表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/59

番外編 兄(sideオリバー)

読んでいただき、ありがとうございます。


本編を完結しましたところ、感想欄にて多くの読者様から『セオドアとの再会の後日談を』という意見をいただき、番外編として投稿することにしました。

ただ、本編の最終話のままが良かった。と思う読者様もいらっしゃると思いますので、どちらの終わり方が良いかは皆様にお任せしたいと思います。


※今話はオリバー視点です。


よろしくお願い致します。


※誤字脱字報告ありがとうございます。

「要人警護?……ですか?」

「うん。僕とオリバー君のペアでの任務だよー」


王立魔術師団団長の執務室で、ジョシュア団長から新しい任務について説明を受けていた。


この国の東側にある港町ロンバルに到着する要人を、王城まで無事に送り届けるのだ。

そして、この国に滞在している間の護衛も務める。


ロンバルから最寄りのポータルまで馬車で約2時間、そしてそのポータルで団長の空間魔法を使い、王城まで移動するらしい。


「モンフォール王国の元宰相閣下なんだけどねー」

「へぇ、モンフォール王国ですか」

「君、知ってるのー?」

「いや、全然知らないですね」

「だろうねー」


(なんでそんな国の元宰相が?)


来月に行われるレオンハルト王太子殿下の息子、アーロ王子殿下の3歳の誕生日パーティに、ルカ殿下が個人的に招待をしたらしい。

王族の考えることはよくわからない。


「資料を渡しておくから、失礼にならないようにモンフォール王国のことを少し勉強しておいてー」

「わかりました」

「敵と戦うのも大事だけど、誰かを守るのも魔術師団の仕事だからねー。経験積むことも大事だよー」


俺は王族の警護や王城の警備など、いつ訪れるかわからない有事に備えて、じっとしている任務があまり好きではない。

どちらかというと、戦いの中に身を置くほうが向いているのだ。


しかし、そんなことはとっくに団長に見抜かれてしまっている。

正直なところ要人警護なんて面倒だとしか思わないが、仕事ならば仕方ない。

俺ももう大人なんだ。自分の感情は隠して任務に徹するべきだ。


「了解です」

「うん。そんな嫌そうな顔しても決定事項だからー」



◇◇◇◇◇◇



警護当日、船から降り立ったのは銀糸のような長い髪をひとつに束ね、紫色の瞳をした背の高い男だった。

歳は父と同じくらいだろうか?

若い頃はさぞかし美青年だったであろう整った顔立ちに、引き締まった身体をしている。


「長旅お疲れ様でしたー。本日、閣下の警護を担当させていただく王立魔術師団のジョシュア・ホラークですー」

「オリバー・ローレンです」


俺達は彼に向かってそう挨拶をし、頭を下げる。


「セオドア・トゥールーズだ。本日はよろしく頼む」


こちらをしっかりと見据えながら、セオドアは落ち着いた口調で挨拶を返してくれた。

元宰相だと聞いていたが、態度に尊大な様子は見受けられず、その物腰はずいぶんと柔らかだった。


セオドアは今回は外交としてではなく、ルカ殿下の友人として個人的な招待を受けたという。そして、それを理由に公爵家の護衛を最低限しか連れて来ていなかった。


そのまま用意していた馬車の中へと案内し、セオドアの隣には団長が、その向かいには俺が座った。


そして、馬車が走り出すと無言の時間が訪れる。

ただ、馬車の車輪の音だけが室内に響く。


(やっぱ、密室は気まずいよな……)


出会ったばかりの初対面の相手、しかも他国の元宰相と数時間も馬車という密室の中で過ごすのだ。


(あー、早く着かねぇかなぁ。この人抱えて風魔法で飛んでったほうが絶対早いし安全だって)


俺はそんなことを考えながら、時間が早く過ぎ去ることを心の中でひたすらに願う。

すると、向かいのセオドアから視線を感じた。


(なんだ?)


セオドアに視線を向けると、彼はクスリと笑った。


「ずいぶん気を遣わせてしまったようだな。ポータルまで数時間はかかるのだろう?もっと楽にしてくれて構わないよ」


その優しげな口調に、こちらの気も緩む。


(なんだ、いい人か)


俺は、しゃんと伸ばしていた背筋の力を抜き、背もたれに体重を預ける。


「そうですか?じゃあお言葉に甘えます」

「オリバーくーん?」


目が細すぎて確信は持てないが、たぶん団長がこちらを睨んでいる。


「だって、楽にしてくれって言われましたけど?」

「そうだけどー。ねぇ?本音と建前ってわかるー?」


そんな俺達を見ながら、セオドアはやはりクスクスと笑っていた。


「いや、私も君たちが楽にしてくれたほうが過ごしやすい」

「ほらっ!閣下もこう言ってるじゃないですか」

「はぁ……ほんともう、君って子はー」


楽にしてくれと向こうから言ってきて、その通りにしただけなのに。

団長はなぜか呆れた様子で、がっくりと肩を落としている。


「君は……ローレン君と言ったね?」

「はい」

「この国では貴賤を問わずに実力だけで魔術師団に選ばれると聞いたんだが、それは本当なのかい?」


なんと、セオドアから話題までも振ってくれた。


(やっぱ、いい人だな)


