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第8話

 爺さん婆さんを待つ気にもなれず、行きも帰りも別行動となった、今日のパーティーである。

 どんよりと家に戻ったセーンは、執事さんにもおざなりの挨拶をかわし、自室にたどり着くと、ベッドに突っ伏し、

「明日行かなきゃダメかな。もう帰りたいんですけどー」

 と言ってみる。セピア公国の文明の利器、スマホを取り出し、電力切れだったのでがっくり、充電器を持って車庫に行く。北ニールでは電気は魔力で出るので、古い建物にはコンセントはない。そう言う訳でセーンは、充電は車のコンセントを利用していた。もしかしたら、他に方法があるにかも知れないがセーンは知らなかった。

「不便だ。ここで暮らしていけるのかな。俺」

 結論が出た気がしてきた。

「朝一番の飛行機で帰ろう。王太子の相手は止めよう。あいつはそもそも先代王妃の子だから、きっとクーラとはなさぬ仲ってやつで、クーラはきっと困らされていたろうな。想像だけど」

 急速充電を終えると、また思いつく。

「朝、出て行こうとしたらきっと止められるだろうな」

 今のうちに飛行場前のホテルに入っておきたいと思ったセーンは、部屋に戻って荷物をまとめ、車は借りていこうと思って駐車場へ行こうとすると、部屋を出たところで、足がもつれて転びそうになった。不審に思って足元を見た。ヤモちゃんの妹らしきヤーモちゃんが、何故かセーンの足にじゃれている感じである。不思議な奴だ。

「ヤーモちゃん、俺の足で遊ばないでね。歩けないから」

 ヤーモちゃんは、上目遣いで、拒否感を出している。仕方なく足からヤーモを引きはぐと、次は手にくっついた。早く出ないと、爺さん婆さんが戻って来そうだ。必死で腕から

 ヤーモちゃんの腕をはぐ。騒がしかったのか、ヤモ現れる。じとっと荷物を見て、

『どこ行く』という意味の事を言っている。勘の良い奴。ヤーモにきっと寝ろと言ったのだろう、立ち去るヤーモ。もう一度、『どこ行く』と聞くヤモである。仕方なく、

「セピアに帰る」

 と言っておき、駐車場に行こうとすると、腕を掴まれた。吸盤がくっつく感じだ。止める気だな。さすがニキ爺さんの使い魔である。爺さんが留守の時に、ずらかるのを阻止する役だなと思う。

「離せよ」

 きっと離す気は無いと思える。階下が騒がしくなった。帰ってきたようだ。ヤモ兄弟に阻止された。

 部屋に戻り寝たふりを決め込むセーン。ユーリーン婆が執事さんにセーンはどうしているかと聞く声がする。

 執事さんは小声で何か言っている。『使用人がご主人様より小声でどうするんだ』と、不機嫌にセーンは思った。明日はセピアには戻れないと察し、明後日にすることにする・・

 いつの間にか眠っていたが、朝起きるとセーンは気を取り直して、朝食を食べに階下へ行った。

 爺さん婆さんは昨夜遅く帰ったので、まだ眠っているそうだ。セーンは執事さんに、

「城に王太子を訪問するのは何時ごろがふさわしいかな」

 と聞いてみた。執事さんは、

「きっと大勢の方が訪問されるでしょうから、早めに行った方が印象が良いですね。普通は訪問時間は午後からですが、パーティーの翌日、お声掛けされた人は午前中の遅めの時間11時頃に訪問されます。先んずるには11時前10分頃に、取次の方が王太子の部屋にたどり着く時間を考えてみましょう」

 随分と執事さんは策士ではないだろうか。

「10時30分城の門をくぐりましょうか」

「執事さんが付いて来てくれるの、その言い方」

「私はここを離れられませんが、使い魔を一匹連れて行って、近侍を操らせるべきでしょうね」

「使い魔ってのは、そういう事が出来るんだ」

「ニキ様の使い魔は優秀なんですよ。訪問者のあなた様がそう言ったことをすると、捕まりますから、出来てもしないようにお願いします。使い魔は人に気付かれるような動きはしないんですよ。魔力はほとんどないですからね。能力持ちの訪問者はなまじっか力が有りますから、能力を使うと、城の見張り番に感付かれます」

「へぇ」

「ヤモがあなたになれていますから、付いて行かせましょう」

「ヤモねぇ」

 昨晩の事があったから、セーンは思わずつぶやいた。

「どうなさいましたか、ヤモが何か不手際でも」

「いや、別に。使い魔は連れて行かない。別に王太子の機嫌は取らなくても良いんだった。今、ちょっと寝ぼけていたみたいだな。その時間帯に俺だけで行くから」

 そう言って、執事さんに車を出してもらい、運転手付きで、城に向かったセーンである。車の中で、今朝の事を考えていた。『ヤモ、話が出たのに、俺が連れて行かなかった事を知ったら、どう思うかな』

 別に使い魔の心情に気を使う必要は無いのだが、セーンはそれに思い至らなかった。使い魔でも、人間を相手にするような感覚である。それはセピア育ちの為だろう。

 城に着くと、担当者が手際よく訪問者から名刺風のカードを預かり、念のため誰を訪問するか聞くのだった。セーンはどうやら王太子の訪問者一号の様である。早めに来ているのは年配者ばかりである。

