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動き出す者8

「やあ、テオドールとの婚約おめでとう」


翌日の放課後。

ルカに指定された空き教室に入るなり言われる。


「なっ、なっ、」


(なぜ、そのことをルカ様が知ってらっしゃるの?)


わたくしは驚きのあまり上手く言葉が出てこない。


「ああ、今朝テオドールがわざわざ僕のところまで言いに来たんだよ」

「え?」

「『自分がアリアの婚約者になりました。アリアのことが好きでも諦めて下さい』って言われてね」

「………」

「僕は別に君のことが好きでもタイプでもないから、正直にそう伝えたんだけど、『あんなにかわいいアリアに惚れないはずがないでしょう』って逆に詰め寄られて大変だったよ」

「………」

「君の婚約者は結構面倒くさいね」

「………すみません」


喜ぶべきなのか、恥ずかしがるべきなのか、感情が忙しい。


「兄上にも突撃するつもりだったから、それは僕の方で止めておいたよ」

「………すみません」


その後も、「彼があんなタイプだとは思わなかった」「君がちゃんと躾けときなよ」など、有り難いお言葉をいただく。






「じゃあ、テオドールの話はこれくらいにして、そろそろ本題へ移ろうか」


ルカの言葉を聞き、わたくしはここで話をするのかと、周りをキョロキョロと見渡す。


「ああ、大丈夫だよ。君がこの教室に入った瞬間に、魔道具を発動させてあるから。この教室の声は外には漏れないし、誰かがこの教室を覗いても僕らの姿は見えない」

「そんな魔道具があるんですね」


わたくしは素直に驚きを口にする。


「魔術師団長からの借り物だよ」

「今日の為にわざわざ借りたのですか?」

「いや、ずいぶん前に借りた物だ」


返却される日は来るのだろうか?とは思ったが、余計なことは言わないことにした。


「さて、今から僕の話を聞いてしまえば、君を僕の計画に巻き込むことになるけれど、覚悟はいいかな?」 




◇◇◇◇◇◇




ルカから話を聞いて数日が経った。


わたくしは新たな課題のせいで、ここ数日は毎日放課後は遅くまで居残りをしていた。

晴れて婚約者になったテオドールも、ここ数日は放課後に訓練があるらしいので、会えていない。


今までは学園内で会えないことが当たり前だったのに、婚約者になった途端そんなことを考えてしまうわたくしは、浮かれてしまっているのかもしれない。



今日も放課後に居残りで課題をこなし、校舎を出た。

もう陽が傾いてしまっており、他の生徒の姿も見当たらない。


「ローレン嬢」


不意に声を掛けられ、そちらに顔を向ける。

そこには長い黒髪を一つに結い、ヘーゼルの瞳を持つ長身の男子生徒が立っていた。


「まあ!テイラー様。お久し振りです」


彼はレオンハルトの幼馴染で従者でもあるイーサン・テイラーだ。


「お久し振りです。今から帰られるのですか?」

「はい。テイラー様はレオンハルト殿下とご一緒ではないのですか?」


彼はだいたいいつもレオンハルトの側に居る。しかし、今は1人のようだった。


「実はレオンハルト殿下に頼まれてあなたを迎えに参りました」

「え?」

「どうかこれから殿下に会っていただけませんか?」

「あの、その、私はもう殿下とは……」


数日前のレオンハルトとの出来事を思うと、会いたいとは思えなかった。

それに、正式な手続きこそまだだが、わたくしはテオドールの婚約者になるのだ。そのこともあり、遠回しに断りを入れる。


「先日の殿下の振る舞いは、私も聞いております。本日はそのことについて殿下が謝罪をしたいと仰ってまして」

「謝罪……ですか?」

「はい。しかし殿下は王太子という立場ですので、公の場での謝罪は難しく……。ですので非公式の場を設けさせていただきました」

「いえ、そんな。そこまでしていただかなくても大丈夫ですので」

「殿下はきちんと謝罪をして、けじめをつけることを望んでおられます。どうか我が主の願いを聞き届けていただけませんか?」

「………」

「先日のこともありますし、今日は私がローレン嬢の側におります」


ここまで言われてしまっては断ることなど出来ない。まあ、非公式の場を用意されている時点で断らせるつもりも無いのだろう。


「わかりました」

「ありがとうございます。では、参りましょう」


人の良さそうな笑みを浮かべたイーサンに連れられて、わたくしは歩き出した。




◇◇◇◇◇◇




しばらく無言でイーサンと共に歩き続ける。

しかし、向かう方向が妙なことに気が付いた。


「あの、テイラー様。このまま向かいますと、男子寮へ着いてしまいますが……?」

「ああ、そうですね」

「いや、そうですね。ではなくて、私は男子寮には入れませんよ?」


この学園の寮には平民だけでなく、わたくしのような貴族の子息や子女も利用している。故に、何か間違いがあってはならないと、男子寮と女子寮は離れた場所に建てられており、それぞれの寮に異性が入ることは固く禁止されているのだ。


「いえ、ローレン嬢には男子寮の部屋に入っていただきます。そこでレオンハルト殿下がお待ちですから」


変わらずにこやかな笑みを浮かべたままのイーサン。


「そんな所へは行けません」


わたくしは立ち止まり、きっぱりと言う。


「それは困りましたね。あなたには殿下のお相手をしていただかないと」

「お断りいたします」

「ローレン嬢は、王太子殿下の婚約者になりたいとは思わないのですか?」

「レオンハルト殿下にはローズ様という婚約者がいらっしゃいます。それに私にも婚約者がいますので」

「でも、まだ正式にグルエフ辺境伯子息の婚約者になってはいませんよね?」

「………」

「グルエフ辺境伯領は王都から遠いですからね」


イーサンの言う通りだった。

今はお互いの両親に婚約の旨を伝える手紙を送ったばかりで、正式な婚約手続きには時間がかかる。


「どうして私の婚約相手を知っているのですか?」

「たまたま見かけまして。驚きましたよ」


まさか、数日前のテオドールとのやり取りのことだろうか?

あれを見られていたなんて……。

そんな場合ではないが、羞恥で身悶えそうになる。


「見ていたのなら、私が殿下の婚約者になるつもりはないとわかりますよね?」

「レオンハルト殿下にはクレメント侯爵令嬢よりもあなたのほうがお似合いだと思っているんです」

「………」

「そう、愚鈍な王太子にはあなたのような田舎の男爵令嬢がお似合いです」


そうイーサンが言うやいなや、わたくしの足元の地面から土で作られた手のようなものが2本現れた。

そしてそれはわたくしの足首を掴み、動きを封じられてしまう。

そしてさらに2本の土の手が、今度はわたくしの腕を掴んだ。


イーサンは土魔法が使えるらしい。


「あなたは殿下の従者ではないのですか!?」

「そうですよ。幼い頃からずっと殿下を見てきました。しかし残念ながら彼は王の器ではありません」

「それを支えるのが臣下の役目でしょう?」

「すぐ近くに王たる器を持つ者が居るのに、ですか?」


イーサンは薄く笑みを浮かべた。


「それはルカ様のことですか?」

「はい。あなたも気付いておられるのでしょう?王にふさわしいのはルカ殿下であることに」




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