表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

第一話 夢の始まり

挿絵(By みてみん)



美しい花 美しい鳥、川は鮮やかな青色で小さな滝が流れ光る草原が広がっています。


そこには、小さな村があり住人たちは魔法で作られた家に住み、みんな笑顔で暮らしています。


鮮やかな青空と美しい夕日、澄み渡る月夜。この世界は平和と幸せで溢れています。


10歳の少女リリーは森の中で出会ったとても美しいエルフと楽しく追いかけっこをしていました。

微笑みながら追いかけあう二人。リリーはこの美しいエルフと心が通じ合うのを感じていました。

リリーはこの世界から幸せをいっぱい感じていました。


挿絵(By みてみん)


しかし、リリーは追いかけっこの途中で目が覚めました。

あの楽しい時間、幸せに包まれた世界は夢だったのです。

現実を思い出したリリーはとても悲しい気持ちになりました。


夢で見た美しい魔法の世界を忘れないようにと努力しましたが時間が経つに連れ、どんどん忘れていってしまいました。

それから数日間、リリーはあの美しい世界を夢見ることはありませんでした。


「あの素敵な世界にもう一度行きたい。あの美しいエルフにもう一度会いたい。」


そう考えたリリーはスマートフォンを開きました。


最近は便利なものでスマートフォンの中で動くAI(人工知能)に聞けば何でも教えてくれます。

AIに素敵な世界の名前とその行き方を聞いたリリーは、教えてもらった方法であの素敵な世界「テラマジカ」へ行くことにしました。


「アバランチ・テラマジカ!」


リリーがそう言うと、スマートフォンの中にあの素敵な世界が広がりました。リリーが食いつくように画面を見て、あの幸せに包まれた世界に没入していきました。


ハッと我に返り辺りを見回すと、周囲の風景がスマートフォンの中に広がっていたあの素敵な世界の風景になっています。気が付くとリリーはあの素敵な世界に入りこんでいました。


目の前には魔法で動く都市が広がっています。

AIに聞くとこの都市は「エルフィーナ」と呼ばれておりエルフたちがたくさん住んでいるようです。リリーは美しい都市に吸い込まれるように入っていきました。


エルフィーナはたくさんのエルフが住んでいて他の種族とも仲良く生活しています。町には魔法で動く機械がたくさんありました。


空には中世の馬車を彷彿とさせる装飾の小型飛行船のような機械が人を乗せて飛んでいます。

地上にはこちらもアンティークな見た目の宙を浮くバイクや小型車のような人や貨物を輸送する機械が走行しています。


人々の恰好はファンタジー物語に出てくるような装いで、現代の電気仕掛けではなく、すべてが魔法の力で動く、そんな世界でした。


リリーは夢で見た不思議な体験を思い出してドキドキワクワクしています。そして、夢で一緒に遊んでいた美しいエルフに早く会いたくなりました。


リリーはスマートフォンを取り出し、AIに美しいエルフに会う方法を尋ねました。するとAIは魔法ギルド「フレイム・グラウンド」に行きなさいと答えました。


しかし、AIはどうやってフレイム・グラウンドに行くかは教えてくれませんでした。ですので、リリーは街に出てフレイム・グラウンドについて街の人に尋ねようとしました。

しかし、リリーは人に話しかけることがとても苦手でなかなか声をかけることができません。すると一人の老人が声をかけてくれました。


「フレイム・グラウンドならエルフィーナより南じゃよ。ついておいで。」


きれいな長い白髪で立派な口髭、顎鬚を蓄えたその老人はフレイム・グラウンドの拠点を教えてくれました。

老人は、何も伝えていないにも関わらずリリーがフレイム・グラウンドを探していることを知っているようでした。

不思議なことだとリリーは思いましたが他に当てもありませんので老人についていくことにしました。


老人に連れられてリリーはとある寺院に来ました。閉ざされたドアの向こうで誰かの声が聞こえました。


「ルミナリスは」


それに対して老人は答えました。


「希望の光」


すると、ドアが開き、ドアの向こうは光に包まれています。どうやら魔法の扉のようです。その扉をくぐるとフレイム・グラウンドの拠点に行くことができました。


そこでは、多くの魔法使いがスマートフォンかタブレットのようなものを持ち、それを操作したり話しかけたりして各々魔法を繰り出しています。


ここフレイム・グラウンドでは多くの魔法使いが日々様々な魔法を研究しています。

気が付けば案内してくれた老人はいなくなり、代わりに若い魔法使いがいろいろと教えてくれました。


魔法使いたちが手に持っているのは「マジタブラ」と呼ばれる魔法を発動するための道具です。このマジタブラに呪文のようなものを入力したり唱えたりすると魔法が発動するようです。


