断罪のあと3(sideブラッド)
読みに来ていただき、ありがとうございます。
今回もモンフォール王国側のお話になります。
※今回もブラッド視点になります。
(私が殺した?)
「何を言う!私は殺してなどいない!」
「ええ、直接手を下したのは殿下ではないのでしょう」
「……わかっているなら、なぜ?」
「しかし、殿下。あなたが卒業パーティでイザベラにした仕打ちをお忘れですか?」
「あれは、イザベラがリリーに……」
「なぜ、あのような場で婚約破棄を?しかも、陛下や私も父も不在の時を狙って」
「それは……」
私は思わずセオドアから視線を外してしまう。
「あんな大勢の前で婚約破棄と貴族籍の剥奪を宣言されたイザベラがどうなるのか、殿下は何もお考えにならなかったのですか?」
「……」
「陛下の不在時に、王太子である殿下の宣言により、イザベラはあの瞬間に王家の庇護を失いました。そのせいで殺されたのです」
セオドアの紫の瞳が爛々と危うく輝く。
「まさか、そんな、命を落とすとは……」
ただ、リリーと結ばれるために、邪魔なイザベラを排除したかった。
そんな、命を奪うことまでは望んでいなかった。
「殿下が何を言おうと、もうイザベラは帰って来ません。そして、我が公爵家と殿下との契約も破棄されました」
「契約?」
「はい。殿下とイザベラの婚約をもって、我がトゥールーズ公爵家は殿下を王太子として支持する。そういう契約です」
「な、なんだそれは?」
(トゥールーズ公爵家は父上の忠実な臣下だ。それならば第一王子である私を支持するのは当たり前のはずだろう?)
「まさか殿下は、自分が第一王子だから王太子になれたとでもお考えですか?」
セオドアが薄く笑う。
「陛下だって元は第三王子でしたよ?」
(それは第一王子と第二王子が相次いで亡くなったからで……)
そこまで考えて、自分で自分の考えに背筋がゾクリとする。
「王位継承権を巡って骨肉の争いが起こるなんて、よくあることです。殿下も歴史の授業で学ばれたでしょう?」
「それは……」
(たしかに学んだ。しかし、それは教科書の中の話で……)
「父も、次期当主である私も、今後はブラッド殿下を支持することは有り得ません」
「……」
セオドアはまた元の抑揚の無い声に戻る。
そして、今度はちらりと私の側近達に目を遣る。
「ああ、君たちも逃さないよ?」
彼等は何も言わずに、ただ青い顔で俯いている。
「どうやら君たちは自分の父親に詳しい説明と今後のアドバイスを受けたようだね?でも、今更もう遅い」
「どういうことだ?」
「彼等は殿下と距離を置くことで、自分達だけ逃げようとしましたのでね。陛下に頼んで登城命令を出してもらいました」
「登城命令?」
「ええ。陛下もイザベラを失った我々には同情的ですから、それぐらいの希望は叶えてくださいました」
(まさか、揃って体調不良というのは、そういう……)
ブラッドが彼等を見ても、やはり俯いたまま何も言わない。
つまり、セオドアの言った通りなのだろう。
「我がトゥールーズ公爵家と、それに連なる貴族達の支持を失った殿下がいつまで王太子のままで居られるのか……楽しみにしておりますよ」
そう笑いながら言った後、セオドアは再び頭を下げてから、私達の横を通り過ぎる。
私はセオドアの言葉の意味を今更ながらに理解した。
そして頭には警鐘が鳴り響く。
(駄目だ……。このままでは……)
リリーの家は男爵家で、たいした力はない。
(もっと力を持つ貴族と縁を結ばなければ……)
幸か不幸か、私はまだリリーと婚約を結んでいない。
愛するリリーには申し訳ないが、今から別の有力貴族の娘と婚約を結び、王太子としての地位を固めなければ……。
しかし、この時のブラッドは気付いていない。
10年もの間王家に尽くした婚約者に、あんな仕打ちをした挙げ句、無惨に殺させた男の元に娘を嫁がせたがる貴族など居ないことを。
なにより、王太子としての地位が危ぶまれているブラッドと縁を結び、沈むとわかっている泥舟に共に乗ろうとする貴族など居るはずがないことを。
結局ブラッドは、卒業パーティでの自身の宣言通り『真実の愛』を貫く道しか残されていなかった。
今回でブラッド視点は終わり、次回からアリア(イザベラ)視点に戻ります。
今回でストックが尽きてしまいましたので、更新間隔が2日に1回になります。
先週から夏休みに入りまして、なかなか書く時間が取れなくなってしまいまして……。すみません。




