第2話
近藤の爺ちゃんが思い出したように話題を変える。
「それより幹太。学校の成績はどうなんじゃ」
「別にどうだっていいだろ。俺は配信で食っていくから勉強関係ないし」
「馬鹿もん! まずは勉学じゃろうが! 趣味やら遊びは二の次じゃ!」
「厳しすぎるでしょ……」
俺はため息と共に肩を落とす。
怪獣災害で家族を失った俺を心配しているのか、爺ちゃんはやたらと学校のことに口を出してくる。
同じ災害で孫が死んだから俺と重ねているのかもしれない。
そのことがあるので、強く反抗できないのだ。
寂しそうにする爺ちゃんは見たくない。
俺は助けを求めるように堺の婆ちゃんに尋ねた。
「婆ちゃんはどう思う?」
「あんたの人生だ。好きにしたらいいさ」
「おっしゃあ! さっすが婆ちゃん!」
「幹太が考えを曲げないのは百も承知だからね。無駄な説教はしないよ」
婆ちゃんは諦めた様子で首を振る。
すると近藤の爺ちゃんが「らいばーも大事じゃが勉強もな!」と付け足した。
それを見た俺は苦笑する。
爺ちゃんと違って、婆ちゃんは意見を押し付けたりはしない。
単に無関心というわけでもない。
婆ちゃんがロボヒーローになるための進路をこっそり調べてくれていることを俺は知っている。
情報を集めた上で、いつでも相談に乗れるように準備しているのだ。
スタンスは異なれど、二人が優しいのは間違いなかった。
なんだか嬉しくなった俺は、勢いよく立ち上がって拳を掲げる。
「よし! 見ててくれよ、高校を卒業したら俺は世界最強のロボットライバーに――」
何が粉々に割れる音がした。
驚いて外を見ると、空に墨汁のような染みが広がっている。
それは禍々しい雰囲気を漂わせながら穴となった。
穴から巨大な恐竜の顔がせり出してくる。
血走った目が地上を睨み付けているのが分かった。
俺は恐竜を指差して言う。
「あっ、怪獣じゃん」
「珍しいのう。この区に出てくるのは何年ぶりじゃ」
「少なくとも二十年は見てないね」
婆ちゃんがリモコンで居間のテレビをつける。
ちょうど臨時ニュースが放送されていた。
険しい表情のリポーターが空の恐竜について実況している。
恐竜が大きく口を開いた。
喉奥が光った瞬間、テレビ画面が砂嵐になる。
ほぼ同時に遠くで凄まじい爆発音がして、とてつもないサイズの土煙が舞い上がった。
爺ちゃんが食べかけの煎餅を置いて呟く。
「強化熱線じゃな。最近の薄っぺらい装甲では耐えられんぞ」
婆ちゃんがテレビを消して嘆息した。
ちゃぶ台に散らかった駄菓子をてきぱきと片付けていく。
「クラス5の怪獣なんてまだ残ってたのかい。とっくに絶滅させたと思ったのに」
「成長したんかもな。怪獣の生態はよう分からん」
「面倒だねえ」
二人は淡々と会話する。
その内容に俺は唖然とした。
(え? 今クラス5って……)
クラスとは怪獣の強さを示す指標である。
クラス1から始まって最高がクラス7。
つまりクラス5は上から三番目の強さだった。
そう聞くと中途半端な強さに思えるが、ここ何十年かはクラス3までの怪獣しか出現していない。
もし本当にクラス5なら異例の大災害だった。