第14話
リューンは近衛兵について、ニキ爺さんが言った事と似通った事を話した。
「ニキ爺さんは敵とはっきり言っていたよ」
「そうかい、つまりそういう事で、近衛兵の上品さから、しばらくは何もどうこう言うような事件など無かった。だが、ジュールともう一人が組んで夜間の警備をしていた夜。そいつはグルード家とは代々不仲のガブ公爵家三男ビーンであり、夜間の勤務時間になっても彼は来なかった。近衛兵は当時、なあなあな雰囲気で遅刻しても、記録することもなく、出勤のサインは二人のうち一人が書けばそれで済んでいた。そう言う訳でジュールは遅刻した奴を苦々しく思っても、誰もしっ責しないし、ジュールがしかる立場でもなく、そのまま数時間遅刻して来るのが常習化していた。そんなある夜、一人警備していたジュールは、メイドさんがよく行き来する裏の階段を下って王族の私室を回る途中、女性の悲鳴がかすかに聞こえた。時々王家の誰かが緊急にメイドを呼んで、問題を解決することがあった。体調不良が主な原因でな。近衛兵が医者を呼びに医療塔へ走ったこともあった。それで、もしやと思って、悲鳴がまた聞こえないか耳を澄ませた。するとかすかに、客間から聞こえたような気がした。今晩、城に泊まる人がいただろうか、覚えていなかったジュールは、それでも何かトラブルかもしれないし、医者が必要なら呼ばなければならないので、聞こえてきた声の場所をだいたいで見当を付けて、ドアをノックした。
『もしもし、見回りのものですが、何かお手伝いすることがありますか』
と、声をかけた。すると今度は大声で、
『助けてください』と言ったので、思わずドアを開けたジュール。そこには最近、新米のメイドとして城に来ていた、どこかの良家の女性とベッドに入っているガブ公爵家三男が居た。ジュールと見回りしているはずのビーンだった。女性は泣きながら部屋を走り出て行った。ジュールはビーンに、
『あなたは何をしていたんだ』
と怒鳴ると、
『お前と夜勤していたじゃないか』
と答えた。なあなあの実態を踏まえての答えである。こんな蛮行が許されて良いはずはない。次の朝、ジュールは近衛兵の隊長に、今までのなあなあの実態とビーンの行動を報告し、改善を求めたのだった。 その日に、被害者の家からも抗議の訴えがメイド長に伝わり、事は公になった。
ガブ公爵家はお見舞金を多額に被害者宅に持って行き、話を示談で済ませた。納得されたのは、かなりの額だったからだろう。
ジュールは本人がそれでいいのだったら、これ以上は追及しない方が良いことは分かっていた。誰が誰に何をしたかは、メイド長が口止めした。嫁入り前の女性の立場を考えれば、そうなるだろう。
事態はそれで終焉というのが普通だろうが、そうはならなかった。ジュールは辺りの人間の目つきが変わったことに気付いた。比較的話をすることも多い同僚に、理由を聞くと、彼は『ジュールが婚約者がいるのに、最近城にメイドになりに来た女性と付き合っているらしい』という噂があると教えてくれた。そんなことは無いと言うと。ジュールの相方のビーンが噂を流していると言う。彼にはそれは『嘘だ』と言っておいたが、メイド長の口止めがあって、そういう話題の真相は言えないことに気が付いたジュールだった。
噂は婚約者クーラの耳にまで届き、ニキやユーリーンに呼び出され問い詰められてしまった。真相は伏せて、ガブ公爵家三男ビーンに噂をまかれたと言うと、意外とあっさり納得されてほっとする。ガブ公爵家はグルード家と代々犬猿の仲と知ったジュールである。
近衛兵の仲間と気まずくなってきて、ジュールは黒蛇騎士団に行こうと思っていると母親に言うと、母親に反対されてしまう。それで困っていたある日、ジュールの仕事である、近衛兵の備品の購入碌に不備があると隊長に呼び出された。その帳簿を見ると、修正箇所は自分が書いたものではなかった。それを指摘したが、お前以外に誰が書き変えるのかとけんもほろろに言われ、わずかな金額の不正を指摘されて首になりそうになった。ジュールが困っている事をユーリーン達から聞いたリューン、近衛兵隊長に言いがかりだと抗議した。すると、近衛兵同士で、不和になっているので移動をしてほしいと言いだした。リューンは黒蛇騎士団へ行くようにジュールに言ったが、ジュールは以前から母が嫌がったと言い、王立騎士団に変わった。ところが、ジュールは魔物討伐の最前線に行かされて、魔物の吐いた炎で黒焦げになって戻って来て、葬式となった。だが、死体はジュールではない。それはリューンにはわかったのだった。
リューンに分かっていたことは、レンにもわかっていたのだ。当時すでにレンは、黒蛇騎士団とは袂を分けた、元はグルード家とソルスロ家が創立し、後に王族からも助成金の出ている諜報部に所属していた。各国を回っていてその任務内容は親も知る事は無かった。それで何処にいるかもわからないので、葬式にレンが出ることは無かった。しかしレンはジュールが黒焦げの遺体で戻り、本人と断定できないことは分かっていた。
ニキの所に、レンからジュールの件の真相を調べてくれと手紙が来ていたそうだ。
しかし、クーラはすでにジュールと婚約を破棄してしまっていた。そして、その後すぐに、当時は王太子であった今の国王との後妻の縁談が持ち上がっていた。後妻なので、婚約破棄したクーラには丁度良いと思われたようである。王族からの縁談はよほどのことがない限り断ることはできない。そういう決まりだ。そんな時期に、元婚約者の不審死調べ等で、行動し出す事は出来なかった。
ニキは黒蛇騎士団を通じて、諜報部のレンに返事の手紙を送ったがどう思ったのか、レンはかなりな立腹で、親子の縁を切るとまで言って来た。ニキとしてはそんな言われ様は、腹に据えかね、レンとの中は冷え切った状態となった。これが一応真相と言えるものだ」
セーンは、
「どうして一応の真相とか言う話で終わるのかな」
と、リューンに聞いた。すると、
「まだまだ、事実は話し終わっていないんだが、聞きたいか。段々内容的に話しづらくなるんだが」
「最後まで話してよ」
目をしょぼつかせながら、先を促すセーンに、リューンは、
「しかし、まだ最後にはなっていないがな、この先、どうなる事やら・・・」
話し渋るリューンに、セーンは、
「現在進行形って、じゃあ、進行しているとこまでね」
と言って、驚愕の内容になって来ることを聞くのだった。