俺は、そう確信する。


「そうですね。魔術師団は貴族も平民もごちゃ混ぜで、ただ強い奴が上にいきます」

「それは凄いな。我が国では貴賤は問わないと言いながら、実際は貴族ばかりが騎士団や魔術師団に所属している」


セオドアは心底感心した様子だった。


「うちは団長も平民なんですよ」

「まあ、さすがに団長になると決まった時に、貴族の家の養子に入ったけどねー」

「アリアと一緒ですね」

「アリア?」


団長が元平民と聞いて驚いた顔をしていたセオドアが、今度は俺の言葉に反応した。


「アリアは俺の妹なんです。うちは男爵家なんですけど、辺境伯家に嫁ぐことになったんで公爵家の養女になったんですよ」

「そうか、ローレン君には妹さんがいるんだね」


セオドアはそう言って優しげに微笑んだ。


(ん?)


なぜか、団長から意味ありげな視線を感じる。


(俺、なんか変なこと言ったか?)


団長が元平民というのは周知の事実だし、本人も全く隠していない。

あとはアリアの話だが、こちらも周知の事実で、話しても特に問題はないはずだ。


(まあいっか。………あっ!)


「そうそう、うちの妹は光魔法の使い手なんですよ」

「光魔法?」


俺は団長に渡された、モンフォール王国の資料に書いてあった内容を思い出したのだ。

面倒で最初の数ページしか読んでいなかったが、たしか光魔法の使い手を聖女として国民が信仰していると書かれていた。


しかし、俺の話を聞いたセオドアの眉間には深いシワが刻まれる。


「あれ?光魔法はお嫌いですか?モンフォール王国って光魔法が好きな国じゃなかったでしたっけ?」

「正しくは、聖女信仰が広まってる国だねー」

「ああ、すまない。たしかに我が国は聖女信仰だが、私はあまり敬虔な信者ではなくてね。君の妹さんとは関係がないのに失礼な態度を取ってしまった」


そう言ってセオドアはその表情を緩めた。


「ああ、気にしなくて大丈夫ですよ。実は俺の妹も光魔法があんま好きじゃないみたいで」

「そうなのかい?」

「えー!珍しいし、便利なのにー」

「俺もそう思うんですけど、光魔法に目覚めた時から嫌がってて、魔法を全然鍛えようとしなかったんです」


妹のアリアが持つ光魔法はかなり希少なものだ。

本来ならもっと大喜びして、自身の魔法を鍛え磨くものなのに……。


アリアは自分から魔法を使おうとはしなかったし、頼めば使ってくれるが、どことなく不機嫌そうだった。

俺なんて珍しくもなんともない風魔法でも、目覚めた瞬間から嬉しくて楽しくて毎日外で使っていたのに。


「先程、その妹さんが辺境伯家へ嫁いだと言っていたが……いくら光魔法の使い手だからといっても、男爵令嬢が高位貴族になるには、さぞかし大変な努力や苦労をしていることだろうね」

「いや、それがそうでもないんですよ」

「え?」


下位貴族の令嬢が高位貴族の仲間入りを果たすには、礼儀作法や常識、そして社交術など様々なものが必要になる。

セオドアはそういった面での苦労を慮っての発言なんだろう。


「たしかに、デビュタントの夜会でも堂々としたものだったねー。まるで生まれた時から公爵令嬢みたいな振る舞いだったよー」

「団長はアリアのデビュタントの夜会に行ってたんですか?」

「王族の護衛だよー」

「いいなぁ。俺もあいつのデビュタント見たかったのに」


アリアのデビュタントは、フリストフ公爵家の養女になってから開催された。

その為、ローレン家はアリアの家族としてデビュタントに付き添うことが出来なかったのだ。


「そういえば、ルカ殿下がアリア嬢に派遣した、礼儀作法の教師が驚いていたみたいだよー。受け持った時点で教えることがほとんどないくらい完璧だったってー」

「あー、でしょうね」

「でしょうね。って、ローレン男爵家ではどんな教育してたのー?」

「いや、あいつは生まれた時からそうだったんで」

「生まれた時からって、それはないんじゃないー?」


セオドアは黙って俺達の話に耳を傾けている。


「まあ、生まれた時からっていうのは言い過ぎかもしれないですけど、俺が覚えてる限りでは、幼い頃からアリアはずっと、言葉遣いも含めて高位貴族みたいな振る舞いでしたね」

