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目覚め2

テオドールの意識が戻った後、今度はわたくしが魔力切れを起こして倒れてしまった。

アリアになって初めて魔法を使ったので、自分の魔力量もわからず加減が出来なかったのだ。


テオドールが大怪我をしたと、オリバーから聞いて駆け付けた親達は、怪我をしているはずのテオドールがわたくしを抱きかかえていて大変混乱したようだった。


その後は急いで主治医を呼び、テオドールの傷口が完全に塞がっていることと、わたくしの魔力切れ、そしてテオドールの証言でわたくしが光魔法に目覚めたことが判明した。

魔力切れから目覚めたわたくしに、大喜びの両親がそう説明してくれた。


ちなみに木登りをしていたことで、オリバーは父からゲンコツと、母からきついお説教を受けていた。


テオドールの母であるグルエフ夫人は、さすがに他人の家で怒るような真似はしなかったが、


「テオドール。私からのお話は帰ってからゆっくりいたしましょうね?」


全く目が笑っていない笑顔のセリフに、テオドールは青い顔で震えていた。

少しテオドールに同情してしまうほどだった。


「アリアちゃん。テオドールを救ってくれて本当にありがとう。あなたは息子の命の恩人だわ」


わたくしには何度も感謝を伝えてくれた。


「アリア。本当にありがとう」


テオドールにも真っ直ぐな瞳で見つめられながら、お礼を言われた。

わたくしは無事にテオドールを救えたことに心の底から安堵した。


◇◇◇◇◇◇


グルエフ親子が邸宅を去った後、今度はわたくしの光魔法について、翌日にゆっくり話し合うことになった。


この世界には魔力を持つ人間も持たない人間も居る。


魔力を持つ人間はだいたいが子供のうちに魔力が発現する。

しかし、魔力の種類も量も、個人差が大きい。

魔力の種類は多少遺伝が関係しているようだが、それも確実ではない。

また、全く魔力を持たない両親から、強い魔力を持つ子供が産まれてくることもある。


そして、癒やしの力を持つ光魔法はかなりの希少魔法だ。

モンフォール王国では広く聖女信仰が根付いており、聖女になれるのは必ず光魔法の使い手で、光魔法を使える者に憧れを抱く者が多かった。


(あの男爵令嬢と同じ光魔法だなんて……)


わたくしは自室のベッドに寝転んだまま、嘆息した。


テオドールが怪我をした時、自分の掌に集まった魔力の淡い光を見て、すぐに光魔法だと気付いた。

なぜなら、イザベラが学園で何度も目にしていたものだったから。


(学園のあちこちで光魔法を披露していましたものね……)


ブラッドの横で光魔法を披露しては、周りから称賛を受け、ブラッドも我が事のように誇らしげな顔をしていた。


そして、イザベラは氷魔法の使い手だった。

しかし、魔力量はたいしたことはなく、氷の粒を出したり、身体の周りに冷気を纏うぐらいしか出来ない。

ブラッドにはよく光魔法と比べられ、蔑まれた。


それなのに、今世で目覚めたのは光魔法。


(髪色といい、光魔法といい、あの男爵令嬢……あら、男爵令嬢の身分も一緒だわ)


「はぁ……」


あの男爵令嬢との共通点をさらに見つけてしまい、思わず溜息が出る。


しかし、国が変われば信仰も変わる。

このミズノワール王国は聖女信仰ではなく、唯一神であるラクトフォルス神を信仰している。


(この国で、光魔法の使い手はどんな扱いを受けるのかしら……)


