第15話
リューン大叔父さんは、気分を変えたいのか、セーンの使い魔を話題にした。
「壁の上ヤモ一家のヤモちゃんかー。セーンが苗字を付けたのか。歳の行った奴に聞いたんだって、壁の上で良いかを。元気の良いのは『へきじょう』かぁ。番号は分からないから要らないってヤモちゃんに言われたかぁ。なるほどね、そりゃ、懐かれたなー」
「言ってないのに、全部わかるんだね。すごいやリューンさん」
「いやいや、セーンほどじゃない気がするな」
「それって、お世辞ですよね」
「お世辞なもんか、レンも、魔物を使い魔にしているが、どうやって契約したのか不思議だった。ああいうものはそういう事をするはずが無いと思っていたが、こう目の当たりにしては、レンのも信じるしかないな」
「えっ、リューンさん。今、奇妙な言い方しましたよね。魔物って、レンの奴?でも、その前の言った事、変ですよ。何を目の当たりにしたんですか」
「教えてやろうか、ヤモちゃんたちは魔物だぞ。レンが小さい頃、あいつらを拾って来たんだが、ニキは魔物だから危険だと思って、家で飼おうと言ってレンから離したんだぞ。魔族数体と、一匹だけで対等に戦ったじゃないか君のヤモちゃんは。使い魔がそんな事出来るものか。それに、お前が出て行こうとしたら、兄妹で止めたよな。使い魔は、そんな飼い主に逆らうようなことはしない。どうだ、魔物ってのが納得できたか」
「いやー、そうなのか。そもそも、使い魔の実態とか俺は知らなかったから、そういうものかと思っていたけど。魔物だったのか。へぇー」
「そういう事だ。だからニキが、ヤモちゃんたちを城にうろつかせるなと、あんなにはっきり止めたんだぞ。そしてセーンがヤモちゃんを可愛がる様子を、ユーリーンが感心していたんだ。ニキがヤモちゃんを、レンが拾って来るまでは見た事のない種類だったと言っていたが、レンにいくら何処に居たのか聞いても、はっきり分からないと言っていた。それに、小さい頃レンはどこを遊び歩いているのか、ニキにも分からない時があると言っていた。俺は黙っていた方が良いと思っていた。知っていたがね」
「で、何処で遊んでいたんですか」
「地下に行っていた。遊びにね。地下の端っこで、魔物しかうろつかないところだ。地下の世界の魔人も見向きもしない端っこだから、地下の奴らには勘付かれていなかったな」
「げっ、ホントですかそれ。親父は、自覚なかったんでしょうね、子供のころですよね」
「そうだ、レンは瞬間移動を自覚無しにしていてな。家に帰ろうと思えば一瞬で帰れるからな。誰に教えられた訳でもないのに。かなり遠くまで移動しても、帰れなくなる事は無いんだよ。そして魔物をペットのようにして遊ぶんだ。時々狂暴な魔物に出くわすと、仲良しの中で強いのがやっつけてしまうから、本人も知らない内に無事に家に帰る。戦いが始まったら、面倒見の良いのが、家に連れ帰るんだ。驚きだろ。学校に行かなきゃならない歳になったら、さすがに自分のしている事に気が付いて、危険なのが分かって地下に行くのをやめたが、その時、面倒見の良かった魔物一家を連れ帰って、ニキを驚かせた。だがニキは利口者だから、家で飼おうとか言って、問題にはならなかった。家に居させて、レンは学校に通い出した。そう言う訳で、お館さんちは有名になったよ、辺りの皆は魔物が良く懐いて館に住んでいるって噂し出した。最近はグルード家の名よりも有名なんじゃないかな。セピアでも知っている奴はいるだろうな、どうやらセーンは知らなかったようだが」
「俺は兄貴たちが、使い魔がいると言っていたのを聞いていたよ。すぐ帰る奴には分からないけれど、住むと居るのが分かると言っていただけで、魔物とは聞いていなかった。驚いたな」
「それにあの魔物たちは利口で、戦いは好まない。自分から仕掛ける事は無いからな。だから、初めて訪問する奴に気付かれることは無いんだ」
「そうなんだよな。皆穏やかで、てっきり使い魔と思い込んでいた。じゃあ、戦えば使える奴らなんだろうな」
「そうだよ、体の大きさを変える事も出来て。住んでいる場所に合わせていて、壁に張り付いて何事もなく一生を終えることだって、気にしちゃあ居ないんだ。だが、戦う事になったら、セーンはかなりの兵力を持っていると言う事だ」
「へえそうなのか。兵隊さんたちは隊長がずらかっちゃあ困るって訳で、セピアに帰るのは止めるんだろうな」
「そうだな。そしてな、レンも地下に魔物の兵隊を持っているのさ。子供のころの遊び友達だ。そして、レンはジュールが地下の魔王に攫われたと分かって、諜報部員の役をニキには黙って辞めてな、お友達の魔物と魔界の魔王に戦争を仕掛けた。時間は経っていたが、ジュールは能力は少し奪われてはいたが、生きていてね。めでたしめでたしで、レンは、今じゃ魔王にとって代わって、地下を支配している。噂の近々地上に上がって来そうだと言う魔王はレンの事さね。何しに来るのか、まさか王族を打つつもりなのかな」
「リューンさんは奴の考えは察せられないんですか」
「それがちょっと、ぶっ飛びすぎていて分からんな。地下で暮らすうちに頭のネジが違うふうに組み変わったのかな」
「そんなー、きっとヤモちゃん一家じゃ太刀打ちできないよ。あいつら連れてセピアに逃げた方がよさそうな気がする」
「良い考えだが、ヤモちゃん一家が船に乗るとは、考え難いな。もう遅い時間だ。一晩泊っていくだろう。あっ、ポケットに居るのは、噂のヤモちゃんじゃないのか」
「えっ、そうだ。ヤモちゃん、どうやってここに来たの。置いて来たはずだよね。自分で来たのかな。すごいや、ヤモちゃん。じゃぁ、今晩はリューンさんちにお泊り決定だな」
リューンはヤモちゃんがセーンの所へやって来たのに驚いていた。この魔物は只物では無いと思った。セーンには言えないが、レンの魔物の兵と良い勝負な気がした。
リューンは魔物に関しては、南ニール人なので詳しくは無い。誰に聞けば、彼らの正体が分かるのだろうかと考えていた。
翌朝、セーンはリューンさんから聞いた話が衝撃的過ぎて、ニキ爺さんの家に戻りづらくなってきていた。帰ればリューンに聞いた話を言えと言われるに決まっている。話しづらい。しかし、ニキに話すのが一番だと思える。ただ話しにくいだけの事である。
朝食を作ってもらい、時々ヤモちゃんが顔を出すので、分けてやりながら食べ終わり、帰るしかないと決心した。
「それじゃあ、そろそろ帰ろうと思います。どうもお世話になりました」
「いやいや、良いんだよ。俺としてはまだ話し足りない気がするが、また気が向いたら来な。それから、もしジュールに会う事があったら、親父が会いに来いと言っていたと伝えてくれるとありがたい。噂ではママは最近亡くなったようだし、北ニールにはもう、用は無かろうからな」
「そうなんですか。もし会う事があったら、言っておきます。では、また機会があれば伺いたいです。さようなら」
「ああ、そうしてくれ、もしかしたら北ニールは、セーンの機転に運命がかかっていそうだな、ははっ」
なんだか、リューンさんの乾いた笑い声を聞いた気がしながら、セーンは館へ戻った。




