運命の人2(sideルカ)
読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字報告とても助かっております。
ありがとうございます。
※今話もルカ視点になります。
「これは……凄まじい魔力量ですな。いずれ王立魔術師団に入っていただきたいくらいです」
9歳になってすぐの頃、突然僕は魔力に目覚めた。
それは、兄上の剣術の稽古を見学している時だった。
僕の身体の内側から熱い何かが湧き起こり、それに戸惑っているうちに身体の外へと一気に放出された。
気付けば、僕の周りの草木や地面は全て氷漬けにされていた。
慌てて呼ばれた当時の王立魔術師団の団長がその惨状を見て言った言葉がそれだった。
そして魔力が目覚めた頃から僕の身体は少しずつ丈夫になっていく。
ならばと、今まで見学だけだった剣術の稽古に少しずつ参加するようになった。
すると今度は体力が付いてきて、長時間の勉強にも耐えられるようになってくる。
嬉しかった。
あの苦しいだけの咳や熱から解放されたこともそうだったが、今まで出来なかったことが出来るようになる、それが楽しくて仕方なかった。
今までは何も出来なくて役に立たない僕だったけど、これから努力すれば、兄上の役に立てる僕になれるかもしれない。
僕にとって兄上はなくてはならない存在だ。
だから、僕も兄上のなくてはならない存在になりたい。
まずは知識が必要だ。
『さすが殿下は聡明であられる。こんなにも賢い方だったとは』
いざという時に兄上と共に闘えるようにしないと。
『いやはや、お強い。殿下には剣術のセンスがお有りですな』
魔法も磨いた。これでもっと兄上の力になれる。
『素晴らしい氷魔法ですな。これならば魔術師団でも即戦力になるレベルです』
兄上、見て!
僕は兄上の為にこんなにも努力して、周りも僕を評価してくれてる。
(これで僕は兄上の役に立つ弟になれたかな?)
でも、そうして気付いた時には、兄上は僕の目を見て話をしてくれなくなっていた。
僕に会うと、なぜか居心地の悪そうな顔をするんだ。
(どうして?僕は兄上に何かした?)
「それは、レオンハルト殿下がルカ殿下に劣等感を抱いていらっしゃるからだと……」
ある日、どうしても兄上の態度が気になった僕は、イーサンを捕まえて聞いてみた。
「劣等感?」
「ルカ殿下はレオンハルト殿下が持ち得ない、素晴らしい才能と能力をお持ちですから」
「………」
イーサンはなぜか僕を恍惚とした目で見つめながら、興奮したように言う。
(なぜ兄上が僕にそんな感情を持つのだろう?)
そんなある日、母と名乗る女が僕を訪ねて来た。
「ルカっ!すっかり大きくなったのね!久しぶり、会いたかったわ」
そう甲高い声でまくし立てる女を見て、「ああ、そういえば母はこんな人だったか」という感想しか湧かなかった。
しかし、母はまるで僕を大切な息子であるかのように振る舞った。
そしてその日以降、母は頻繁に僕のもとへ訪れるようになり、その度に様々な貴族を紹介されるようになる。
さすがにそんな母の様子を訝しく思った僕は、母の内情を探り始めた。
すると、どうやら一部の貴族達が僕に取り入る為に、母に近付いているらしいことがわかった。
僕が目的とはいえ、貴族達に注目され媚を売られることが嬉しいのか、母はそれを率先して受け入れていた。
(まさかここにきて後継者問題なんて……)
今まで兄上が次期国王だと、僕も周りもそれが当たり前だと思っていた。
しかし、一部とはいえ僕を担ぎ出そうとする貴族が現れるとは……。
そんな状況を知ってか、父が兄上を正式に後継者として指名し、立太子の儀を執り行うことが発表された。
僕は安心したが、母は怒り狂っていた。
そして無事に兄上がこの国の王太子となった。
これで後継者問題は落ち着くはずだった……。
◇◇◇◇◇◇
兄上が立太子してすぐの頃、隣国の軍隊が国境を越える事件が起きる。
ここしばらく平和だった両国間の緊張は一気に高まった。
父は即座に王立騎士団をグルエフ辺境伯領へと派遣し、戦争は回避されたが、国境での睨み合いは1年近く続いた。
そしてこの事件により、母に与する一部の貴族……戦争推進派の貴族達の勢いが増してしまうこととなる。
そして彼等はこの国には強きリーダーが必要だと、僕を王位へと推すようになった。
(何を考えているんだ!この国の王になるのは兄上だ!)
今更、王位継承権をひっくり返そうとする母を含めた輩達に僕の苛立ちは募る。
(………もういっそのこと、全員排除すべきじゃないか?)
兄上の足を引っ張り、邪魔をする者達など必要ないだろう。
僕がそう考え始めた頃、イーサンと母を通じて驚くべき情報が僕に入って来る。
──兄上がアリア・ローレンという少女に傾倒していると……。
正確にいうと、兄上が一方的にその少女を想い、その少女の情報を集めているらしい。
ただでさえ後継者問題が燻っている今、婚約者であるローズ嬢を邪険にして自らの政治基盤を壊そうとするなど、有り得ない。
(兄上は一体何を考えているんだ?)
非常に不愉快だが、今、兄上の1番近くに居るのはイーサンだ。兄上の従者のくせにいつの間にか母と繋がっていたとしても、彼を排せば兄上の動向がわからなくなる。
本来なら、僕が兄上の1番側に居て、兄上のことを理解し、兄上の為だけに動きたいのに……。
(もっと兄上の情報が必要だ)
イーサンと母から情報を仕入れるしかない。
そんな現状に僕は悲しくてたまらなくなる。
以前はあんなに毎日のように会って、ずっと近くに居たのに……。
今では極力会わないように避けられて、会っても目を逸らされる。
イーサンは兄上が僕に劣等感を抱いていると言っていた。
でも、劣っている部分があるのはそんなに駄目なことだろうか?
だって、完璧な兄上だったら僕が存在する意味がない。
僕は兄上の劣っている部分を補うために存在しているんだから。
僕達は2人だけの兄弟なんだ。
互いに補い合う存在なんだ。
僕には兄上しかいない。兄上にも僕しかいない。
ねぇ、そうでしょ?
そして王立学園に入学した日、僕はアリア・ローレンとの出会いを果たした。
少しバタバタしておりまして、次話の投稿が明日14時より遅くなってしまうかもしれません。すみません。
よろしくお願い致します。




