第9話
城の車庫に行ってみると、いつの間にかニキ爺さんとユーリーン婆が車の中に居た。
「あれっ、何時からそこに?今来たところなのかな。僕はもう帰るよ。王太子は今日は気分が乗らないらしくて会わなかったよ。代わりに化けのリーと周りに居た魔物には会った。確かに城は危険だね。化けのリーが終えるのは時間の問題と思えたな」
少しハイになっているセーンが早口で言うと、ニキ爺さんは、
「少し前に心配になって来てみたんだが、門番の兵士が、今、城に入るのは危険だと言うから車の中で待っていたんだよ。セーンの癒しの力で魔物たちを弱らせたそうだね。魔物を退治した兵士たちが教えてくれた。もうさっさと家に戻ろうかな。かなりな頑張りだったね。セーンの声はよく通って、ここまで聞こえたよ。兵士たちが遅くなって大変だったろう。城のあちこちに隠れていた魔物が、お前の声にたまらなくなって、どんどん出てくるもんだから。手間がかかって、本体にたどり着くのが遅くなっていたな。儂が助けに行きたかったんだが、門番が中に入れてくれないんだ」
「爺さん、中に入ったらやられるとこだったよ。大人しくしていてよね。それにヤモちゃんが付いて来ていて、僕のガードマンをしていたから大丈夫だったよ」
「ヤモちゃんって呼んでるんだー」
ユーリーン婆は感無量のようだ。
車で帰路に就くうちに、セーンは疲れて眠ってしまった。館に到着すると、ヤモちゃんがついたとゆするので、目を覚ましたセーン。
「ニキ爺さん、俺、魔物退治の練習した方がよさそうだな。今日はちょっと出来なきゃ不味い感じだったな」
「そうだろうな。黒蛇騎士団に入って訓練してもらうんだな。儂はもうセーンの相手は体力が持たんから、セーンが自分で危ないと思うのなら、早いうちに騎士団本部へ連れて行くよ」
「そうしてよ。今日だって騎士たちが来るのがまだ後になるようだったら、ヤモちゃん、一人で戦っていたから、段々疲れが出て来て危なくなるところだったな。騎士の登場は、ぎりぎりセーフってとこだった」
ユーリーン婆が、又感想らしきことを言った。
「ヤモちゃんの心配をしているのね。執事さんが使い魔たちがセーンになついているって言うから信じられない話をすると思っていたけど、セーンの言う事を聞いていたら、さもありなんって言う所ね」
「お婆ちゃんになったら、だれでも難しいことを話し出すのかな。執事さんが言っていたこと辺りから人類の話としては理解できなくなった」
セーンが思ったことを話すと、お婆ちゃんは、
「あたしはセーンの言う事の方が、宇宙語っぽくなっていると思うね。『わたしあのほしからきました。あなたのいっていることわかりません』ていう感じ」
「ええっ、どういう意味」
ニキ爺さんがたまらず、大笑いである。
「まったく、孫との会話は面白いよな、ユーリーン。君も似たようなものだから、いい勝負だ。横で聞いている俺はたまらん」
「あたしが似たようなものだって?失礼ねっ」
「もう、お婆ちゃんは僕に似ていたら、どうだって言うのさ。あ、僕がお婆ちゃんに似ていなきゃならなかったのかな。だって僕は孫だし」
ニキ爺さんは、
「もうやめてくれ、俺の神経が持たない」
「じゃあ、明日その蛇んとこ連れて行ってよ。だけど、城はもう危険な所になっているな。ジジババも田舎に戻った方が良いと思う。その時は壁の上のヤモ一家を一緒に連れて逃げてね」
「くっくっく、ああ、そうしよう。ところで、その『壁の上の』って言うのはヤモ一家の屋号かなんかなのか、俺は知らなかったな」
「屋号とか大げさなものじゃないよ、言ってみれば人間で言う所の苗字だな。ヤモよりもかなり年上らしいのに名前を付けて呼ぶのもどうかなと思ってね。苗字で呼ぶことにした方が良いかなと思ったんだ。苗字も俺が付けたけど。もしかしたらホントの苗字があるかもしれないと思って、わりと年寄りっぽい奴に『壁の上の』が苗字で良いか聞いたら、苗字とか持っていなかったから、坊ちゃんが付けてくれたのが良いとか言う感じだったな。坊ちゃんとか言われたけど、多分彼から見たら、俺はまだ坊ちゃんなんだろうなと思ったよ」
「壁の上の使い魔さんもうれしかった事でしょうよ」
ユーリーン婆が言うと、セーンにまた、
「だからどうして、そういう事になるんだよ」
と言われたが、お婆ちゃんは今度は強気で、
「どうしてもよっ」
と言い返した。
館に戻った。かなりの疲労感である。セーンは、『さっきの歌で、癒しの力ってやつを使ったからだろうな』と思った。宰相になっていたあいつの反応から、察せられた。
「すぐ、お昼の用意してもらうから、その辺りに居てちょうだい。自分の部屋に行ったら寝てしまいそう。上に行かないでその辺に居てよ」
お婆ちゃんがヤキモキしている。
「昼食べるよりなんだか眠りたい。お腹すいていないし」
セーンにとってはめったに無い事だが。食欲が無かった。
しかし、ユーリーン婆に食堂に連れて行かれ、振り切る元気もなかったので、セーンは食堂でぼんやり食べ物を待った。
「あたしたちは着替えてくるから、ちゃんと座って待っているのよ」
「ふぁーい」
出された軽食を何とか平らげ、自室へ引き上げるとベッドに倒れこんだ。




