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完遂者の見る夢は1

読んでいただき、ありがとうございます。


最終話が長くなってしまったので2つに分けて投稿することにしました。

(本日両方とも、19時頃に投稿します。)


前半は文章多め、会話文少なめになっております。


※最終話はルカ視点です。舞台はモンフォール王国となります。

大勢の着飾った人々が賑わう王城の広大なホールには、煌々と魔道具の灯りが照らされており、様々な趣向を凝らした料理と酒が並べられ、心地よい音楽が流れていた。


この王城でクーデターが起きたことなど、微塵も感じさせない豪華絢爛さであった。



(国の安定をアピールする為にわざと豪華にしてるんだろうけど……)


僕は会場の様子に目を遣りながらも、そんなことを考えていた。



この国、モンフォール王国ではちょうど1年前にクーデターが起きた。

クーデターを起こしたのは前国王の息子で第二王子だったアルバート・モンフォール。


現国王だったサイラス・モンフォールは、即位して2年も経たないうちにアルバートに討ち取られ、その座を明け渡すこととなった。


サイラスの王太子時代からの国庫の横領や不正等がクーデターを起こした理由とされ、その証拠も後に公開された。

しかし、元々アルバートとサイラスには王太子の座を巡り争っていた過去がある。


16年程前、当時の王太子は第一王子のブラッド・モンフォールだった。

しかし彼は病により蟄居し、王太子の称号と王位継承権を放棄。

そしてその空いた王太子の座を巡り、ブラッドの弟で第二王子のアルバートと末の王弟であったサイラスが数年に渡る激しい王位継承権争いを経て、王太子の座に就いたのだった。



クーデターとはいえ被害は王城の中だけで、ほぼ暗殺に近い形であった。

国民にとってはトップが挿げ替えられただけで、アルバートは前国王の息子という血統の正統性もあり、それほどの大きな混乱もなく受け入れられた。


そして今日はクーデターから1年が経ち、アルバートが正式に国王に即位する式典が行われ、そして今は式典の後の夜会の最中だった。

血統の正統性と理由はあれど、クーデターを起こして即位したのだ。今後の国交の為にも、各国の要人を招待した盛大な夜会が催された。


そんな祝いの場に、ミズノワール王国の代表として王太子である兄上と王太子妃のローズが招待に応じることとなった。

僕は兄上の補佐をする為に、共にモンフォール王国へとやって来ている。


モンフォール王国は『真実の愛の物語』の舞台になった国だった。

最初、この式典への参加を命じられた兄上は複雑な顔をしていたが、結局は何も言わずに従った。


そして兄上はしっかりと国の代表としての、外交の責務を果たしている。



(それにしても、煩わしいな……)


何がといえば、女性達から自分へと向けられる熱い視線だ。

僕の容姿が美しいことは自覚しているし、見られることには慣れている。

だからといって、それは決して居心地の良いものではない。


その時、会場の音楽が変わった。


兄上がローズの手を引き、ホールの中央でダンスを踊り始める。

今日の式典は王太子夫妻としての初めての外交でもあったのだ。


長年兄上の婚約者だったローズは、つい先日、盛大な結婚式を挙げて王太子妃となった。


兄上とローズは幼い頃に婚約が結ばれ、傍から見れば穏やかな婚約関係が続いていた。

しかし4年程前に、兄上がアリアという同じ学園の男爵令嬢に懸想し、そして兄上は王太子の座を降りようとまでしていた。


その事件の後からだろうか、ただただ穏やかだった2人の関係が変わったのは……。


それまでは控え目で、ただ従順だったローズが兄上を振り回すようになったのだ。

そのせいで、時に喧嘩をしたり、意見を戦わせたり、また仲直りをしたりと……それらを繰り返していくうちにいつの間にか2人は以前よりも打ち解けた関係へと変化していった。



(ただのお飾りの王太子妃だと思ってたのにな……)


兄上の一番側に居て、信頼も得て、誰よりも役に立つことができるのは僕だとわかっている。

それでも、兄上のいろんな表情を引き出すことが出来るローズが少し羨ましかった。


兄上達が僕から離れたことで、さらに女性達からの視線が強くなる。

きっとダンスに誘われることを期待しているのだろう。


だけど今はさらさらそんな気になれない。


僕は、僕が選んだ兄上の側近達にその場を任せて、外の空気を吸うために夜会会場を後にした。



◇◇◇◇◇◇



会場の外には見事な造りの庭園が広がっている。

夜でも庭園が見えるよう、しかし明るくなり過ぎないように抑えた光量の魔道具が各所に置かれていた。


会場の熱で火照った顔に当たる夜風が気持ちいい。

そのまま庭園内をただ気の向くままに歩いた。


ふと、頬に夜風よりも冷えた空気が触れる。


歩みを止めて辺りを見渡すと、キラキラと光る物が漂っていた。

思わずそれに手を伸ばし掴むと、掌に冷たさを感じた。


(これは、氷?)


よく見ると金貨程の大きさの氷がいくつも辺りに漂っている。

それに魔道具の光が反射して、光っているように見えたようだ。


(しかも、星型だ!)


そのことに気付いた途端に、背筋をゾクゾクしたものが走る。

なぜなら、僕が学生時代に魔力操作を向上させる為に作った星型の氷は、どんなに頑張っても掌サイズにしかならなかったからだ。


(凄い!こんなに小さな星型を……しかも、こんなにもたくさん作り出すなんて)


僕は自分よりも明らかに魔力操作の能力が高いであろう

、まだ見ぬ人物の存在に興奮した。

そのまま急ぎ足で、氷魔法の出処を探す。


すると、すぐ近くのガゼボに人影が見えた。

僕が近付く気配に気付いたのか、こちらを振り返る。


「おや?こんな所までどうされましたか?」


低いが耳に心地よい、落ち着いたトーンの声が聞こえた。


「あの、偶然こちらを散歩しておりましたら、星型の氷が漂って参りまして……」


そう言いながらガゼボにさらに近寄ると、そこには流れるような銀糸の髪をひとつに束ね、紫の瞳をした美丈夫が居た。歳は父と同じくらいだろうか。

僕はこの男に見覚えがあった。


「トゥールーズ宰相閣下でしたか。失礼しました」


このモンフォール王国の新たな宰相となった、セオドア・トゥールーズ公爵だった。



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