バスルームと洋館の住人たち
アタシは固まったまま、風邪を引いたと思った悪友たちにお風呂へ入れられてしまった。失意のまま彼女たちの話しを聞くともなく聞いていると、カナの一言がアタシの凍った心を溶かした!
アタシはショックのあまり固まってしまい、顔は蒼ざめ涙も凍り、
同じ言葉をブツブツ繰り返した・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
----------------
「あの話し考えてくれてるわよね?」黒づくめの服装の人物が話した。
「・・・」
ドアを開けながら無言のタカオミ。
「まだ、返事もらってないわ~」
不服そうな人物は部屋へ入りドアを閉めた。
「・・・もう少し待ってもらえませんかヒカルさん。まだ、そこまで自分に自信が無くて・・・」
「とっても良いお話なの。こんなチャンス滅多に無いの。あなたも芸術家のはしくれなら私の言ってること直感で理解すべきこと・・・」
スレンダーで長身のヒカルさんは腰をかがめ、壁に雑然と立てかけられてる、キャンバスの絵を長い指でパタパタめくった。
「・・・俺の直感は、今は早過ぎって。やめろって・・・」
タカオミが円形に張り出た小部屋のカーテンを開けると、
『あ? 誰か入ったな・・・』
見上げた先に、いつも見えるマンションの窓。今までと違うピンク色のカーテンがかかっていた。
タカオミは冷えた部屋を暖めようとオイルヒーターのスイッチを入れた。
「怖いの? あなたってまだまだ子供だったのねぇ 私の見込み違いだったかしら。先方にはあたしから適当にごまかしておくわ しょうがないわねぇ もぅ~。で、今はどんな絵を? あら、これ素敵~可愛い子ね。モデルは・・・あぁ、あははははん タカオミの恋人ねこの子。 匂うわ~匂うわね~エッチなお匂い。したでしょ~この部屋でセックス~」
イーゼルに立てかけられた絵。
それはまだ未完成だったが、
リアルに描き起こされた天使のイリが小さな羽根を拡げようとしていた。
ヒカルさんは色々妄想し、自分の腰をぐぃぐいタカオミに押し当て抱きしめた。
「わわ! な、なにすんですか~」
タカオミは慌てて相手を突き離した。
「あぁもう、可愛いんだからぁ何もしないって。うふふ、でもまぁ~もぅちょと大人になりなさい。いつでも私がお相手して上げる、何にでも相談に乗るわ♪ でも、この絵好き。完成したらギャラリーに持ってらっしゃい」
静かな笑みを浮かべ、ヒカルさんは肩にかかった巻き毛を指に絡めた。
「あ。これ非売品。売りませんよ、俺だけの絵だから」
タカオミはキャンバスの裏に垂れた布を絵にかぶせ直した。
「あらぁ~ ふたりだけの秘密の絵ってことね。ロマンチック~そーいうとこはイッパシの芸術家よねぇ でも、いちゃいちゃし過ぎて描くのおろそかにしちゃダメよ。あなたには、今とても大きな幸運が舞い降りようとしているのだから」
「わかってますよ。だから、この絵をまず完成させたいんです。あ、今お茶入れますね」
「やっとあたしの小さな願いが叶うわ。気がきかないんだから~うふふ。明日積もるかもしれないねこの様子だと」
椅子に腰掛けたヒカルさん。頬杖をつき、
「でも、ただの大人の先輩としては言うわ。あなたはまだまだいっぱぃいっぱぃ恋しなさい。エッチもね~やりたい盛りでしょう? うふふふん」
ヒカルさん。外の雪景色から、湯が沸くのを待つタカオミの尻に目を移し、遠くから撫でる手つきでニヤニヤしていた。
「ヒカルさん。パン焼くけど食べますか?」
くるり振り向いたタカオミ。
「えっ・・・いいわ、いいわよ、勝手に食べてね。あなたの好物のあれでしょ? どうぞうどうぞ・・・」
