第10話
セーンが目を覚ますと、朝日がさしている。
「朝になってら」
昨日の食堂での会話を思いだした。ニキ爺さんが黒蛇騎士団に今日出発すると言っていたはずだ。結局何時かは分からなかったが、早めに準備しておこう。まだ五時前のはずだ。何時でも出発できるようにしておこう。
まだ7時にもなっていなかったが、カバンに必要なものを詰め込んで、玄関前にあるスツールの様なものに座っていたセーン。ぼんやりしているうちに『壁の上』という苗字もあまり格好が良いとは言えない気がしてきた。もしかしたら、『へきじょう』にすべきではないかと思う。しかしおじいさん風ヤモさんには『壁の上』で話を付けたので、年配には『壁の上』、現役のおじさん風のには『へきじょう』にしようかなと思った。
ポケットの中でヤモちゃんがもそもそ動いたのに気が付いた。蛇のとこについてくる気なんだな。と思うと、なんだか嬉しくなった。
「ヤモちゃんとセーンは相棒だな。コンビでも良いけど。そうだ、他の奴に言っておいてよ、苗字の件だけど、年配の奴は呼び方は『カベのうえ』、強そうなおじさん風なのは『へきじょう』、若いのはヤモちゃん、ヤーモとか、ヤッモなんて呼ぼうと思うんだ。後、区別がつく奴は苗字の後に番号も付けようと思う。そうしたら誰が誰だかはっきりするからね。ヤモちゃんたちで番号決めても良いよ。特徴がある奴なら僕も覚えられると思うからね。みんなに言っておいてくれないかな」
『うん、番号はみんな分からない』
「そうなの、じゃあ、その話は無し」
ヤモちゃんと会話していると、玄関から知らない奴が入って来た。普段着だが、騎士の様な風貌、それもかなりの能力に思えた。セーンは、『爺さんに用かな』と思ったが、
「セーン、黒蛇には当分入るな。剣での戦いは俺が教える」
と言い出した。嫌な感じだ。こいつに教えられたら。コテンパンにやられてしまいそうな気がする。オーラのような半端ないモノがあふれていて、意地も悪そうな感じだ。断らねば、
「あのう、どちらさんか知りませんが、今日、ニキ爺さんと黒蛇騎士団に入る予定なので、悪しからず」
「皮肉か、それともマジで俺を知らないとでも?」
「マジで初対面と思いますけどね。人の顔は私は覚えが良いと思っております。自己紹介をお願いしたいですね。親類だろうと見当はつきますが、マジ、私は会った記憶はありませんから」
「おいおい、と文句を言おうかと思ったが、そういえばお前が物心ついたころには、俺は家にはほとんどいなかった。しかし誰か写真とか見せて、親の顔ぐらい教えておいてほしかった。ア、やっぱり無理か」
ぶつぶつ言い始めたおっさんの言葉で、どうやら化けていない時のおやじと理解できたセーン。
「親父かっ、良く俺に素顔さらす勇気が出たな。言いたいこと山ほどあんだよ。本当は蛇んとこなんか行きたくないんだよ。実際、セピアに帰ろうと思っていたんだから。銭よこせよ。旅費出せ。嫌とは言わせないからな。あっ、そうだった。思い出したぞ。俺は知っているんだから。親父の外道ぶりをな。だいぶ前。セピアにやって来た挙句、なんか不味い事になって、ボロ着て俺んちにやって来て、兄貴たちがバイトでせっせと貯めていた金取り上げて北に帰ったろ。そしてその金返していないよな。知っているんだからな。屑野郎。お前にとっちゃ、はした金だろうが。兄貴たちは何か目的があって貯めていた筈なんだ。子供のころはバイトもあまり稼ぎの良くないのばかりだからな。無くなってがっかりしていたんだからな。せっかく溜まっていたのに。あれから、俺は時々返してもらったか聞いていたけど、聞くのも気の毒になって辞めたんだ。返しやがれ、俺が預かってきっちり戻すから。それとは別に、旅費くれ。帰って良いだろ。俺になんか用有った?考えたら、爺さんの跡取りはお前で良いんじゃないか。その様子じゃあまだ当分死にそうもないじゃないか。それとも若見えなだけか。俺の見た感想はまだ当分棺桶とは縁がなさそうだな。順番ではお前が継ぐのが普通だろ。俺は帰る。ここで会ったのが運の尽きだ。大人しく跡取りになれ」
