断罪のあと2(sideブラッド)
読んでいただき、ありがとうございます。
今回もモンフォール王国でのお話になります。
※ブラッド視点の続きです。
結局、父にリリーとの婚約を認めてもらうことは出来なかった。
私はどうにかリリーと婚約するいい方法はないか、信頼できる側近達に相談をしようとしていたのに……。
「体調不良?」
「はい」
「3人共か?」
「はい」
父と話し合った翌日、なぜか側近達が揃って登城して来なかった。
私の側近達はそれぞれ、宰相・騎士団長・魔術師団長の息子で、学園でも共に生徒会に所属し、私の支えになってくれた者達だ。
リリーとのことも、彼等が応援し、知恵と手を貸してくれた。
そのおかげであのイザベラとも婚約破棄をすることができたのだ。
学園を卒業した後は、王太子として公務に携わる私を補佐するため毎日登城し、この執務室で共に過ごしていた。
「わかった。もういい」
「では、失礼致します」
仕方なく、私は1人で書類に取り掛かった。
◇◇◇◇◇◇
(おかしい……)
父が帰国してから数日が経ち、周りの様子がおかしいと感じることが増えた。
私の側近達は休んでから3日後に揃って登城した。
しかし、何やら3人共が顔色も悪く、覇気がない。
リリーとの婚約のことを相談しても「今は動くべき時ではございません」と牽制される。
理由を聞いても、言葉を濁すばかりだった。
(一体どうしたというのだ?)
側近達だけではない、他の貴族達も今までは王太子である私に敬意を払っているように思えたのに……。
なぜだか腫れ物扱いされているように感じる。
そんなある日、私は側近達を連れ、王城の廊下を歩いていた。
すると、向かいから見知った顔の青年がやって来るのが見えた。
銀の髪に紫の瞳、背はすらりと高く、しかしその身体はしっかりと鍛えられているのがわかる。
彼の名は、セオドア・トゥールーズ。
トゥールーズ公爵家の次期当主であり、イザベラの7歳上の兄である。
セオドアはイザベラと同じ髪と瞳の色の美青年だが、受ける印象は真逆と言っていいほど違った。
彼はいつも温和な笑みを浮かべ、人当たりも良く、イザベラのような冷たさを感じることはない。
私が幼い頃、イザベラと共に何度か遊んでもらったことがあった。
幼い私がいたずらをした時も怒ることなく、優しく諭してくれた。
そんな人物だったのに……。
まず目についたのはその服装だった。
真っ黒だ。
上下だけでなく、纏っている外套すらも真っ黒で、その姿は王城では異様だった。
そして、頬はこけ、憔悴しきった顔をしている。
それなのに、その紫の瞳だけはギラギラと輝き、一種の危うさを感じさせる。
「セオドア……?」
「殿下、お久しぶりです」
セオドアはゆっくりと礼をする。
「その、どうしたのだ?その服装は……?」
「身内が亡くなりましたので、喪に服しております」
「身内?一体誰が?」
「先日、私の妹が亡くなりました」
「妹……まさか!イザベラが?」
「はい。殿下はご存知ありませんでしたか?」
「あ、ああ。まさか、イザベラが……」
私は突然の話に驚く。
しかし、セオドアは静かに抑揚の無い声で話し続けた。
「殿下が婚約破棄を告げた卒業パーティの後、北の修道院へと向かう馬車に乗せられ、その道中に馬車ごと崖下に転落致しました」
「そんな……」
イザベラと同じ色の瞳が私をじっと見つめる。
なぜだかそれに居心地の悪さを覚えた。
そして、私の側に居る側近達が一様に青ざめた顔をする。
「まさか、そんな事故が起こるなんて……」
「事故?殿下はこれが事故だとおっしゃるのですか?」
「え?」
「ははっ、本当に事故だと思っているのならば、殿下はなんとおめでたい頭をしておられるのか!」
セオドアは急に顔を歪めて笑いだした。
しかし、その紫の瞳は仄暗い憎悪を孕んでいる。
「どういう意味だ?」
「あなたが殺したのですよ」