表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

第十一幕:狼少年の逆襲と神の世界へ

やあ、君。この物語は、倫理を打ち抜く内容だ。

そして、これによりボクらはーーまあいいさ。

さあ、物語を読んでみよう。

やあ、君。愛する人を、遠ざけたり、別の人に託したり、愛し方にも形があるってわかったろ。

君はどんな愛し方が、できるのだろうね。


第十幕では、少年の恋は終わった。

姉に自分の代わりに男と結ばれるように願ったところまで、ボクらは見た。


だけど、少年は狼の名を持つ。

三匹の子豚を食べようと、何度だって挑戦する恥知らずのケダモノだ。


物語を進めよう。


ボクらは今、

まるで星降る夜空の下にいる。

そこは草原だ。

草が膝下まで生えて、

サワサワと足を撫でてる。


その日は少しだけ雨が降った。

そのせいで、水滴が草についてた。

夜空には星が煌めき、地上でも瞬く。

星が降ってきた。

そう言える夜だった。


哲学者は、リュコスから言伝をもらってた。

クリュシスが今夜、二人の結ばれた草原に来るように、とね。

彼が一人で空を眺めていると、後ろからオリーブオイルとハーブ、ほのかにパンの香ばしい匂いがした。

哲学者は振り向く。

軽く化粧をしているのか、

彼の目の前に、

普段とは違うクリュシスがいた。

彼女は青いペプロスを着ている。

哲学者はこの人を、

クリュシスだと思った。

この人は滑るようにして、

サンダルで草原を歩く。


「愛しい貴方。」とクリュシスよりも少し低い声が、艶のある唇から流れる。

「今宵は、貴方から決して私に触れない事を約束ください。どうか、この時間だけは、私を」と、この人は言った。言葉は途中で聞こえなくなる。化粧の下では耳まで赤くなっている。


哲学者は、うなづくと、目の前のこの人が、近づいて、頬を哲学者の胸にあてるのを見た。


「慕っております。愛する者にかける言葉が、私には少なすぎて、貴方を失望させるかもしれません」

この人は、震えてる手を哲学者のキトンの下へともぐらせる。彼の男性の部分を見つけると、何度もためらうように撫でる。

「初めてお会いした時、貴方は私を星の子とお呼びしましたね。」

この人は物語を彼に聴かせた。

「ああ、私は星の子。愛する者を追った女神のカケラが人の子として、形作りました。」と語り続ける。


哲学者が、この人の細い腰へ腕を回そうとしたが、約束を思い出し腕を下げる。

「しかし、いずれは戻らねばならない定め。そう、定めなのです。カケラが全て天に帰りし時、愛の女神は一つになる」


しばらく、

この人の指先が哲学者の男性の部分をなぞるのに任せた。


この人は哲学者に仰向けになるように頼む。

「もしも、私がいなくなった時、貴方は探してくれるのかしら」

それから、おそるおそる。

この人は、ゆっくり身体を上下に揺らす。子どもが親に遊びをせがんで跳ねるように。

星空が明るくなり、

二人のそばに影が映る。

「天に還った神を追うには、

舟を漕ぐの。

貴方と姉がーー地平線の向こう。

境界線の先。

物語と現実の境にーー

そこに星の海がある。

漕ぐの、漕ぐのよ、どこまでも!」

切ない声が、この人から漏れて、

哲学者の手を強めに握りしめる。

「お願い。お願い、神さま、もう少し、この日だけでいいから」とこの人はいう。祈るような言葉が、たびたび草原に響いては、風に流れる。


哲学者は、この人の胸にふれる。服の下から、パンのかけらが雪のようにこぽれ、クリュシスに似た人物は、涙を流しながらかけていく。


1人取り残される哲学者は、

頬に残った熱い残り香を感じながら、「私は哲学者なんだ」と呟くんだ。


まるで蜃気楼が崩れるように、

闇へと還る。


ここが、神話と人の子の話の境だ。

物語は、人の話から神話へと移る。

次回は神々の世界に。

アフロディテの神殿へ行くよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