第3話
俺が動揺する間に、爺ちゃんと婆ちゃんが呑気に腰を上げた。
二人はリラックスした様子で言葉を交わす。
「行くか」
「腕は鈍ってないね?」
「お前こそ」
「あたしは常に全盛期さ」
俺は二人が何をするつもりか察した。
だから大慌てで確認する。
「えっ、いや、もしかして戦うつもり?」
「そりゃな」
「近所に怪獣が出たらね」
爺ちゃんと婆ちゃんは平然と答える。
それが当然とでも言いたげだった。
俺は立ち上がって反論する。
「何言ってんだよ! 二人とも大昔に引退してんだろ。現役のロボヒーローに任せたらいいじゃん!」
「敵はクラス5じゃ。今時の機体ではとても敵わんよ」
近藤の爺ちゃんに言い返された俺は、すぐさまスマホを突きつける。
ちょうどエースライガーの配信が始まったところだった。
最新テクノロジーの光学迷彩で透明になったエースライガーが恐竜の頭に接近していく。
射程に入れば、あとはミサイルのごり押しで倒せる。
エースライガーの必勝戦法だった。
俺は画面を指差しながら説明をする。
「爺ちゃんと婆ちゃんは知らないだろうけど、ここ何十年で技術は進歩してるんだ。クラス5だって一瞬で」
光と爆発音。
透明化を見破られたエースライガーが熱線を浴び、鋼鉄の上半身を溶かされてしまう。
その後、連続して大爆発を起こした。
背負っていたミサイルに引火したのかもしれない。
吹き飛んだ破片が周辺の建物に降り注いで二次災害の元凶となっている。
俺は配信画面を見つめたまま固まる。
「う、嘘だろ……」
「だから言ったじゃろうが。援軍が来ようと結果は変わらん」
爺ちゃんの予想をなぞるように、他のロボヒーローが空を飛んで駆け付ける。
しかし、恐竜から拡散した熱線で次々と撃墜していった。
あまりの高威力で装甲が耐えられないのだ。
避けようとする機体もあったが、次々と放たれる熱線で削られて最終的に融解する。
ものの三分とかからずに援軍のロボが全滅した。
爺ちゃんは大げさにため息を吐いて嘆く。
「近頃は遠隔操作ばかりでいかんな。反応が鈍すぎる。何よりも浪漫がない。だから弱いんじゃよ」
「浪漫は知らないけど、反応速度は問題だね。それに緊迫感が薄い。回避訓練を怠っているのも丸分かりだよ」
「やはりワシらが行かねばな」
「準備はもうできてるよ」
婆ちゃんが黒電話のダイヤルを何度か回転させた後、受話器を置き直す。
何かのスイッチが入ったように建物全体が揺れ始めた。
俺は尻餅をついて驚く。
「じ、地震っ!?」
「落ち着け。ちょいと飛ぶだけじゃから」
「え……?」
振動が最高潮に達した瞬間、建物が上昇を始めた。