「えー?」


団長は疑わしそうな声を出している。


「アリアがたぶん……2歳くらいかな?自分で食べる練習のために初めてスプーンとフォークを使わせたんですよ。そしたら、完璧なテーブルマナーで食べ始めて……」


しかも『おかあしゃま?ないふはごじゃいましぇんの?』とか、恐ろしいことを口走っていた。


「ほんとにー?オリバー君の記憶違いじゃなくてー?」

「その時のことはよく覚えてるんですよ。だって、それを見た両親が『アリアはきっと高貴な方の生まれ変わりだ!』ってはしゃぎはじめて、その後に『なんでお前はまだ手づかみで食べてるんだ?』って怒られたんですから」

「………」


そんなの手で食べたほうが楽だし、早いからに決まっているのに……。

理不尽に怒られたという気持ちとセットで、この出来事はよく覚えていたのだ。


「俺は、アリア以上に完璧な振る舞いをする高位貴族の令嬢に会ったことがないですね」


これは本当のことだ。

高位貴族であった妻のエリーヌより、王城で見かけた王太子妃より、今まで出会ったどの令嬢よりも、アリアの振る舞いや所作のほうが美しかった。


「それは、かなり珍しい妹さんだね。一度会ってみたいくらいだよ」


しばらくずっと聞き役に徹していたセオドアが、そう口を挟んだ。


「ちょうど明日のアーロ王子殿下の誕生日パーティにも招待されてるんで、会えますよ」

「テオドール君も来るのー?」

「はい。あとルーナも連れて来るみたいです」

「ルーナ?」

「妹の子供で、4歳の女の子なんですけどめちゃくちゃ可愛くって。外見は父親似なんですけど、中身が俺にそっくりだって妹が言ってて」


アリアは会うたびに『ルーナの行動がお兄様そっくりなの……』と、疲れ切った顔で言っている。

子供は、女だろうが男だろうが元気なのが一番なんだから、とてもいいことだと俺は思う。


「それは大丈夫なのー?」

「大丈夫に決まってますよ。すっげえかわいいんですから」

「えー?」

「団長は年上好きだから、子供の可愛さを理解できないんですよ」


そんな和やかな雰囲気のまま、馬車は無事に最寄りのポータルへと到着し、セオドアを王城へと送り届けた。



◇◇◇◇◇◇


翌日の昼過ぎ、王城の客室へセオドアを迎えに行き、誕生日パーティの会場となるホールへと案内する。


アーロ王子殿下はまだ3歳なので、誕生日パーティといえ、さすがに長時間の参加は難しい。

なので昼間に誕生日パーティを開催し、休憩時間を挟んでから、夜は大人だけの夜会を催すそうだ。


正装に身を包み、着飾ったセオドアはとても凛々しかった。


俺はセオドアを連れて王城の広い廊下を歩いて行く。

あと少しでホールに到着するという、その時


「あーっ!オリバーだぁー!!」


元気な女の子の声が後ろから聞こえた。

俺やセオドアが振り返ると、そこには黒髪を可愛らしく結い上げ、少し切れ長の翠の瞳をした愛らしい天使……もとい、ルーナがいた。


「ルーナ!?」

「オリバー!久しぶりー!」


そう叫びながら、凄いスピードでルーナが俺の元へと走って来る。


「あれ?お前の母さんは?」

「たぶん後から来るよ、ほら」


弾丸のようなルーナをキャッチし、抱き上げた俺はルーナの指差すほうを見る。


「ルーナ!もうっ、勝手に行ってはいけないと、あれほど……」


そこに現れたアリアは、厳しい口調でルーナを叱ろうとして、その言葉を止めた。


なぜか驚きに目を見開き、唇を震わせたアリアは、震えるような声で呟いた。


「お、お兄様っ……どうして……」


たしかに兄である俺のことを呼んだはずなのに、なぜかアリアの瞳は、俺ではなくセオドアの姿を映していた。



全2話の予定です。

次話は明後日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 出会って終わって欲しかったと思っていましたが作者様も考えあってのことと自分を言い聞かせておりました。が、出会いを番外で書いてくれるとのこと。嬉しくてたまりません。 [気になる点] 贅沢を言…
[良い点] 番外編とても嬉しくを読む前にまた一話から読み返しました。アリアがイザベラの記憶に呑まれ過度に翻弄されずにアリアとして成長出来たのはオリバーがいたからじゃないかと思いました。オリバーの愚直な…
[一言]   ∧__∧  +  (0゜・∀・)  後編が  (0゜∪ ∪+   wktkすぐる  と__)__)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