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極上の料理店

作者: 岸亜里沙


「本日ご予約の金子(かねこ)様ですね。お待ちしておりました。お席にご案内致します」


ブリオーニの高級スーツに身を包んだウエイターが、入り口で金子を出迎える。


8年前に予約を入れ、ようやく来店の日を向かえた超高級レストラン。

銀座の一等地に店を構え、芸能人や著名人でさえなかなか足を運べない幻の店だ。

1日たったの6組までしか予約を受け付けておらず、今では13年待ちだと言われている。


「金子様、本日のみ特別な食材がご用意出来ておりますので、是非ともそちらをお召し上がりください。(わたくし)も初めて目にする食材でございます」


ウエイターは案内しながら、金子に話しかける。


「それは楽しみだ。8年も待った甲斐があったというものだ」


大理石の長い廊下を歩き、一番奥の個室へと通される。

金子が席へ着くと、テーブルに用意されていたグラスに、ウエイターがドン・ペリニヨンのシャンパンを注ぐ。


「ただいまお料理をお持ち致します。少々お待ちください」


ウエイターが部屋を出ると、金子はシャンパンを口にしながら料理を待った。


金子には、一体どのような料理が出てくるのか想像もつかなかった。金に物を言わせ、世界中の高級食材を口にしてきた金子でさえ、この店の料理は未体験だ。


「楽しみだ」


数分後、ウエイターが料理を運んできた。

サラダ、スープに、付け合わせのパン、そしてメインディッシュのステーキ。


「本日、デザートもご用意しておりますので、そちらは食後にお持ち致します。どうぞごゆっくりお召し上がりください。(わたくし)はお部屋の外におりますので、ご用の際はなんなりとお申し付けください」


そう言うとウエイターは部屋を出た。


金子は早速スプーンを手に取り、スープを口にしてみる。

一口飲んだ金子は衝撃を受け、思わず呟く。


「な、なんだこのスープは?美味(うま)い」


今まで感じた事のない不思議な味。

あまりの興奮に、金子は脳内でドーパミンが放出されるのを感じた。


スープを時間をかけて、味わうように飲み干すと、金子はサラダに手をつける。

フォークで野菜を口に運ぶが、これは普通の野菜のようだ。だがそのサラダの上には、これまた金子が見たことのない食材が乗っていた。

青い色をしたゼリーのような物。

見た目はどことなくグロテスクだが、口に含むとパチパチと弾け、芳醇な余韻だけが残る。


「これも初めて食べる食材(もの)だ。だが美味(うま)いぞ」


金子は一心不乱にサラダも食べ終え、メインディッシュへと向かう。


分厚めに切られたステーキ肉にナイフを入れ一口食べた瞬間、金子は目を閉じ頭を抱え込む。


「なあ、すまんがシェフを呼んできてもらえるか?」


金子は部屋の外で待機していたウエイターに声をかける。


「畏まりました。少々お待ちください」


ウエイターが呼びに行くと、すぐにシェフがやって来た。


「金子様、(わたくし)が本日の料理を担当しました荒井(あらい)でございます。どこかお気になった点がございましたでしょうか?」


「いや、どの料理も美味だ。だから教えてもらいたい。この食材は一体なんなんだ?」


金子が言うと、シェフは笑って答えた。


「それはそれは、大変に貴重なものですよ。(わたくし)も調理したのは、初めてです」


「まさか、これは、人間(ひと)の肉か?自分が食した事が無い肉は、それくらいだ」


「いいえ、もっと貴重なものです」


「もっと貴重なもの?」


「はい。本日の食材は、アメリカのネバダ州にある空軍基地、エリア51から空輸されました新鮮なグレイ宇宙人になります」


金子は口を開け、唖然とした。


「宇宙人?」


「ええ。エリア51の職員とは何十年も前から交渉をしておりました。宇宙人が死んだ際には、その遺体を我々に譲っていただけないかと頼んでおりました。そしてそれが昨夜、偶然届きましたので、本日の食材に使わせていただきました。スープは宇宙人の骨と内臓から出汁を取りました。サラダに添えてあったものは、脳髄になります。そしてメインディッシュのステーキは、宇宙人の胸の辺りのものでございます」


金子は言葉を失った。

まさか自分が宇宙人の肉を喰らうとは、思ってもみなかった。

だがそれ以上に、味に感動したのも事実だ。


「またいつか、宇宙人を食べられますかね?」


金子が(たず)ねると、シェフはまた笑って答えた。


「難しいでしょうね。アメリカ軍が保有している宇宙人も残り数体だけだそうです。それにグレイ宇宙人の場合、寿命は500年近くになるそうです。ですので、次いつ手に入るかは、我々にも分かりません。今夜ご予約されていたお客様は、本当に特別な瞬間に立ち会えたのでございます」


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