第5話
食堂に言って、二人だけで昼食だった。
「ユーリーン婆は、何処に行っているの」
セーンは、昨日は夕食時には居たユーリーンが今朝から居ないことに気付いた。
「王妃の癒しに行っているよ。知っていたかな。王妃はクーラだよ。遠目にしか見ていないようだったから、気付いていなかったようだな」
「へぇ、伯母さん、国王と結婚する気になったなんて信じられないな。婆ちゃんが前に言っていたけど、早死にしたジュールさんと婚約していたんじゃなかったかな」
「ああ、デートを2,3回していただろうか。まだ、式の日取りを決めないうちに、近衛兵から王立騎兵隊に変わって、城勤めをやめたからな。本人達だけで婚約解消した」
「そういえば、公爵の息子とひと悶着有って、変わらされたんだったよね。近衛兵の隊長に申告したけど却下されたってお婆ちゃんから聞いたけど。グルード家より、何とか言う公爵の息子の方が権力があったってのは、知らなかったな」
「ジュールは母親がリューンと離婚していて、母親の苗字ランドに変わっていた。母親だってそうそう悪い家柄じゃあなかったんだがな。ユーリーン婆の実の母親、先先代王の王妃になった人だがね、その人の母親の実家の苗字だ。早い話がユーリーンの実のお婆ちゃんの実家だな。そこの出の人とお前の叔父さんリューンとの息子がジュールだ。その名字の母親の方について行ったからな。グルードの名だったらそうはならなかっただろう」
「それは知らなかった。ジュールさん、不遇な人生だったんだね」
「ああ、城勤めをどうせ辞めるんだったら、黒蛇に入った方がましだったな。当時母親が息子を手放したくなくて、近衛兵に入らせた。近衛には敵の家の出の奴が多いのに、良く知らなかったんだろうな」
「敵だって、この国の中に敵が潜んでいたのか。当時は国の守りは万全だったと思っていたけど」
「敵はこの国の中にしかいないぞ。セピアで育った所為かな。お前は何か勘違いしているな」
「俺が勘違いしているだって?敵は地下の魔族だろ。この国に当時魔族がもう入っていたのかな、信じられないけど」
「おいおい、お前はモグラやミミズを敵とは言わんだろう。敵は人間の事だぞ。近くに住んでいて、儂らに害を為しそうな油断のならない輩を敵というんだ。一応グルード家内での話だが。他所では言うなよ。」
「わぁー、知らなかった。そういう認識なんだね」
「やっと分かってくれたか。クーラも敵の中で暮して苦労しているようだ。王家に嫁いだら、こちらからは離婚できないからな。王が離婚と言わなければ城からは出られない」
「うー、」
セーンが伯母さんの事が気になりだし、うなっていると。
「ジュールの事だが、ジュールの母親の家は女系家族で、女の子が生まれる方が多くてね。古の王女様のゆかりの家だからじゃないかな。証拠など無いが、古の王女様の母親の実家らしいと言われている。男が生まれることはめったにないんだが、それでも時々生まれた男の子は古の王女様そっくりの顔でね。ジュールもそうだった。家族総出で祝っても祝い足りなくて、俺やユーリーンも招待されたんだ。ジュールが5歳の誕生日にだ。そこまで育ったなら安心だとか言って、お披露目さ。そしてその時に年齢的にも家柄も丁度良い感じだと言う話になって、クーラが許嫁になった」
「ううむ」
何となく感無量でうなるだけのセーン。
「明日の予定だが、王太子の成人式とそのパーティーがある。顔見せにお前も来るんだぞ。用が済めば早めに帰っても構わん。どうせお前の知らない奴ばかりで、面白くはなかろう」
「へぇ、連日予定が有るみたいだね。畑の作業とかする暇あるのかな。裏に耕してあるけど」
「ははは、俺らがやっているとよく分ったな。他所の奴は皆、使用人が作っていると思っているんだが」
「お婆ちゃんは日に焼けた手の手入れあまりしないからね。いーとこの女の人はあんな手していないよ。普通の人はね」
「そうだろ、手袋は買ってやっているんだがな。めんどくさがり屋だ」
噂をすれば、ユーリーン婆の登場だ。手に教会からの手紙を持っている。
「証明書もらわずに帰って来たのね。今これ持って来たよ。へえ、癒し11番だって。すごいじゃない。と言っても、あたしは12、3番辺りじゃないかと思っていたんだけど」
「それ、詳しく調べられる前に、爺ちゃんが帰るって言い出すから、慌てて帰ったんだよ。魔族の用心棒が危ない感じでいたからね」
「まあ、そうなの。危なかったって。狙われているの?セーンは。明日連れて行かない方が良いんじゃないかしら」
「まさか、パーティー会場で人攫いはしないだろう」
「それがねぇ、城で王太子の新しい御学友候補が、行方不明になったそうなの。どこかの家の自慢の能力持ちだったそうよ。クーラはすごくご心配。能力少ないから大丈夫って言ってやりたかったけれど、付き人が居たからね。なさぬ仲の親子なのにクーラは良く面倒を見ているわ。彼が5歳の時からだけど、5歳と言えば十分しっかりしている記憶力の子もいるけど、王太子はどうなのかしら」
「やれやれ、ユーリーンはそんなご心配もするのか」
「クーラ伯母さん、たまには家に帰りたいだろうな。わざとへましてもダメかな。小さい頃会ったことあるけど線の細い人だったな」
「まあ、子供だったのにそんな事、分かったの。セーンは昔から勘が鋭かったからね。ところで、他の能力は測らなかったの。あの子が磁気能力だっていうから。あてにしていたけど、癒し能力ならあたしにもあるし・・・。そうだった、一家の中に被った超能力があったなら、その被った能力を王家に渡すことになっているはずよ。磁気能力は扱う事出来ないから、無理だけど。癒しを渡せって言って来るよ。大方、魔王に吸収されるんだろうけど、来たらどうお断りするの」
「セーン、お前が自分で断れよ。俺はあいつらには会いたくない」
「わがままねぇ、いい歳しておいて」
「ふふん、分かったよ。ふぁー、疲れたな。もう部屋に行くけど、明日は何時に行くの」
「まっ、ニキったらセーンも連れて行くの。城が一番危険とわかっていても・・・」
「奴らがさらったら、俺やレンが王達をバラスと分かっているよね。奴らはまだ、内戦を仕掛ける勇気はない。だから連れて行ってもどうって事はないさ」
ニキに言われた所で、ユーリーンの不安が減るわけでもないようだ。セーンはユーリーン婆が内戦の予感を感じているらしいと思った。しかし、婆さんに予知能力は無いと思うのだった。