断罪のあと(sideブラッド)
読んでいただき、ありがとうございます。
今回はイザベラが断罪された後のモンフォール王国側のお話になります。
※ブラッド視点になります。
よろしくお願い致します。
イザベラとの婚約破棄が行われた卒業パーティーから1週間が経った。
外交のため隣国に居た父が帰国し、謁見の間に呼ばれた私は緊張しながらも、リリーとの正式な婚約を認めてもらおうと張り切っていた。
「私が居なかった間に何があったのかを説明せよ」
挨拶もそこそこに父に告げられる。
私はイザベラによるリリーへの非道な行いの数々を説明し、王太子妃にふさわしくないイザベラとの婚約を破棄したこと、未来の聖女となるリリーと婚約を結びたいことを熱弁した。
話を黙って聞いていた父は胡乱げに私を見つめる。
「阿呆めが」
聞いたことのない父の冷たく低い声に思わずヒュッと喉が鳴る。
「順番を間違えるな。学園での出来事は概ね報告を受けておる。なぜ、イザベラ嬢がそのような真似をしたのか……そもそもお前が婚約者がいる身でありながら、件の男爵令嬢にうつつを抜かしたからであろう?」
「っ!」
「発端はお前だ。愚かなお前のせいでイザベラ嬢は動かざるを得なかったのだ」
「どういう意味でしょうか?」
「お前はなぜイザベラ嬢が男爵令嬢を排除しようとしたと思う?」
「それは……私がリリーを愛してしまったことを知り、嫉妬に狂ってあのような非道な行いを……」
「ふふっ……ふははははっ」
いきなり笑いだした父の顔を思わず見つめる。
笑っているはずなのにその瞳は酷く冷えている。
「嫉妬……そのようなものでイザベラ嬢が動くはずがなかろう。そもそも彼女はお前を愛してなどいない」
「なっ!」
「彼女が愛しているとしたら、この国と民であろう。本当に王妃に相応しい器であった。惜しいことをした」
父は辛そうに目を伏せる。
(イザベラが王妃に相応しい?あんな冷血女が?未来の王妃に相応しいのは優しく心も美しいリリーのような女性だ)
「父上、たしかにイザベラは公爵家で、家格として王家と釣り合いはとれています。しかし、リリーは男爵家ですが光魔法に優れ、いずれ聖女となる女性です。聖女ならば王家と同格になり、王妃としても相応しいでしょう」
「たしかに、聖女になるならば王家と同格になる」
父の肯定に、やはり認めてもらえるのだと喜びが湧き上がる。
「で、その男爵令嬢はいつ聖女になるのだ?」
(……いつ?父上は何を言っておられるのだ?)
この国では古来より聖女信仰が広く根付いている。
その為、この国には常に聖女が1人存在する。
それは必ず光魔法の使い手で、神殿で毎日この国の安寧を祈るのだ。
聖女は国の唯一無二の存在として王家と同格とされ、民からも絶大な支持を得る。
「その、それは、いずれリリーが聖女になると皆が……」
「皆とは誰だ?神殿の関係者か?現在の聖女様が引退されるなどという話は私の耳には入っておらんが?」
「……」
この国では聖女の力が衰え、引退をする時に新しい聖女を選出する。それを何百年と繰り返している。
つまり現役の聖女が引退するまでは新しい聖女は選ばれないのだ。
「お前も知っての通り、聖女になる者は光魔法を持っていれば貴賤を問わずに選ばれる。しかし、光魔法は珍しいが、その男爵令嬢だけが持っているものではない。たまたまお前の通う学園には、その男爵令嬢しか光魔法の持ち主がいなかっただけだ」
ブラッドの顔色がどんどん悪くなっていく。
「そして貴賤を問わないということは、貴族だろうと平民であろうと光魔法の魔力が最も高いものが選ばれる」
そう、リリーはたしかに光魔法を使えるが、魔力が高いのかと言われれば、並より少し上くらいだろう。
国王は名も、貴族なのか平民であるのかも明かさなかったが、先日、10歳にも満たない少女が光魔法を発現させ、その魔力がかなり高かったことが判明した。
他国に奪われたり、貴族に利用されることを怖れて、国と神殿が手を組み、その少女を次期聖女候補として秘密裏に保護したことを告げた。
つまり、リリーが本当に聖女になり得る存在ならば、学園に通うことすらあり得ないのである。
「お前は周りの目も憚らずに件の男爵令嬢を寵愛していたのだろう?そんなお前に媚を売ろうと、男爵令嬢を褒めそやす者なんぞいくらでもいる」
つまりはお世辞を真に受けてしまったのだ。
「せめて男爵令嬢を側妃にするのであれば、イザベラ嬢も動くことはなかったであろう。お前を止めるためにあのような行動をするしかなかったのだ」
「しかし、私はリリーを愛しているのです……」
「そうか、たしか『真実の愛』だったな」
「はい」
父は疲れきった顔でこちらを見つめる。
「お前のくだらんその『真実の愛』とやらの責任は自分で取るがいい」