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運命の人3(sideルカ)

読んでいただき、ありがとうございます。


なんとか14時台に間に合いました。


※今話もルカ視点となります。



「アリア・ローレンです。よろしくお願いします」


落ち着いた声のトーンで自己紹介の挨拶をする薄桃色の髪の女をじっと見つめる。


(この女が兄上の……)


2年程前、兄上がこの女に傾倒していると知り、僕も情報を集めた。

そしてわかったのは、どうやら兄上は『真実の愛の物語』という本の世界にどっぷりとのめり込んでしまったらしいということ。

そして、その物語のヒロインにそっくりだという、この女に執着してしまっているということ。



(たしかにヒロインの髪色と一緒だな)


僕はあの本に描かれていた挿し絵を思い浮かべながら、同じクラスになったアリアを観察し続ける。

でも共通点は髪色と光魔法……それぐらいだ。


(まさか、何か目的があって兄上に近付いた?)  


しかし、アリアをいくら調べてみても特に怪しい点は見つからなかった。そもそも兄上と出会ってから王立学園に入学するまで彼女は領地から出ていない。


兄上はお忍びでの視察先でアリアと出会い、そこから彼女に夢中になったという。

しかしその出会いも、仕組まれたとは考えにくいものだった。


とりあえず様子を見ようと、アリアの観察を続けながら兄上の出方を伺うことにした。



◇◇◇◇◇◇



入学してしばらくすると、兄上とアリアの噂が学園内に出回り始める。

どうやら、兄上が頻繁にアリアに声をかけているようだ。


イーサンによると、兄上はアリアのことを『運命の人』だと頻繁に口にしているらしい。


(兄上は本気で彼女と結ばれるつもりなのか?)


『真実の愛の物語』は実際に他国で起きた出来事がモデルになっている。兄上もそのことは把握している。

物語の最後は王子と少女が身分差を乗り越え結ばれたと締めくくられているが、現実にそんなことをすればどうなるのか……兄上ならわかっているはずだ。


事実、この物語のモデルとなった王太子も、婚約者を追いやったことで政治基盤を失い、その地位を失っている。


そして、アリアは兄上のそんな行動に困惑しているようだった。

そして兄上に対抗するように、兄上の婚約者であるローズを味方に引き入れ、なんとか上手く立ち回っている。


(このまま兄上が諦めてくれればいいのに……)


しかし、イーサンの話によると兄上に諦める気配はないらしい。

それならばと、僕がアリアに接触してみることにした。


「ローレン嬢。良ければ僕とペアを組んでもらえないかな?」


その時の彼女の態度は、僕に対して『関わりたくない』と全力で拒否を示していた。

が、強引にペアを組んで、彼女の近くで様子を見ることにする。


(なんというか……ちぐはぐで得体の知れない女だな)


田舎の男爵令嬢にしては美しすぎる所作。かと思えば、希少な光魔法を持っているくせにその能力を伸ばそうとする向上心がみられない。

顔も可愛らしい部類に入るのだろうが、僕のほうが美しい。


こんな女のどこがいいのかさっぱりわからない。


ただ、何か目的を持って兄上に近付いたわけではなさそうだ。


(やっぱりただの偶然の出会いじゃないか)


兄上は『運命の人』だなんて言うけれど、それならお互いが想い合うはずだ。

兄上とアリアが運命によって惹かれ合い、お互い想い合っているとは到底思えなかった。



◇◇◇◇◇◇



アリアとペアを組んだ課題のレポートを書き上げた。

彼女が担当教諭の元へと届けるというので、その言葉に甘えることにする。


すっかり遅くなってしまった。


帰ろうと馬車乗り場へと向かうと、兄上が乗るはずの王族専用の馬車がまだ残されていた。


(こんな時間まで?まさか……)


僕は慌てて魔術師科の校舎へと向かう。


夕陽が差し込む廊下で、兄上がアリアに迫っている姿が見えた。


「ああ、私と君との出会いは運命なんだよ」


──違うっ!その女は兄上の運命なんかじゃない!



