第16話
セーンは北ニールの、現在は自分の家のような気分になってしまった館へ、瞬間移動で戻った。北ニール時間はまだ、夜が明けたばかりの早朝である。
早朝にもかかわらず、玄関を入ると、執事さんは仕事を始めていたようであり、急いでやって来て、
「セーン様お帰りなさいませ。昨晩はリューンさんの所にお泊りでしたね。ユーリーン様がお待ちでしたが、お館様に、こんな時間になれば南ニールは夜中だから、今日は戻ってこないと聞かされて、お休みになられました。お話が色々有って、長引いたことでしょうね。ユーリーン様にセーン様が戻られたら直ぐに知らせるように言われています。お疲れでしょうが、今お茶を淹れますから。ユーリーン様やお館様が来られましたらお話ししていただけたら有難いのですが」
「執事さんも律儀な人だねぇ、じじばばに付き合ってくれて。でも、執事さんも聞きたいでしょうね。家族同様な感じだものね」
「左様ですね。リビングでお待ちください。おや、やはりヤモはセーン様の所へ行っていましたね。お館様が、『ヤモが居なくなった』と言われて、もしやセーン様の所へ行ったのではと皆で話しておりました。信じられない事ですが、現に居ないものですからね」
「それね、その話もあるんだ、朝食はもう食べて来たから僕は要らない。じじばばのだけ用意してね。俺はしゃべりに集中するんだ」
「そうですか、どんな話でしょう。私も伺って良いとは。それでは急いでお二人をお呼びしましょう」
執事さんがそう言ってじじばばを呼びに行こうとすると、声が聞こえたらしく、寝間着にガウンを羽織り、急いで二人が降りて来た。
セーンは一応言ってやった。
「話は長いよ、着替えた方が良いんじゃないかな」
「良いのよ。ほっといて、セーンが来た最近は、身だしなみを考えていたけど、以前は午前中はこんな感じだったの。ニキは着替えたら。支度は早いでしょ」
「俺も臨機応変、怠惰にもなれるんだ」
やれやれと思ったセーンだが、改まりすぎても内容が内容だけに、どうかなと思って好きにしてもらう事にした。
皆で定位置に座り、どう話そうかなと思ったセーンだが、難しいふうに装えない性分で、
「リューンさんが話した順に言うよ、ややこしい言い方出来ないから」
そう言って、記憶をたどり、正確に言う事にしたセーンである。まるで、録音したかのような状態の話ぶりになった。ニキ爺やユーリーン婆はすぐにその方法を察したようで、黙って騒がずに聞いた。セーンが能力を使うと、まるで共鳴し出したかのような状態で、近くの能力者も能力を表に出すらしいと分かった。セーンである。彼らもかなり能力があるのだと改めて感じたセーンである。執事さんもお茶をすぐに出して、2人の後方に座った。セーンは只、思い出しながら話しているつもりだったが、聞いている三人には、まるでリューンがそこに居て話しているように聞こえていた。
そして話はいよいよ、クライマックスになった。
「~~そしてな、レンも地下に魔物の兵隊を持っているのさ。子供のころの遊び友達だ。そして、レンはジュールが地下の魔王に攫われたと分かって、諜報部員の役をニキには黙って辞めてな、お友達の魔物と魔界の魔王に戦争を仕掛けた。レンは戦い方のセンスがあるとでも言っておこうか。兵の数は向こうが圧倒的に多かったが、能力が有る強い魔物を操るレンの方に軍配は上がった。戦争にかかった時間はさほど長くはなかった。攫われてから時は経っていたが、ジュールは能力を多少奪われてはいたが、生きていてね。めでたしめでたしで、レンは、今じゃ魔王にとって代わって、地下を支配している。噂の近々地上に上がって来そうだと言う魔王はレンの事さね。何しに来るのか、まさか王族を打つつもりなのかな・・・それがちょっと、ぶっ飛びすぎていて分からんな。地下で暮らすうちに頭のネジが違うふうに組み変わったのかな」