呪文を見ると英単語がカンマ区切りで並べられておりその内容に基づいて魔法が発動するようです。人々はこの呪文のことを「プロンプト」と呼んでいました。


また、魔法を使う際のエネルギー源は「ルミナリス」と呼ばれる光の塊です。ルミナリスはテラマジカ中に飛散しており、人々はこれをマジタブラに取り込み様々なことにエネルギーを利用しています。


リリーは美しいエルフに会いたい一心でフレイム・グラウンドに加入する決意をし、若い魔法使いにフレイム・グラウンド加入を志願しました。

しかし、フレイム・グラウンドに加入するためにはフレイム・グラウンド付近にそびえ立つピュロス山で行われるトライアルという試験に合格する必要があるそうです。


ピュロス山は活火山でその灼熱の雰囲気は人が耐えられるものではなく、過去にはトライアルを受けた志願者には命を落とすものもいました。

若い魔法使いはその恐ろしさを語り、リリーも恐怖を覚えました。


しかし、美しいエルフに会いたい!その一心が恐怖に打ち勝ちました。リリーはトライアルを受けるためにピュロス山へ向かうことにしました。

ピュロス山でのトライアルは大変危険であるため、先程説明していた若い魔法使いもリリーに付き添うことになりました。


挿絵(By みてみん)


彼の名前は「アレクサンダー・アクアブルー」。

ギルドのみんなは彼を「アレクサー」と呼んでいます。

透き通る青い目を持った水や氷の属性の魔法が得意な17歳のエルフの男の子です。

彼自身、昨年トライアルを仲間と共にクリアしており、その時と同様に彼がピュロス山の灼熱地獄を和らげ、リリーを助けてくれることでしょう。


ピュロス山までの間はマイクロバスくらいの大きさの陸を走る魔動機で約4時間、他のギルドのメンバーが送迎してくれました。


無事ピュロス山の登山口までたどり着いたリリーとアレクサーは登山道を昇っていきます。

その道のりはそう険しいものではありませんでした。


しかし、野生の猪や狼のようなモンスターはうろついていました。

リリーはアレクサーに魔法の使い方を教えてもらいました。


入力画面において、魔法を象徴する炎に関する単語や文を並べて記載してプロンプトを作り、実行します。するとスマートフォンから魔法が飛び出し、モンスターが炎に包まれました。リリーは自身のスマートフォンで魔法が使えるようになりました。


