第一幕:魂の呼び声
やあ、君。ファウストの魂が天に召された後、次の継承者へ受け継がれた世界。ボクは語り部ファウスト、君の友だ。今宵は紀元前394年、アテネのアゴラへ。ソクラテスの影が残るこの地で、新たな魂が震える。
【物語】ファウスト(1)〜哲学放浪の幻視〜
【第一幕】
やあ、君。
今回の物語は、ファウストが天に召された後の話だ。
彼の壊れた魂は、
次の誰かに受け継がれた。
もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。
ボクが誰かって?
語り部ファウストさ。
ヨハン・ゲオルク・ファウスト。
君と共に物語を見つめる者であり、
君の友だ。
今度のファウストの魂を引き継ぐ者は、哲学者と名乗っている。
本名は、故郷と共に捨てたバカモノさ。明るい茶の長髪を後ろで束ね、鋭い目つき、口元に不敵な笑みを浮かべて、常に相手を負かせてやろうという雰囲気を漂わせる。体つきは、華奢のように見えて、鍛えまくっている。
故郷じゃ、ちょっとした悪童だ。
両親や兄弟は彼を見捨てた。
故郷を捨ててもらって、喜んでいた。
ーー彼がお金を持って行ったと気づくまでは。
ボクらは今、紀元前394年頃の古代ギリシャのアテネにいる。
高い丘があり、その北西には、平らな土地が広がる。そこに人々はギリシャ建築の建物を建てていた。中央には、広場があり、そこが公共の哲学の話し合いの場でもあった。そう、アゴラとね。
この時期に目立つのは、ソクラテスが死んだ紀元前399年に近い。
なぜ、ボクがソクラテスの名前をだしたのか、気になるようだね。
それは、彼の名前が今から君と見る物語に欠かせない存在だからだ。
ソクラテスの死後、
このアテネに、新たなソクラテスが名乗りをあげたんだ。
そのソクラテスは、美しいウェーブががった金の髪をして、ものすごい曲線美をもっていた。豊満な乳房をペプロスという衣装に包み込んで、男どもを手玉にとっていた。哲学という対話を使ってね。
彼女の噂は、ファウストの魂を受け継ぐ者にも届いたさ!
彼は、即座に壊れた魂を震わせて、
そして、このアテネのアゴラに来た。
アゴラは様々な神殿が寄り集まってできてた。その少し開けた場所で、
ちょっとばかし頭のいい人たちが、話題をだしあって知性を磨いてた。
階段にこしかけて頭を抱える者もいる。オリーブの木下で、頭をこすりつけた者もいた。
そこに、ボクらの哲学者がやってきて叫んだ。
「俺はソクラテスに会いに来た!」
みんな一斉に彼を見たんだ。
好奇心と敵意を混ぜながら。
(第一幕は、高い丘と共に幕を閉じる)
アゴラの視線が哲学者を貫く中、高い丘が夕陽に染まる。好奇心と敵意の渦で、魂の放浪が幕を開けた。次は、叫びの行方だ。