 おそらく、きっちり11時10分前に王太子の部屋へ入っただろうと思う時間である。しかししばらく待つが、取り次ぎの係の人は戻ってこない。11時過ぎると段々王太子の訪問者がやって来ているようだ。年齢からみて察せられる。数人溜まったところで、セーン達の並びの4,5人後ろに居たキャロン公爵御子息が呼ばれていった。思わず、

「俺の方が先だったじゃないか」

 と憤慨すると、後ろの何人かが、

「今日は会わない気だな。キャロンが呼ばれたらそういう事さ」

 と、自分のカードに一言何か書いて帰ろうとしていた。

「君たち、カードだけ置いて帰るの」

 セーンが聞くと、

「うん、訪問しても会ってくれない時があって、カードを置いて帰るんだ。ちゃんと来たって証拠にね」

「なるほど、それじゃぁ、俺もそうしよう。念のため来た時間も書いておこう。捨てられなければ良いけどな。さっき一枚渡したけど、どうなっている事やら」

「ははは、君も言うねえ。誰かに聞かれていたら不味いんじゃないかな。大きな声では言えないけど、王太子の近侍はそういう事やっているらしいよ。王太子の友人を吟味しているね」

「ふうん、そういう事か」

 セーンはきっちり11時10分前の時間を書いて彼らのカードの間に入れておいた。捨てられる事もあるそうだから、目立たないようにしておこう。

 せいせいして、戻ろうとしていると、同じく後ろからも、帰ろうとしているどこかの御子息達の話し声が聞こえた。

「今度の宰相のイーバン公爵の二代目のリーとか言うやつになってから、王太子は社交的じゃなくなったね」

「そうだね、会わない日が多くなっている。昨日は機嫌よさそうだったけどな」

 その話を小耳にはさんで、段々ムカついてきたセーンである。

『どっちのリーかな。確かめてみようかな』どっちであっても、それなりの台詞は持っているセーンだ。

 何となく宰相閣下の仕事部屋は、王様たちの私室近くの様な気がして、ふらふらうろつくセーン。見とがめられたら、帰ろうと思っていると、とうとう、それらしき部屋を見つけた。リーの名がフルネームで入ったプレートがドアに掛かっているし、宰相の字が昔風な文字で書かれている。造りはゴールドが入っているように、ピカピカなドアである。ふむ、此処で間違いなさそうだ。

 セーンはノックもせず、ガバッと開けてみた。デスクに座っているのは親父の方のリーに一瞬見えたが、直ぐに感情の無いお面のようになる。そして部屋中に違和感がある。見た事はないが、魔物の気配がする。親父は魔物に捕まっているのでは?その時とっさにセーンは思い出した。ユーリーン婆は、

「魔物は『愛』とか『善』とかの言葉が大っ嫌いよ。それ言っているのを聞くのも嫌がるの」

 と話してくれた。とっさに、そこいらの花瓶にさしてあるバラを一本手に取ったセーン、

「やっとお会いできましたね。リー様。僕の愛を受け取ってください。これがぁー僕のー気持ちー、愛―あいーあいー」

 セーンは知っている歌の中で、歌劇で愛を連発する歌を思い出した。覚えやすい曲だし、歌詞は愛がどうのこうのと言って連発するだけで適当でも歌える。

「これが僕の愛ですー。あいーあいーあいーですー。もっとあいー、きっとあいー、あいがすべてー、あいーあいー」

 段々辺りが淀んでくる。隠れていた魔物は御立腹だ。だが歌はこれから長々と愛を叫ぶ。セーンは大音量でほぼ叫んでいると、魔物が、辺りから転がり出て来た。セーンに飛び掛かろうとするので、セーンは何とか飛んで避けて、あいーあいー叫んでいると、セーンのポケットから、意外にもヤモちゃんが飛び出して、魔物を蹴ってセーンに近づかせないようにし出した。そこへ、やっと近衛兵と王立騎兵隊の騎士が部屋に入って来て、魔物を退治し出した。ヤモちゃんは慌ててポケットに戻った。

 全てやっつけた騎士たちはセーンにご苦労様でした、と敬礼して死骸を引きずって立ち去った。

「やれやれだな」

 枯れてきた声で、セーンは感想を言った。

 横目で親父の化けリーを見ると、下を向いて吹き出したいのを堪えているかのようである。

「いい気なもんだな。お前、世間の奴らからは評判悪いぞ。ざまあみろだ。化けの皮がはがれた暁には、夜逃げだな、きっと。夜逃げのやり方はユーリーン婆が詳しいから聞くんだな。じゃあ、せいぜい取り付くろっていろよ。ふん」

 捨て台詞を吐いて立ち去ろうとすると、

「大したもんじゃないか。これほどとは思わなかった。くっくっく」

「普通、褒めるのと、笑うのは別物だろ。本気じゃないな、ばかやろー」

 捨て台詞パート2を吐いて、立ち去ったセーン。

 ぽっけのちょっと膨らんでいるところをなでて、ヤモちゃんには、

「付いて来ていたのか。知らなかったな。ありがとヤモちゃん」

『ふう』

 どうやら頑張って、疲れたらしい。


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