アリアとイザベラ
読んでいただき、ありがとうございます。
本日は投稿時間が遅くなってしまい、申し訳ありません。
※今話はアリア視点に戻ります。
王城でレオンハルトに会ってから約1ヶ月が経った頃、やっと彼が学園に復帰したと噂で知った。
やはり以前より少し痩せてしまっていたそうだが、それからは今まで通りにほぼ毎日通っているらしい。
らしい。というのも、あれ以来学園でレオンハルトに遭遇することがなくなったからだ。
特にこちらを避けているといった訳ではなく、学年も学科も違えば会うことがないのが普通。本来ならばこれが正しい距離感だったのだろう。
(やはり以前はわたくしに会いに来ていらしたのね)
昼休みや放課後に食堂やカフェで遭遇していたのは、レオンハルトがわたくしを探して行動していたからだったと改めて知る。
今のわたくしは魔術師科の校舎に籠もることもなく、エミリーと共に自由に過ごせている。
そして意外にもローズ達との関係も続いていた。
どうやらローズは面倒見の良い性格らしく、テオドールの婚約者として、今後は高位貴族の仲間入りを果たすわたくしを気にかけてくれているようだ。
「レオンハルト殿下とはその後いかがですか?」
「そうね……。以前よりも気にかけていただけるようになったわ」
「それは良かったです」
ここはいつもの芸術学科の練習室。
アイザックの恋愛指南は、結局第二回以降も頻繁に行われていた。
そしてそれはいつの間にか恋愛指南という形を崩し、ただの友人同士の集まりとなっていった。
もちろんアイザックに恋愛相談をすることもあるし、アイザックが一押しの商品を紹介したりすることもある。
「でも婚約してから今まで長い間ずっとこんな調子ですから……。今更急激な変化なんて期待しておりませんわ」
ローズは少し寂しそうに告げる。
「あー、レオンハルト殿下はローズ様の優しさに甘え過ぎですね。たまには態度変えてもいいんじゃないですか?」
アイザックもいつの間にか打ち解けて、ローズ様と呼ぶようになっていた。
「態度?」
「そう。いつも優しくされてると、相手はそれが当たり前だって思ってしまうものです。だからたまには冷たい態度で焦らせてやればいいんですよ」
「でも、そんなこと……」
「別にいきなり無視しろとか、キツイ言い方しろってわけじゃないですよ。ほんのちょこっと、あれ?いつもと違うな……俺なんかしたっけ?って思わせるぐらいでも、変化はあるんじゃないですか?」
「………詳しく聞かせて下さる?」
わたくしはなんでもない顔をしながらも、アイザックの話にしっかりと耳を傾けている。
「付き合いが長くなると、どうしても飽きや慣れがきますからね。なんの努力もなく、相性だけで上手くいくこともありますけど、俺はそれなりの努力は必要だと思ってます」
わたくしとテオドールも婚約者になったのはつい最近だけれども、幼馴染としての付き合いはかなり長い。
しかも、わたくしは前世でブラッドとの関係が上手く行かなかった。
テオドールとブラッドが違うことはわかっていても、やはり不安はあった。
◇◇◇◇◇◇
それからは忙しい日々が続いた。
グルエフ夫人に養子先を相談し、候補としてフリストフ公爵家が挙げられた。
グルエフ夫人が公爵令嬢だった頃の幼馴染が現当主なのだという。
そしてフリストフ公爵家もわたくしを養子にする打診を受け入れ、わたくしはアリア・フリストフ公爵令嬢として、正式にテオドールの婚約者となった。
そして、休日はフリストフ公爵家のタウンハウスで、ルカに派遣してもらった教師による授業を受け、この国の公爵令嬢として必要な知識を詰め込む。
そしてなんとかデビュタントの夜会に間に合った。
義父となったフリストフ公爵と共に夜会の会場となる王城のホールへと足を踏み入れる。
途端に、わたくしに向けられる数多の視線。
それらは好奇か、はたまた嫉妬によるものか……さすがに羨望の眼差しは感じられなかった。
(これから……ですわね)
まさか、前世と同じ公爵令嬢として社交界にデビューすることになるとは……。
今世では男爵令嬢らしく振る舞う為に幼い頃から苦労したが、結局はイザベラの頃の振る舞いに戻すことになってしまった。
それでも、前世での長年の努力を捨て去ることなく、今世で役立たせることが出来たことを嬉しく思う自分がいる。
本日デビュタントを迎える少女だけがホールの前方、国王陛下と王妃の前に集められ、陛下から祝いの言葉を賜る。
