第四幕:師と弟子の夜
ソクラテスの弟子となった哲学者。
オリーブの木の下で、彼は何を思っていたのか。
気にならない?
【物語】ファウスト(4)〜哲学放浪の幻視〜
【第四幕】
やあ、君。哲学について考えてみた?
ボクらが呼吸してるのさえ、考えなきゃいけないーーなんてね。
第三幕では、哲学者と女ソクラテスとの知性ビンタのぶつけあいと、
哲学者が故郷から盗んだ金を、彼女に捧げて弟子にしてもらった所まで見た。
今、ボクらがいるのは、アゴラの広場の中。オリーブの木が、広場の端に生えていた。
風に、そよそよと揺れる葉っぱの音を聞きながら、哲学者が瞑想をしている。
その周りに、女ソクラテスの弟子たちが囲んでる。そして、彼らは勝手なことばかり言うんだ。
「おい、哲学者!貴様!少しばかり金払いがいいからと、最近、師と話をしているそうではないか!」と弟子がいう。
「我々でさえ、師とは気軽に話さないようにしてるのにーー」ともう一人の弟子が言葉を続ける。
哲学者は、オリーブの木から落ちてくる葉を眺めながら呟く。
「やれやれ、これでは、
モノを深く考える前に、
財布の中身を数えてた方がマシだ。」
そして彼は、先輩たちを嘲る。
「潔く商人になれ、凡夫どもがーー」
そうして、
日々乱闘と瞑想の繰り返しだった。
オリーブの木が傾き、葉がだいぶ落ち、枝が破滅の音をたてながら、
へし折られた。
哲学者が、オリーブの木をへし折ったその日の夜のことだ。
彼はソクラテスに連れられて、
大衆食堂へと誘われた。
丸い月が高い丘を照らす夜だった。
ソクラテスは、普段とは違う髪型をしてた。見事な金髪を帽子に押し込んでいて、少しばかり地味なペプロスに身を包んでいた。
夜道を二人で並んで歩きながら、
ソクラテスは彼に言葉をかけた。
「ーー謙虚さは、お前を導くと言ったな」と苛立ちが少し込められていた。
「それが、私の、お前への教えだった。」
哲学者は足を止めた。
「謙虚さなんかで、真の対話なんてない。ーー嘘っぱちだ」と唾と共に吐き捨てる。
「なぜ、そんなウソを人前で言った? なぜ、バカどもを見捨てない?」と、哲学者は地面をみる。
風が彼の殴られた頬を優しく撫でた。
「私は、お前に生きていてほしい。」と彼女は、彼を見ずに前を歩く。
「ーーそれだけだよ」とソクラテスは呟きながら、彼の先を歩く。
大衆食堂は石造りの建物だった。中は、多くの人で賑やかだった。
いくつかのテーブルに、
色んな客が囲んでいた。
旅人や派手な女、平民層に、
商人や奴隷など。
彼らは葡萄汁の飲み物とパンや魚の料理を食べている。
部屋の端の柱で、吟遊詩人が詩を唄っている。
毎日が同じことの繰り返し
こんな幸せ続くのなら
明日なんてなけりゃいい
恋人の笑顔よ
明日なんてなけりゃいい
手を繋いでくれるかい
悲しいなんていうなよ
その笑顔は昨日まで
明日なんてなけりゃいい
石畳の上を歩き、二人は向かい合って卓につく。
「俺をこんな所につれてきて、良かったのか?」と哲学者はソクラテスに聞く。
「ーー君を信じている」と彼女は微笑んだ。
(こうして、第四幕は葡萄汁により幕を閉じる)
二人はいい雰囲気のようだけど、
実際には、哲学者はイラついていたんだ。