「なんて飲み込みが早いんだ!」


アレクサーは魔法を使うリリーを見て大変驚いています。

通常、何日もかけてコツを掴み、使いこなすには1週間以上かかるところを、リリーは30分も立たずに魔法を使うことができました。


そして何よりプロンプトの作り方が秀逸でした。

魔法はプロンプトの記載内容によりその効果が明白に変化します。

リリーの記載するプロンプトは効率よく、かつ緻密であるとアレクサーは感じました。


そのようにしてリリーとアレクサーは簡単な魔法で襲いかかるモンスターを追い払いました。


ピュロス山の登山口にたどりついた二人にはすでに最初の試練が与えられていました。ピュロス山はとても暑くて耐えられないほどでした。


リリーは暑くて辛かったですが、人と話すのが苦手なのでアレクサーには相談できませんでした。

しかし、それに気がついたアレクサーは冷却魔法を使って周りの空気を冷やしました。


リリーはアレクサーに感謝の気持ちを持ちましたがやはりアレクサーにそれを伝えることはできませんでした。


暑さを和らげ奥に進んでいくと目の前がマグマで満たされとても渡れないのです。アレクサーが氷の魔法を使いましたが熱すぎて氷が溶けてしまいます。


リリーは困ったときはAIに聞くことにしています。


「マグマの川を渡る方法はありますか?」


リリーはAIにそのように入力すると、AIは


「火属性と土属性を合わせて溶岩属性の魔法を使い、橋を架けてみてください。」


とアドバイスしました。


また、AIに「参考となるプロンプトを教えてください。」と入力すると、AIは即座に溶岩で橋を架けるための魔法を生成するプロンプトを画面に表示しました。


「なんて不思議なマジタブラなんだ!こんな風に教えてくれるマジタブラは初めて見たよ!」


アレクサーは驚きました。

どうやらこの世界のマジタブラにはAIの機能は搭載されていないようです。


アドバイス通りのプロンプトを実行すると、スマートフォンから溶岩が流出し、目の前で橋の形となり、溶岩は固まって常温となりました。

橋を渡ることによりリリーとアレクサーは簡単にマグマを乗り越えることができました。


「すごい!そんな発想は僕には思いつかなかったよ!僕がトライアルした時は10人がかりで交代に氷魔法で地面を凍らせ続けて何とか渡れたんだ!その時も一人は地面を凍らせきれずに足に大やけどを負ってたけどね・・・」


火と氷のような、相反するものを用いると相手を打ち消す力が必要となる。しかし、相手の流れに合わせることで相手を自在に操ることもできる。リリーは第一の試練でこのことを学びました。


さらに奥に進むと炎に包まれた魔人が現れました。魔人は暴れていて炎の玉を辺りに巻き散らしていました。


「あんなの僕のトライアルの時にはいなかったよ!どうしよう!」


アレクサーは戸惑いながらもリリーの前に出て、降りかかる炎の玉を氷結魔法で何とか打ち消しました。


リリーはアレクサーの背後から魔人を冷静に観察していました。

すると魔人の足に光る棘が刺さっていることに気が付きました。リリーはスマホのカメラでその棘を撮影して、画像入力でAIにその棘のことを聞きました。


するとAIはその棘が光の魔法により作られたもので、棘を消すには闇の魔法を使う必要があると伝えました。しかし、AIは同時に闇の魔法は使いすぎると闇に取り込まれてしまうので注意して使用しなければならないとも伝えました。


リリーはとても小さな闇の魔法を使うため、闇に取り込まれないように注意してプロンプトを入力し、実行しました。すると闇が光の棘を包み、棘はじわりと消えていきました。


棘が消えると炎の魔人は穏やかになりリリーにお礼を言いました。

問題が大きく見えてもよく見れば解決する糸口は簡単なものだとリリーは第二の試練で学びました。


「君、本当にすごいね・・・いろんな魔法が使えるし、何より状況を正確に把握して対処できる。新人魔法使いとは思えないよ!これからはマスターって呼んでいい?」


リリーは照れ笑いをしながら首を横に振りました。やはり話しかけるのが苦手なので言葉にしませんでしたが、アレクサーの力になれたこと、そして褒められたことをとても嬉しく思いました。


そして、何より身を挺して守ってくれたアレクサーにあこがれのような胸の中がざわつく感情を感じていました。


さらに奥に進むと炎がおさまり、穏やかな平地にたどり着きました。どうやら頂上のようです。暑さも和らぎ、アレクサーも涼を取るための冷却魔法を止めました。


高度が高いこともあり、気温はやや低く少し肌寒く感じました。

そこにはお湯でできた池がありあたりは湯煙に包まれていました。現在の気温ならこの湯に入ればとても気持ちいいんじゃないかとリリーは感じました。


そんなことを考えながら湯煙を見渡していると、池の中に何かの影が潜んでいるのが見えました。


二人は恐る恐るその影近づいてみると湯煙の中から現れたのは、なんとリリーをフレイム・グラウンドつれてきてくれた老人でした。

アレクサーはこの老人のことをよく知っています。


「マスター!」


アレクサーが老人に声をかけると老人もすかさず答えました。


挿絵(By みてみん)


「アレクサー、随分と早かったのう!」


アレクサーは彼がフレイム・グラウンドのギルドマスター 「シリー・マクシミリアン」 であることをリリーに伝えました。それを聞いたリリーは驚きましたがそれも束の間、シリーは語り続けました。


