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第1話 出会い

「お昼ごはん食べよ〜う。」


 昼休み、みんなの声が響く。新学年でも二ヶ月も経てばそれぞれのグループに分かれるもの。昼休みはその発表の場のようにさえ思える。教室でグループで集まって弁当箱を広げる人、学食に急ぐ人。部活で集まる人もいれば、恋人同士で食べる人もいる…らしい。まあ、私には関係のないことだった。


 私の名前は草野華クサノハナ、高校二年の女子高生。植物好き親がつけたこの名前は好きだった。だけど、できれば『華』ではなく『花』にしてほしかったと今は思う。華やかとは無縁な性格と容姿。日向よりも日陰を好みグループよりも単独行動を選ぶ(選択しているわけではなく、結果ひとりが多い)私を、みんなは『夜草ヤソウ』と呼んだ。『草野』の漢字の並びを逆にして、『野』を『夜』に変えたこのセンスは素晴らしいと思う。例えそれが好意的なものではないとしても…。


「静かな場所へ行こう。」


 そうつぶやいて、私はいつもの場所へ向かった。学校の一番北側の校舎の裏、庭園と呼ぶにはあまりにも整備されていない木々に覆われたその奥に小さなベンチがあった。少なくとも昼休みにこんなジメジメした場所に来るのは私だけだと思っていた。実際に入学後しばらくして見つけたこの場所で今日に至るまでは誰とも会ったことはなかった…、はずだった。


「あれ…?」


 思わず声を出してしまったのは、誰もいないはずのベンチに人が…、いる…?恐る恐る近づくと、同じ制服の女の子がそこに横たわっていた。そばには紙の束も見える。


 ベンチは一般的なものの倍の長さがあるから、隣に座って昼食タイムは可能…ではあるけど…。


 そ〜〜っと近付いて、女の子の枕元に着席。カバンから弁当を取り出しつつ、チラッと隣を見る。


「きれいな顔…。」


 そうつぶやきたくなるほどのキレイな顔立ち。『美人』という言葉を実写化したような感じがする。呼吸音も聞こえるから寝ているらしい。カバンを枕にして眠っている。その枕元には紙の束に視線を移してみた。


「楽譜…と歌詞?」


 食べながら覗き見る。歌詞は『私はこの道を進む!』『例え、その先が茨であっても。』など。『困難を乗り越えて夢を叶える』、そんな希望に満ちた歌詞だった。


「いいな…。こんな考え方…。私には…。」


 目に入る歌詞を読み終えて、次は楽譜に…。幼少期にピアノ、中学時代に合唱をやっていたためスムーズに…、


「あっ!キレイ!この曲!」


 心の底から感動した。アップテンポなのにキレイにハモることができそうな曲。こんな曲なかなかない。気づくと小さな声で歌っていた。メロディーを頭に流しながら自分の声でハモらせる。頭の中ではキレイな音になって流れていく。


「おい!」


「!?」


 突然、近くから声が聞こえた。ビクビクしながら隣に目をやるとさっきまで寝ていた美人女子が座っていた。その目は全てを見透かすようで、長いサラサラな髪が風になびいた。


「あっ、え〜と…、ごめんなさい…。勝手に…、見て…、しまいました。」


 最大限オドオドしながら答えた私だった。が次の瞬間、彼女は私の両肩に手を置いた。そしてマネキンを揺らすかのように、固まった私をゆらゆらと揺すった。


「あんた、すごいな!楽譜読めるのか!見ただけで理解して低音歌えるのか!」


 彼女の興奮が私に伝わる。キレイな曲→怒られるかも→褒められたという状況。私の感情は乱高下からの急上昇。ジェットコースターでもこんなに激しくない。戸惑う私の肩を彼女はバシバシと叩いた。


「頼む!歌ってくれ!サビの部分!アタシも歌うから!」


 彼女は私を見ながらサビ手前から歌い出した。キレイな声、透明感がありそれでいて力強い。その声に導かれるように私もサビから歌った。想像を遥かに超えるキレイな音。こんなにキレイにハモれたことは合唱部時代もなかった気がする。しかも、彼女は『こんなところで大きな声は恥ずかしい』という私の考えを読み取って気を遣って声を抑えているのがわかる。そのやさしさがうれしくて、余計にキレイに合わせられている気がする。


 サビが終わったとき、私は笑顔だった。高校に入ってから何となく笑うことはあっても心から笑ったことはなかった。

 

「アタシはミオ、二年B組の木下魅音キノシタミオだ。アンタは?」


「ハナ、二年D組の草野華です。」


 これもいつぶりかはわからない。自分からではないけど、率先的な自己紹介。『自分を知ってほしい』と真剣に思えた。だからできた自己紹介だった。


「ハナかー。とりあえず、よろしくな!」


「は、はい。よろしくお願いします。」


 ミオから差し出された手に、私は無意識に応じた。私よりも大きく、それでいて繊細に思える手。その手を握ったとき、私の中で何かが弾けた気がした。この人なら暗い部屋に閉じこもっていた私を引っ張り出してくれる、そんな気がした。

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