わたくしは他の少女達と共にその言葉に聞き入った。
そして陛下が夜会の開始を告げると、楽団による演奏が始まる。
まずは陛下と王妃によるダンスが始まり、それが終わると他の者も自由に相手をダンスに誘い出す。
「アリア!」
テオドールがわたくしの元へとやって来る。そしてわたくしに向けて手を伸ばした。
「ぜひ、僕とダンスを踊って欲しい」
「ええ。喜んで」
わたくしがそう言ってテオドールの手を取ると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
そんなわたくし達に視線が集まる。
わたくしが公爵令嬢としてどの程度か、品定めをしているのだろう。
テオドールとダンスを踊るのは初めてだった。
彼は男性の中でもかなり背が高い。そして、わたくしは女性の中でも背が低い部類だ。
テオドールと少しでも身長差を縮めるために、靴は高めのヒールにしてある。
彼に手を引かれ、ホールの中央で踊り始める。
「ああ、夢みたいだ……」
テオドールが呟く。
「そんな、大袈裟ですわ」
「だって、アリアと婚約して、こんな風にダンスも踊れるなんて……」
「えっ、ちょっと、涙ぐまないで」
「グスッ、大丈夫……」
テオドールのステップが乱れる。
それにわたくしもつられてしまう。
「もうっ、テオ!」
「ごめん。でも、なんだか嬉しくって」
テオドールが涙目で幸せそうに笑うと、わたくしもなんだか怒るはずの気持ちがほぐれてくる。
ダンスのステップをなんとか立て直し、その後は失敗することなく無事に踊り終えた。
わたくし達は少し休憩を取ろうと、飲み物を手に取り2人でバルコニーへと向かう。
「フリストフ公爵令嬢として完璧なダンスを披露しようと思ってましたのに」
わたくしはそう言ってテオドールをじろりと睨む。
「大丈夫。アリアは完璧じゃなくても素敵だよ」
わたくしの睨みなど全く意に介さず、テオドールはニコニコと笑いながら答えた。
そんなテオドールの言葉に、ふと前世の自分を思い出す。
「でも、わたくしはテオに完璧さを求めて口煩く言ってしまうかも……」
「え?そうなの?」
「ええ、テオが失敗したら叱咤するし、上手く甘えることもできないかもしれませんわ……」
「アリア?」
「その、それでも、テオはわたくしを嫌いになりませんか?」
わたくしがそう言うと、テオドールは驚いたように目を見開いた。
そう、前世のわたくしはそのような態度で婚約者であるブラッドから煙たがられ、嫌われてしまったのだ。
以前、アイザックにもそのような行動は悪手だと教わった。
それでもわたくしは、前世のわたくしのままきっと変われない部分があり、それによってテオドールにまで嫌われてしまうのが怖いのだ。
「じゃあ、僕が失敗してアリアに怒られたら一生懸命謝るよ。そうしたらアリアは許してくれる?」
「え?ええ、それはもちろん」
「アリアが甘えられないなら、僕がアリアに甘えてもいい?」
「ええっ!?」
「そんな僕を受け入れてくれるなら、僕はアリアのことを嫌いになんてならないよ」
そう言ってテオドールはいつもの優しい眼差しでわたくしを見つめる。
「……受け入れますわ」
「じゃあ大丈夫。アリア、大丈夫だよ」
わたくしはやっと胸の奥深くに刺さった何かが消え去った感覚がした。
今のアリアとしてのわたくしも、前世でのわたくしも、どちらのわたくしも彼に認められ、愛してもらえたような気がした。
「わあっ!アリア、泣かないで」
慌ててポケットからハンカチを出そうとして、もたついているテオドール。そんな彼を見て、愛しさが込み上げてくる。
「ありがとう、テオ。大好きよ」
テオドールはわたくしの言葉に顔を真っ赤に染め上げた。
◇◇◇◇◇◇
それからさらに時が経ち、わたくしは無事に王立学園の卒業パーティを迎えた。
前世での卒業パーティでは、婚約者であるブラッドにドレスも贈ってもらえず、エスコートもされず、その後は断罪され、たった1人で死んでいった。
しかし、今のわたくしの隣には、わたくしのドレスと色を合わせたタキシードを着て、わたくしを愛しげに見つめるテオドールが居る。
わたくしは恐れを抱くことなく、愛しい彼を見つめ返し、パーティ会場へと足を踏み入れた。
明日もバタバタしており、次話は明日の19時頃を予定しております。
いつもより投稿時間が遅くなり、すみません。
次話で完結予定です。よろしくお願い致します。