「ひっ」ユーリーン婆が悲鳴を上げかかって辞めたらしい声でセーンは我に返った。
それで、
「その後、ヤモちゃんが俺のポケットに入っているのが分かって、驚いたな。ヤモちゃん一家についてはリューンおじさんは、あえて言わなかったけど、レンの兵と戦った場合、良い勝負だろうと思っていたな。でも、俺はそうなりかかったら、一家と一緒にセピアに行くから、俺らの事を当てにしないでね」
ユーリーンが恐る恐る言った、
「セーン、あなたそれ、リューンの思っている事を読んだ訳?」
「あ、そうだったな。分かったよ、リューンの考え。だれか魔物に詳しい人いないかなと考えていたけど、現在、そんな人なんかいないよね」
ニキ爺さんは、
「俺も、レンがヤモ達を連れてきてから、年配の人に聞いたり、王立図書館で調べたりしたが、ヤモたちの正体は分からなかったよ。だから能力や生態や知りたいことは全く分からずじまいだった。もし、生まれてひと月で人間の言葉が分かるのなら、この世界で一番利口な生き物と言えるんじゃないか、戦いを好む輩ではない。セピアに連れて逃げるのも良いと思うが、行く気は無いだろうな。ヤモたちは家につく種類の様な気がする」
「この館の壁の上にへばりつくのが好きって言うんだろ。そうだね、寛ぎ感、かなり感じるね。この館が無くなりそうになったら。相手が誰であっても戦うよね、きっと。ヤモたちが戦う気になるのは、ここの壁を守るためだろうな」
「それとお前を守るためだな」
「ヤモちゃんがだよね」
「ヤモだけなものか、全員だぞ。どうやら、この魔物一家の気持ちは、ほぼ同様だろうと思える」
「爺さんがずっと観察した結果なのかな」
「ああ、心は一つな気がする」
「という事は皆でテレパシーで情報交換しているんじゃない。という事は、ヤーモちゃんはそれで言葉を覚えたんだろうね」
「そうだとしても、一か月程度でセーンと会話が出来るほどになるとは、頭のレベルが違うな」
「そうだね。そういやヤモちゃん、ヤーモはどこで遊んでいるの。そばに置いておかないとね、これから先は何が起こるか分からない気がするな」
セーンがそう言うと、ヤモちゃんは庭に出て行った。どうやらヤモちゃんもそう思ったらしく。ヤーモちゃんを庭から連れ戻す気らしい。
ところが、
「キーッ」
ヤモが激しい大声を出した。
察したセーンは急いで庭へ行くと、狼に似た魔物が、当に今、ヤーモちゃんを口にくわえていて、咀嚼の上で食うつもりと見た。
ヤモちゃんが狼の口をこじ開けようと奮闘しており、セーンも加勢して思いついて、鼻の穴に手を突っ込んでやった。すると狼は口を開け、ヤーモちゃんを離したが、大怪我だ。セーンはすぐ癒しにかかった。他のヤモ一家、ヘキジョウさん達が駆けつけて、狼と戦いだすが、狼も数匹やって来て庭はほぼ戦場と化す。セーンはそれを放っておいて、ヤーモの治療に専念した。酷い怪我だったが、死んではいなかったので、傷は段々回復してきて、ヘキジョウさん達が狼数匹を打ちのめして終わったころには、ヤーモちゃんも目を開けた。
「ヤーモ」
側で見守っていたヤモちゃんが喜んで声をかけると、ヤーモちゃんは愛想よく二人に、にっこり笑った。
そこで、セーンは気が付く。なんだかヤーモちゃんは一回りでかくなって、幼児というより少女に変化した。
騒ぎを聞きつけて、ニキ爺が慌てて服を着てきた風に現れたので、セーンはニキに、
「驚いたな。癒したらヤーモちゃんがでかくなったよ」
と報告した。
「そのようだな。それにしてもこの狼ども、レンのパワーが付いているな。レンの使い魔の兵隊かもしれない。あいつ、どういうつもりなんだ」
ニキ爺は眉を寄せ首を傾げた。




