第3話
翌日ニキ爺さんに連れられて、城内の教会に行くことになった。正式な能力とそのパワーの登録だ。最近北ニールのお役所仕事は、きっちりしているそうだ。爺さんが現役時代はそうではなかったらしい。
能力者が少なくなっている現在、登録が義務付けられ、誤魔化しようが無くなっているそうだ。
教会に着くと、おっそろしく掃除が行き届いている。セーンの最も苦手とする雰囲気なのが分かった。
「爺さん、此処の床舐めても大丈夫そうだね」
感想を思わず言う。
「しっ、不謹慎なことは言うなよ。教会の奴らが来たら、黙って聞かれたことだけ答えろ」
爺さんとて、罰当たりな言い方ではないだろうか。
少し奥に受付があった。玄関前の方が良くはないだろうか。意見は差し控えるセーン。爺さんは小声でぼそぼそとあいさつし、受付の人も同じ音量で答えている。セーンは自分の耳の性能の低さに驚いた。聞こえない。すぐそばで話しているのだが。案内の人らしい尼さんの服装の女性が表れセーン達を連れて2階へ進み、ある部屋に通された。その間、セーンは足音を立てないように歩くのに必死だった。自分がガサツな育ちだと、理解できるセーン。案内された部屋には、数人の年寄りがソファに座っていた。高位の識者と察することができる。テーブルには小ぶりな水晶玉が金の細工物の台に鎮座しており、あれで能力を検査するつもりと理解できる。
「グルード殿、良く来られたな。彼が君の跡取りか」
一人が小声で話し。爺さんが小声で答える。
「いかにも、最近はグルード家には跡取りにふさわしい者がおらず、恥ずかしい限りだが、検査してもらおうと思ってな。どうか笑わずにいてくれ。これが精一杯だ」
「そこの者。これに手をかざすのだ」
随分エラそうな物言いの爺さんに命令され、セーンは黙って手をかざす。
「両手だぞ」
内心、はいはいと言いながら、両手をかざした。割合濃い紫色になった。
エラそうな爺さんが驚いて言った。
「ほう、これは珍しい。癒し11番じゃないだろうか。これ、」
爺さんが2回手を打つ。横の扉から年代物の本を持って来た若い男が、先ほどから様子を窺っていたとしか思えない手際でページをめくって爺さんが見たいらしき所を見せた。
「いや違う、12番ぞ。グルード殿、彼は跡取りにはふさわしくないぞ。むしろ教会のメンバーにでも・・・。いや、まだ若い。能力開発が先だ。こうも能力が秀でている場合は、違う力も持っておる方が自然体じゃ。この水晶はさげろ、おい、20番水晶」
「いえいえ、10番で分かれば十分でございます。治療院でも作りますよ。ははは、では、12番癒しの証明書いただいて帰ります。証明書が必要なだけでして」
ニキ爺さんは慌てて、水晶玉鑑定を断り、小声で、
「さっさと帰るぞ」
と言い出した。セーンは何故か不味い事になっていると察して、さっさと出ていこうとすると、扉の外からガタイの良い男が二人入ってきて、セーンらが帰るのを阻止しようとし出した。察したセーンは、
「どいてください」
と小声で良い、爺さんを掴んで外に瞬間移動した。昨日爺さんがやっているのを見て、覚えていた。
「あ、証明書もらっていないね」
「あほう、そんなもの要るか。帰るぞ」
急いで駐車場に移動し、行きは爺さんが運転していたのだが、
「セーンは免許は持っているのか」
と聞くので、運転席に行く。爺さんが乗ったのを確かめ、急発進して道路に飛び出た。後ろからガタイの良い男が何人か追いかけてきたが、さっさと大通りに出て、
「爺さん何が不味いんだ。俺らつかまりそうなのか。俺、セピアに帰って良いかな」
「いやいや、心配するな。家に戻れば守備は万全だ。家に帰りたくなったのか。困ったな」
と、ちっとも困っていないだろうと思える口調で言い、教会に向かって何か呪文をつぶやいていた。
「何言ったの」
「奴らに今日の事を忘れてもらいたかったんだが、うまく忘れさせたかな。面と向かって言った方が良いんだが」
「無理だろ、おかしな事する爺さんだな」
「はっはは。癒し12が一番だったのか。あいつもそうならそうと言っておけばいいのに。これじゃあ、目を付けられてしまったな。忘れの呪文が聞けばいいが、ふう」
ため息をつくニキ爺さんである。
「どうするの。これから俺らは」
「心配いらないよ。次の手も考えてある。黒蛇騎士団の入隊のつてがある。あそこはほかの騎士団とは別格で、王家も手出しできないんだ」
「王家は何を手出しするわけ」
「下手すりゃ、王女の婿になる。そして、病気かなんかで死んだ事にして、地下の奴らに売り渡す。よくやるんだ。代わりに不老不死の水を娘婿の代金で買う。そうしたら王家不滅で万々歳だ」
「王女の婿はどうなるの」
「地下の魔王に能力を吸われて運が悪けりゃ終えるな。吸い残されたら地下で暮していくさ。魔王は地上の能力者の力を吸って飽和状態になったら、地上に攻めてくるからな」
「教会の奴らって、地下の魔族の手先だったのか」
セーンは驚いて聞いた。
「その通り。先代までの王政では真面だったが、今生ではいつの間にか地下の手先になっている」
「教会なんじゃ、やりにくいね」
「うん、ガタイが良い奴らは魔族だしね」
「ひょっとして、俺ってやつらと戦う事になるとか。でもどうしてあそこに乗り込んで、俺の能力さらしたんだ」
「奴らに勝算を考えさせて、出来ればお引き取り願いたい。魔王は割と引き際が良いんだ。無駄なことは嫌いな性分でね。そうしたらしばらくはゆっくりできる。ソルスロ家とグルード家の長年の知恵さ。他の奴らは見て見ぬふりさ。恩恵だけかっさらってね。だいたい議会で宰相職がグルード家と決まっているのが良くないと判決が出て、三家持ち回りになったから、こうなってしまった。次の王の代になったらグルード家に宰相職が戻って来るがそれまで北ニールが持つかどうかは疑問だ」
「黒蛇騎士団ってのは味方で間違いないんだろうな」
「そうだよ、ソルスロ家とグルード家で作った騎士団なんだから。魔界の出入り口を見張る役目を持っている。王家の奴はこの騎士団の事は無視を決め込んでいる。近衛兵と王立騎士団が正式な騎士団で、黒蛇騎士団は私兵扱いだ。大事な要の場所を見張っているんだがね」
セーンはややこしい国に戻ってしまったと感じた。
第4話は明日の12時10分頃の投稿になります。1日1話お昼ごろ毎日投稿を目指します。