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第5話

 俺は慎重にグレンフィストを前進させる。

 血の滲むような特訓のおかげでどう動かすのかは分かる。

 最初は緊張でぎこちなかったが、すぐに慣れてきた。

 爺ちゃんが俺の肩に手を置いて声をかけてくる。


「落ちるなよ。街が潰れるからな」


「あんたの嫌いな佐々木の家が真下にあるよ」


「今じゃ幹太! 飛行をやめて落ちろォ!」


「うるさいって! 集中してるから静かにしてくれ!」


 二人に文句を言いつつ、俺は絶えず操縦桿とレバーを弄る。

 視線はテレビに釘付けだ。

 さっきまでニュースを流していた液晶画面は、今はグレンフィストのカメラ映像を表示している。

 古いテレビなので画質が粗いが、とりあえず問題はなさそうだった。


 現在ではAIの補助に加え、VR機器を使った遠隔操作が主流である。

 操作面の快適さが追求されており、初心者でも手軽に動かせるようになっている。


 一方でグレンフィストは旧式の駆動システムを採用している。

 複数人のパイロットが役割分担する関係上、一人でも欠けると性能を活かせないのだ。

 だから爺ちゃんと婆ちゃんは俺に操縦させているのだろう。


 恐竜に接近する中、婆ちゃんが腰を叩きながら正座した。


「さて、そろそろあたしの出番かね。武装のメンテナンスは大丈夫かい?」


「一日も欠かしとらんよ」


「だろうね。あんたほど機械に真摯な男はいない」


 婆ちゃんがテレビを凝視しながら棚を漁る。

 そこから引っ張り出したのはパソコンのキーボードだった。

 婆ちゃんが目にも留まらぬ速度でタイピングを始める。

 すると、グレンフィストから放たれたマシンガンが恐竜の目に直撃した。

 恐竜が血を流して絶叫する。


 どうやらキーボードと射撃システムが繋がっているらしい。

 俺は当然の疑問を投げかける。


「なんでキーボードなの」


「使いやすからね」


「なるほど?」


 婆ちゃんは喋りながらもタイピングを止めない。

 グレンフィストは次々と武装を切り替えながら恐竜を攻撃していく。

 攻撃部位によってどの弾を当てるか決めているようだ。


「角度が悪いねえ……幹太、あと三歩右にずれておくれ」


「りょ、了解っ!」


 容赦ない射撃に晒された恐竜が徐々にずり落ちてくる。

 その際、赤く光る喉元が露出した。

 あれこそが核——怪獣共通の弱点だった。


 刹那、恐竜が俺達に向けて強化熱線を放つ。

 俺は咄嗟に回避行動を取るも間に合わず、グレンフィストに右肩に命中した。


(やばい死んだっ!?)


 俺は死を覚悟するが、何も起こらなかった。

 爺ちゃんは平然と鼻を鳴らす。


「大丈夫じゃ。あんなもん効かんよ」


「どうして……?」


「グレンフィストには過去に倒した怪獣の素材を使用しておる。最新のロボなど足元にも及ばん防御力じゃ」


 説明を聞いた俺は納得する。

 現在の法律では、怪獣の死骸は例外なく政府に徴収される。

 その一部を企業から流通させる仕組みになっているのだ。

 だからロボに使える素材は僅かな上に高額である。

 クラス3の怪獣相手ではオーバースペックなので、怪獣素材は採用しないのが常識だった。


「ワシらの時代は怪獣を倒した者が素材を総取りできたからな。ワシは収穫のほぼ全ての素材を強化に回してきた」


「オンボロに見えるのは外面だけで、実際はクラス7の怪獣素材で造られたモンスターマシンってわけだね」


「すげえ……」


 熱線が何度もグレンフィストに命中するが微々たるダメージしかない。

 圧倒的なタフネスを実感した俺は、一気に機体を前進させた。

 爺ちゃんは大笑いして自慢する。


「がっはっはっは! グレンフィストはワシが設計した最強のロボットじゃ! どんな怪獣でも倒せるように設計しておる! こすぱ重視の最新機とは次元が違うんじゃよォッ!」


 すっかり勇気付けられた俺は、グレンフィストを加速させた。

 飛んでくる熱線を勘で避けていく。

 パターンを読み取れてきた気がする。

 後ろで爺ちゃんと婆ちゃんも感心していた。


「さすが岩次郎の孫じゃな。もう適応しとる」


「ずば抜けたセンスだね」


「こりゃ鍛え甲斐があるぞ」


 恐竜がついに近接戦の間合いに入った。

 グレンフィストの拳を引いて力をチャージしていく。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」


 腕のブースターが発動し、音速を超えた拳が繰り出される。

 渾身の一撃は吸い込まれるようにして恐竜の核を捉えた。

 叩き込んだエネルギーが凝縮し、一気に拡散する。


 恐竜の首から頭部が爆発した。

 連鎖して染みの奥にある身体も破壊されていく。

 空の染みも縮まって消滅した。

 その光景に勝利を確信した俺は清々しい気分で笑う。


 その後、エースライガーの配信カメラにより、グレンフィストの活躍がネット上にアップされていたことが判明した。

 俺と爺ちゃんと婆ちゃんが一躍有名となったことで、さらなる戦いに巻き込まれるのはまた別の話である。

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