不安な気持ちのまま、眠りについた。


◇◇◇◇◇◇


翌朝、朝食の後に両親と今後について話し合う。

わたくしは一番気になっていたことを聞いてみる。


「あの、わたくしがひかりまほうをつかえると、このくにではどうなるのでしょう?」

「あら、アリアちゃんは難しいことを聞くのね?」


母はわたくしと似た瞳を大きくして驚いている。


「そうね、簡単に言うと……就職率がいいわ」

「しゅうしょくりつがいい……」


まさかの回答に思わず復唱してしまう。 


「あら、ちょっと難しかったかしら?」


違う。

言葉の意味がわからなかったんじゃない。


「大人になってお仕事をする時に、困らないってことよ。いろんなお仕事をするチャンスがあるの」

「そうなのですね」

「あとは、そうね……女の子ならお嫁さんにしたいって、いろんな男性からモテモテになるわ!」

「そ、そうですか」

「ただでさえ可愛いアリアがさらにモテモテ……」


なぜか父が勝手に落ち込んでいる。


ミズノワール王国でも、光魔法に対する待遇は悪くないようだ。


「それでね、まずは神殿に行ってアリアちゃんが本当に光魔法を使えるのか確認してもらって、確認が取れたら登録しなくちゃならないの」


その後、父と母から詳しく聞いたところによると、この国では魔力に目覚めると、神殿に登録をしなくてはならない。

そして先程の就職率の話になるが、聖女信仰がなくとも光魔法自体が珍しく、そして役に立つ魔法だと認識されており、仕事も婚姻も引く手あまただそう。


なので、さっそく母に連れられて、領地にある神殿に馬車で向かうことになった。


◇◇◇◇◇◇


領地の神殿に到着すると、その建物を眺める。


モンフォール王国にも神殿があったが、それは聖女を祀っているからか、とても華美な造りをしていた。

しかし、この神殿は装飾がほとんど無く、質実剛健な造りをしている。


(同じ神殿でも、信仰によってこうも違いますのね)


受付をした後、しばらくすると名前を呼ばれ、母と共に神殿の奥の部屋へと案内される。

そこには、白銀の髪に豊かな髭をたくわえた神官が待っていた。

彼はこの神殿の神官長だという。


「では、お嬢さん。この石に両手で触れて、少し魔力を流すことはできるかな?」


優しげな顔と声の神官長に言われるまま、わたくしは目の前に置かれた、丸くて大きい透明な水晶のような物にそっと両手で触れた。

ゆっくりと魔力を流すと、水晶の中にキラキラとした細かい光の粒が舞う。


「おお!これは珍しい。お嬢さんは光魔法の持ち主ですな」


そう言うと、神官長は後ろに控えていた若い神官に指示を出した。


「では、お嬢さんが光魔法に目覚めたことは確認が取れましたので、正式にこちらに登録させていただきます」

「あの、神官長様。我が家には他に光魔法の使い手がおりません。何か娘が注意するようなことはありますでしょうか?」

「ふむ。まず、このような幼い年齢で魔法に目覚めること自体が珍しい。それは、このお嬢さんの魔力量がそれほどに膨大だという捉え方もできますが、何かのきっかけで、本来より早くに目覚めてしまった可能性の方が高い」


神官長は自身の髭を撫でながら話し続ける。


「なので、魔力量が安定する10歳頃までは、あまり魔法を使わせないほうが良いでしょう」

「わかりました。ありがとうございます」


母が礼を告げると、神官長はわたくしに向き合い膝を突き、わたくしの目の高さに合わせる。


「お嬢さん、魔法はキラキラして綺麗だけど、使い過ぎると倒れてしまうこともあるからね。使う時は必ずお父さんとお母さんに聞いてから使うんだよ」

「わかりました」


わたくしの返事を聞くと、神官長は人の良さそうな顔でにこりと優しく微笑んだ。


神殿は、王家から独立した存在であり、民の信仰と寄付により成り立っている。

それ故に、神殿内部の腐敗や神官の汚職が問題になることも多い。

神に仕える身でありながら、俗物的な人物も数多存在するのだ。

そんな中、この神官長は職務に忠実な人物のようだ。


「ところで、私にはお嬢さんと同い年くらいの男の子の孫が居てね。良かったらその孫と婚約…ゲフンッゲフンッ、いや、お友達になってくれないかな?」

「……」


前言撤回。

この神官長も俗物的な人物だった。


わたくしは無言で遠い目になるしかなかった。


全ての神官がこんなではありません。

た、たまたまです……。

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