ヒカルさんは一瞬眉に皺を寄せ、伸ばしていた手の平を下から上に戻し、押すようなしぐさで答えた。
「そう? 美味いのになぁ」
タカオミはパンを取りだしにマヨネーズを塗った。
そこへ、砂糖をまぶし、ジャリジャリと、透明になるまでこね回した。
----------------
こちらの男もブツブツ言いながら、部屋を歩き回り思案気な様子だったが、
何周かして立ち止まり窓を開けた。
「さみぃ~~~~!」
「チチチ チッチッチッ 猫~デブ猫~にゃんこ~にゃんこちゃ~ん! マド~どこ行った~飯だぞ、めし~。こんな寒いのによく外出れるな。凍死するぞ! はやく帰ってこ~ぃ」
タカオミの部屋の廊下を隔てた向かいの部屋の主。
自室の窓から、縁取りの太い眼鏡と、濃紺のニット帽。綿のはみ出たボロい”半てん”を着た、体格のいい男がのっそり身を乗り出し叫んでいた。
「うぉ~~~ぃ マドレ~~ヌゥ~ さみぃ~~死ぬ~僕が!」
男は外を見渡し来そうにも気配にあきらめ、
身震いし窓を閉めた。が、この小さな扉も閉めてやろうかと思った。
「・・・この入り口からの冷気だけで、僕は死んでしまうかもしれない・・・
デブ猫のせいであの世へ旅立つ僕。
そ~言えば死んだばーさんが飼い猫喰われて発見されたってニュースになってたな。
これも天命か~? ブツブツブツ・・・
今度はそうだな、やっぱ王道ですよ!
トイレの角でぶつかって。
そう、恋は角を曲がってぶつかった男女で始るっと!
うふふふっふ」
閃いた男は、うず高く積まれまくった本だらけの部屋の真ん中で、
小さなテーブルの原稿用紙に向かい万年筆を走らせた。
窓にはめられた小動物用の跳ね上げ扉は、風にあおられ雪を運び揺れていた。
----------------
「おぃ こいつどうした?」ミサキがイリの様子に気づいた。「死んだ?」
「え?」串に肉を差しながら、大きすぎるエプロン姿のアヤン。「なんかブツブツ言ってりゅよイリちん」
ふたりは耳を近づけた。
『カナカナカナカナカナナナナナナ・・・カナカナカナカナカナナナナナナ』
「なんだ? 虫の息ってやつか?・・・ん? 微熱だ。これなら大丈夫 風呂入って飯食えばすぐ治る~」
ミサキは落ちていた電子体温計を拾い、数値を見て、思い出したように言った。
「そうそう! ここんちの、スッゲ~ッぞ♪」
「にゃにが~?」
キッチンに戻ろうとしてるアヤン。
「すげーーーんだ 驚くぞぉ~ここんちの風呂場! あれ~カナはどこ行った?」
「あぁ、なんかないか隣見てくるって。
あ、んでね、冷蔵庫見たらすごい食材の山だったから~お夕飯、
超高級牛筋入りおでんにしたぁ~簡単だしぃ~」
「隣?
まさか、まだ他にも部屋があんの?
一人娘とは言え豪勢なこってすなぁ~そして、それに群がる三人のレディたち。
何! おでん~お~いいねぇ
今日は豪華な引っ越し祝い! 全部カナ持ち~うははははは」
ドアの開く音がした。
「っじゃ~ん。お望みの物持ってきたわよ~ むふふふふ ドンペリピ~ンク」
両手に大きな酒ビンを二本抱え、カナが戻ってきた。
「お帰り~ カナ。わぁ~なんかすごいお酒~ワイン? 少し頂戴、おでんに入れるから」
「これは、有名なシャンパンよぉ~ スパークリングワイン~♪」
カナはシャンパンボトルを、キッチンから取りに来たアヤンに渡した。
「お~ついに来たか。待ってましたねーちゃん。じゃあとりあえず風呂だな。
まずは、イリを”剥く”かぁ~」
ミサキは毛布を引っぱがし、イリの制服を次々脱がし放り投げた。
『ドキドキ・・・最後の二枚・・・フーハァ~ フーハァ~』
下着姿の少女に馬乗りになっているミサキ。
鼻が膨らみ、ヒクヒクしている・・・。
「可愛いよなぁ~イリ
もっと大きくしたくなるおっぱぃ!
