切にしている黄金を無事に連れ帰ってきたことと、彼女の黄金がどれほど美しく賢いのかとほめて、
彼女に少しばかりの硬貨を握らせた。
これだけで、
彼女は哲学者を疑わなくなる。
そうやって、哲学者が家に入り込もうとした時、家の奥で爽やかな少年特有の声がした。
「姉貴、帰ってきたの?」と。
哲学者は声の主を見つめる。
そこには、部屋の薄光にもかかわらず、まぶしい光が部屋中を輝かせているように見えた。
その光の中で暗褐色の髪と水色の目をした少年が、哲学者を見ていた。
「星の海から降りた星の子ーー」と切なげに哲学者は呟いた。
(こうして、第六幕は星の輝きと共に、幕を閉じる)