「兄上、こんな所で何をしていらっしゃるのですか?」


僕は怒りを抑えて、努めて明るい声を出した。

それは、思った以上に廊下に響き渡る。


今までアリアを愛しげに見つめていた空色の瞳は、僕の姿を捉えると途端にその視線を逸らした。

そんな兄上の姿に、僕の胸は抉られたように痛む。


そして確信する。

兄上は本気でアリアと結ばれるつもりでいることを。


つまり、王太子の地位を捨てて、僕も捨てて、アリアだけを選んで逃げようとしていることを。


──どうして?どうして、兄上


(僕達は2人だけの兄弟だって、ずっと一緒だって言ってくれたのに……)


兄上がどうしても王太子の地位を捨てたいのなら、それでも構わないと思っていた。

僕と共に居てくれるのならば、それでも構わないと。


でも、兄上は新たに王太子となった僕を支えることなく、離れて行ってしまうんだろ?


──だったら、やっぱり王位に就くのは兄上だ。


そして僕がずっと側に居て兄上を支える。

きっと、僕達がずっと一緒に居る為にもそれが1番いい。


だから僕は兄上を必ず王位に就かせてみせる。

どんな手段を使っても絶対に……。



そして僕の思惑通りにアリアを諦めてくれた兄上は、やっと本の世界から抜け出して僕を見てくれた。



◇◇◇◇◇◇



「いや、アディール妃があのような行動に出たのは、私が王太子として不甲斐なかったせいだ。それに、お前に実の母を捕まえる真似までさせてしまった……」


目の前の、今にも泣き出しそうな兄上を見る。

大丈夫。今はちゃんと僕の顔を見てくれている。


「僕にとっての家族は幼い頃から兄上だけです」


そう言って悲しげに微笑んで見せると、兄上はハッと何かに気付いたような顔をする。


「ルカ、今までお前のことを避けていたことも、すまなかった。お前は悪くないんだ。私が、勝手に不安になって逃げ出しただけだ」

「大丈夫です。兄上がまた昔みたいに僕を見てくれるって信じてました」

「その、怒ってないのか?こんな私に失望して見限ったりしないのか?」

「見限るなんて有り得ないですよ。だって僕は兄上の唯一の弟です。たった2人だけの兄弟じゃないですか」

「ルカ……本当に、本当に今まですまなかった」


ぐすぐすと泣き出した兄上を見て思う。


(こんなことならもっと早くに(あの女)を切り捨てれば良かったな……)


これで兄上は、兄上の為に実母を切り捨てた僕のことを見捨てられない。

兄上は根は真面目で、そして弱者に優しいから。


(まあ、ついでにイーサンも処分できたし、次の従者はもっと優秀で兄上に相応しい者を用意しなきゃ)




そして僕はハンカチを取り出して、涙を拭く為に兄上の隣へと移動する。


(やっぱりアリア嬢は兄上の運命の人なんかじゃなかったね)


アリアが運命の人だったなら、きっと何があっても彼女は兄上の側に居たはずだ。


(でも、大丈夫。僕がちゃんと兄上の運命になってあげる。ずっと側に居るからね)


僕は泣き続ける兄上の背中を優しく撫でながら、ふと、アリアとの会話を思い出す。


『ルカ様は、きちんとこの国のことを考えておられたのですね』


あの時、僕は彼女の言葉に何も答えずに、笑顔を貼り付け無言を貫いた。



(ごめんね。僕はこの国がどうなろうとたいして興味はないんだ。僕が考えているのは兄上のことだけだから)



誰にだって言えない秘密の1つや2つはある。


そうだろう?



あと2話で完結予定です。

引き続きよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
同性同士の結婚が認められてるって時点で、ん?ってそちらの香りを嗅ぎつけたけどやっぱあった ( ╹▽╹ )w
これは王太子が王女か貴族令嬢で従妹以上に系譜が離れていた場合、ぼんやりしているうちにルカに囲い込まれて結婚間違いなしだったでしょうね。 しかもレオンハルトの素直な性格では、ルカの腹黒さになんて一切気付…
[良い点] あの笑顔は何だったんだろう……と思ってたらコレか!!! ビックリしましたが、納得せざるおえません。 弱ってる時に寄り添ってくれるとコロッと行くと、どこかのモテモテ男爵令息が言ってたので間違…
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