まん丸なおちり。
少女とは思えん腰のくびれ・・・
た、たまらん!
美少女ェロスの極み!
そして、
そして、ここ!
この、小さな布の奥・・・
ハァハァ
こんな子ほっとくタカにぃは男じゃない! キンラマ無いだろ?
ハァハァ
あたしなんか変・・・
ゴクリ・・・
チュして、レロレロして、ぐぃっと~
アイリの乙女は、俺が先にいただく~」
ゴン! カ~ン!
「イテ~ッ!」
頭を抱えるミサキに、「アホ! そこまでせんでぇえの!」っと、
アヤンのお玉と、カナの平手がミサキの頭にヒットしていた!
----------------
「しかしまだ他にも酒部屋とかあんの?
ゴージャス過ぎだな一介の女子高生にしては」
ミサキはバスローブを着せたイリを肩で支え、バスルームの脱衣スペースに入った。
「ん?
あたしの家だよ。
このマンションそのものが、全部、あたしんちだけど」
素朴な疑問にシャンパンボトルを持つカナは答えた。
「!?」ミサキは目を見開き、思わずイリを放り投げた!
美少女は壁に跳ね返り床にずり落ちると、口から泡を吹き出した。
----------------
眼鏡男の部屋の向かって右隣に住む人物はかなりの美形で、
小冊子、片手にベッドの上でなにやら卑猥な動きを繰り返していた。
「こうか? こうかな? こうかぁ~~? う~む・・・」
クィックィッ クネクネ クィックイッ クネクネ
ビキニブリーフだけを身につけている彼は、セクシーな自分の体をいかにで刺激的に見せれるか、ベッドに押し倒した誰かを想定し、抱き枕相手に、もっこりした下半身をくねらせていた。
彼は小冊子のページをめくった。
達郎:鞠絵好きだよ。
鞠絵:あぁんダメですよ~今は、お洗濯の途中ですぅ~よぉ~。
達郎:メイド服姿の揺れるお尻に、ムラムラしてきた。
いいだろぅ? 新しいお道具も買って来たんだから、
また君が真っ赤な林檎になるとこを見たいんだ。
鞠絵:ご主人様だめですぅ~。
まだ、まっ昼間~ご近所にますます噂が広がりますぅ~。
達郎:構わないさ! 好きに言わせておけばいい。
僕らは愛し合ってるんだ。愛する行為にはいろんな形がある。そうだろう?
男は、跳ね上がり頭をかきむしった。
ベッドの上に放られた小冊子には”あなたに毒林檎”と、いうタイトルが印字され、
「無理だな。そもそも気が乗らない・・・”エアエッチ”なんて無理! 仕方ない・・・」
そう言うと、裸同然の体に長いコートを羽織り向かいの部屋を叩いた。
ドンドンドン!