「よくもまあ、べらべらしゃべったな。兄貴らの金の話まで。あいつらはお前に話さなかったらしいが、あれは奴らがゲーム機を買うつもりで貯めていたんだ。あの年の暮れにゲーム機をプレゼントしてやったぞ。お前には黙っていたようだが。奴らがお前に言わなかったわけは、想像どおりの事だ。ははは、ざまあ無いな。それと~、俺は魔族の動向の情報集めで忙しいんだ。それにグルード家を継ぐには能力持ちでなければならない。磁気能力か、それ以外でもほかの奴よりも桁違いの超能力でないと、周りの男が認めない。俺は生憎人並みの磁気能力しかなかった。ユーリーン婆より低い。これじゃあ跡取りとは誰も認めやしないさ。その点お前は測定しそこなったらしいが、磁気が人並み以上あるし、おまけに癒し12だってな。婆さんはもっとあると思っていたそうだ。だからお前で決まり。俺はなりたくても誰も推してはくれない。それに、俺が連れて来た使い魔をお前は自分のにしちまっているじゃないか。それでよくも帰るとかぬかすな。壁の上一家を連れてセピアに戻るのか。皆付いて来るぞ。こんなじゃあな」
「ええっ、しまった、やらかしていた。あ、ヤモちゃん今つねっていないか。なんか痛かったぞ。くそう、ヤモちゃんたちがセピアに返してくれそうもないんだった。こんな時に親父が表れるから、調子狂ったんだ」
「お前も都合の悪い事は人の所為にするタイプだな。良いかよく聞け、魔王が力を付けたから地上に出てきそうなんだ。黒蛇騎士団は忙しくなるし、危険になる。爺さんは気づかないのかな。爺さん今、居ないようだがどこへ行ったか。また城に行ったのか」
「知らないよ、執事さんに聞けば?あ、そういや今日はまだ執事さんも見ないな」
「変だな、執事の気配もない、城に異変があったのか、しかし、執事の不在の理由ではないな。俺も城に行ってみるか」
「そんな事言って、いつもリーで宰相職しているじゃないか」
「お前も馬鹿な奴だな、あれは俺がリー・イーバン公爵に化けて宰相職勤めをしているのをマネている本物のリーだ。奴も酔狂だな、俺に皮肉しているつもりなのか」
そう言ってレンは立ち去った。
「結局あいつ、何しに来たんだ」
セーンは思った。
親父が居なくなってから、セーンはセピアに居る兄らに、例の件を確かめることにした。兄達から、親父は嘘つきで屑とさんざん言われていたので。チェックしなければならない。
「セーン。どうした、こんな朝に」
二番目の兄、ソールがでた。セーンは親父の言ったことの正否を聞いた。
「セーン、俺がお前にいつも言っていたこと、忘れちまったかな。人間の中には気の合うやつとそうでない奴がいるし、生き物を使い魔にするときは、合うか合わないかよく見る。それから物や言葉も、使う人の性質に合うのや合わないのがあってな。きっとどれもがオーラってのが有って、それの合う合わないの関係なんだが。そしてお前の話に戻るが。親父とプレゼントという言葉は合わない代物だ。反発しあって親父がそれを口にすることができたと言うのが、俺には信じられないんだ。お前の話は信じているよ。だから今朝の事は事実だろう。結論はそいつがおやじではないと言う事だ。言っていることわかったか。もちろん俺らはあの頃は、ゲーム機は手に入れられなかった。最近買ったけどな。俺の答えは以上だ。気を付けろよセーン。何か不味い事になっているんじゃないか。俺と兄貴がそっちに行った方が良いんじゃないかな。セピアに帰りたいんだろう。お前の旅費持って行こうか」
「それがね、壁の上ヤモさん一家と俺、使い魔の契約ってのをしたから、この館で暮すべきなんだ。でもありがとう。気持ちだけもらっとく」
「へぇっ、噂の使い魔と契約したって?だけど爺さんの使い魔じゃないのか」
「それが、名前を付けたり、苗字を決めたりしたから俺に変わったらしい感じなんだ」
「うわー、そんなにそっちになじんでいるのか、俺らの出る幕無いな」
段々世間話ふうな会話になっていると、キッチンの方で『へきじょう』さんたちが騒いでいるようだ。
勘付いたソールが、
「騒がしくなったな、お前も忙しくなりそうだな。じゃあ切るぞ」
「うん、またね」