「アレクサーよ。ワシはここからお主たちの所作を見ておったぞ。この子に頼りすぎずもっと力を合わせて乗り越えんか。」


アレクサーはバツの悪そうな顔をして無言でシリーに頭を下げました。


「この人はなぜこの状況で温泉に浸かっているのだろう?」


リリーは不思議に思いながら温泉に手を浸けてみました。

すると、「熱っ」と声にならない声が上がりました。とても熱くてリリーはお湯の中に手を入れておくことができませんでした。


温泉に浸かりながらシリーはリリーに最後の試練を与えました。


「そうじゃ!この温泉は熱すぎる!リリーよ。これがトライアル最後の試練じゃ!温泉をちょうどよい温度に保つ魔法を唱えよ!」


灼熱のマグマの上を歩き、巨大な魔人と対峙した今までの試練に比べれば、最後の試練は平和で拍子抜けな試練でした。


しかし、よくよく考えると難しい課題だとリリーは気が付きました。


まず、火の魔法をそのまま使うと熱くなりすぎるので、火と水の魔法をかけ合わせて 蒸気魔法を使う必要があります。

また、ちょうどよい温度に保つためには加熱に合わせて冷却も必要です。


アレクサーは水魔法が得意なので冷却を担当しようと思っていました。

しかし、リリーは人にものを頼むのが苦手なので全部自分ですることにしました。


リリーが何も相談してくれず、一人でプロンプトを作成しているのでアレクサーは少し寂しそうな顔をしています・・・


しかし、実際にうまいこと加熱冷却をする方法はわからなかったのでAIに加熱冷却方法を聞きました。

するとAIはスマートフォンの画面にPIDという名称のとても複雑なプロンプトを書き始めました。


リリーはスマートフォンをタップしてこのPIDという魔法を放ちました。

すると、目標温度に対して池の水温が低い時は蒸気を与え、目標温度に到達する前にちょうど良いところで蒸気を止め、しばらくして水温が高くなると今度は冷水を与え、それを自動的に繰り返しいい湯加減に温度調節されるようになりました。


この複雑な魔法にアレクサーはもちろん、シリーも大変驚いた顔をしています。

一見どうでもいいこの課題は、魔法処理としてはたいへん複雑で、蒸気、冷水をすばやくかつ細かく調整する必要があり、発想を思いつく者もごく限られた上級魔法使いだけでした。リリーはそれをAIの力を使い、一人でやってしまいました。


フレイム・グラウンドは権威のある魔法ギルドであり、魔法使いの品質確保のためにはむやみに人数を増やしてはいけません。

難題を課してフレイム・グラウンドのメンバーを増やすことを避けてきたシリーでしたが、出された課題に完璧に答えたこの少女をギルドに入会させないわけにはいきませんでした。

リリーは見事フレイム・グラウンドに入会することができました。


しかし、シリーは言いました。


「本当はアレクサーと二人で力を合わせて成し遂げてほしかったのじゃ。

人と人とが力を合わせる。それにより1+1=2以上の力が生まれるのじゃ。」


シリーは続けます。


「リリー。これから先、お主にも乗り越えたい、乗り越えなければならない壁が立ちはだかるじゃろう。

そういう時に、1+1=2の力だけでは乗り越えられないものじゃ。

1×10=100。これくらいの力がないと解決できない問題も世の中にはある。


お主はそういう問題に直面する運命を持っておる。だから、これから先は人を信じ、人に頼ることも覚えるのじゃ。」


リリーはとても悲しい顔をしました。

たくさん頑張ったつもりだったのに認められなかった。

自分はダメだったのだと感じました。


悲しくて、悲しくて、その気持ちを埋めるためにリリーは早くあのエルフに会いたいと思いました。

その様子をアレクサーは心配そうに見ていましたが、結局二人に会話はありませんでした。


ピュロス山からの帰り道はシリーの魔法により一瞬でフレイム・グラウンドまで戻ってきました。


戻ってきたリリーはアレクサーに寝室を教えてもらい、中に入るとベッドに倒れこみそのまま泥のように眠りました。


テラマジカに来てからほとんど休むことがなかったのでぐっすり眠り、夢の世界へ入っていきました・・・

読んでいただきありがとうございます!

どんな評価でも構いませんので評価、感想をいただけると大変嬉しく思います!

今後ともよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