「双子~いるか~? シゲミ~! シズオ! いるのは分かってる。また、美味いものオゴルから、手伝ってくれ~居留守しても無駄だ~ たまには外出ろって、二人して引きこもりって凄すぎ」
またドアを叩こうとすると突然ドアが開いた。
そこには、パンクファッションでジャラジャラのアクセサリーに身を包んだ中性的で小太りな、
双子の姉、右頬の真ん中に大きなホクロがある”シズオ”が立っていた。
「シモンちゃん。マド見なかった?」
「うわ。急に開けるな、マド? あぁ、ちっと前にマンションうろついてたような。それよか、頼みがあるんだけど」
コンコンと、小さく何かが叩かれる音がした。
「なにこれ? 野球用のカップ?・・・大きく見せてるの? うぷぷぷぷ」
長いコートをめくり、真っ赤なゴスロリスタイルで、双子の弟”シゲミ”が姉と同じ位置にあるホクロ顔で、シモンの見せかけだけのもっこりあそこ。を、ノックしていた。
「あんた、この素チンのせいで何回失恋したっけ? 大変だね~」
今度は姉が弟と並び、そこを叩いていた。
コンコン。
「うわぁああ~変態双子め! 何してやがる~あ、あと、その話しすんな! 泣くぞここで・・・マジ、泣くぞ・・・あ。てか、どっちでもいいから、相手になってくれ今度の舞台の稽古したい」
「マド連れてきてくれたら考える~♪
あの子この寒空にどこ行ったんだか、心配だわ~餌もあるのに帰ってこないのぉ~♪」
同時に話し、ハモる双子。
「こんなの寒いうちにはいらね~よ。裸でも歩けるぜ ホレホレ~」
シモンは、コートの前を開け閉めし、変態チックに腰を振った。
「北国生まれのお馬鹿ちゃん。あとは任せた~お早いお帰りをぉ~~♪」
双子はまた声をハモらせ、一礼しつつおごそかにドアを閉めた。
----------------
カナんちのバスル~ムは、とても広かった。
サウナ室・水風呂・ゆったりとしたジャグジー、マッサージベッド付きで、
続くベランダに露天風呂まであった。
三人の少女は、まずその広さや設備に驚き感嘆すべきだったが、
この際そんなことはどうでも良く、
バスルームの角に空になったシャンパンボトルが、二本置かれ、
彼女たちが入ったジャグジーから、
アルコールの匂いがプンプンしていた。
「こ、このマンション全部がカナの部屋っていうか、お家なのぉ~
しゅごぉおおおおおぃ~~」
後からバスルームへやってきたアヤンは、
そのことをミサキに聞かされ、
肩をいからせ凄い顔で、口をパクパクさせていた。
「ってことは。ってことは、住んでもいぃ?
俺も。あ。ぃあ、三人とも住まわせろ~~カナ~カナ様!~」
頭にネジリ鉢巻し、水中で土下座するミサキ。
湯の中に頭までつかり息を吐く、カナ。
ブクブクブク・・・
「いいょ~ん」勢い良く顔を出し、平然と言ってのけた。
「うちの両親、超放任主義だし、いつも居ないし
あんたたちが私の家族みたいなもんよ・・・」
「あぅあぅぁうあぅあぃあぃあぃ うんうんうんうん!」
アヤンは卒倒しそうな勢いで、
固まったイリにこの素晴らしいお話を伝えるべく、
彼女の体をブンブン揺すっていた。
そして、そして、ずっと固まったままのアタシに、
一すじの光明が射し、氷を溶かした!
三人の話をずっと心ここにあらずで聞くともなく聞いていたイリ。
このマンションに住める!と、分かった途端
カナの大きな胸に飛びつきすがった。
「カナカナカナカナ~~!
あの人をよろしく~
あの人と幸せにぃ~タカにぃが選んだことなら、
アタシ、アタシ清く身を引くよぉ~
~カナ~~カナカナカナカナ~~~ ミーンミーンミィ~ン
でも、でも、どうかどうかおそばに居させて。ふたりを見守らせて
お願いおねがいぃ~
メイドでも奴隷でもなんでもしますぅ~~
カナカナアカナカナカナカナ カカカカカ~
ビィ~ンビィ~ンビミィ~~ン」
風呂にずっと浸かっていたせいでブヨブヨしてるイリ。
体のあちこちから、水?が、ピューピュー吹き出し、
酔ってるようで全身真っ赤だ。
「おまぃは季節外れの蝉か? ナメクジか! ブロブか? 遊星からの物体Xかぁ~
しっこ飛ばすな!
酔ったな~目を覚ませぇ~」
ミサキの往復ビンタでイリの顔が左右に弾け、
訳のわからない体液がほとばしる!
そして、そして、彼女たちが浮かれているとき。
デブ猫のクマ、
本名マドレーヌの大絶叫が辺りに響き渡っていた!
ミギャアアアアア~!
つづく
この小説は今後、アメブロで公開します。現在その5が読めますので良かったらおいで下さい。
アメーバブログタイトル「亜理紗の前髪」内小説
http://ameblo.jp/shizuku-no-kakera/
*乱筆乱文誤字脱字ご容赦
@このお話しは携帯用に書いておりません。
ブログはこちら>http://ameblo.jp/shizuku-no-kakera/