動き出す者3
読んでいただき、ありがとうございます。
本日2話目の投稿となります。
※少しだけ流血の描写があります。苦手な方はお気を付け下さい。
よろしくお願い致します。
「よし、やってみよう」
ルカは再び魔力を集中させると、十数個の氷の塊を浮かび上がらせ……それらが全て荒く削られた氷の刃へと姿を変えた。
「これでどう?」
「………あの、ちょっと怖いです」
氷の刃の切っ先が全てわたくしに向けられている。
「君が形を変えろと言ったんじゃないか」
「全部を刃にしろとは言っていません」
ルカはなんだか納得がいかない表情を浮かべている。
わたくしだって思っていたのと違った。
「じゃあ何の形がいいの?」
「えっと、じゃあ星の形はどうでしょう?」
「星?星に何の意味が?」
「いや、かわいいじゃないですか」
「………」
「………」
どうやらルカとは色々噛み合わないようだ。
しかし、彼は渋々といった様子で再び魔力を込め始めた。が、
「これは、なかなか難しいな……」
一旦全ての氷を消し去り、1つだけ氷の塊を両掌の間に
浮かべる。
それをなんとか星型にしようとしていた。
「ルカ様。氷の塊を削るのではなく、最初から星型の氷を出すようにしてみて下さい」
「……わかった」
ルカが再び取り組むと、なんとか星型らしき氷が現れた。
「凄いじゃないですか!出来ましたね」
「いや、もう少し練習が必要だね。それにしても、これはなかなか……魔力操作が難しい」
「そうなんですね」
「君はどうしてコツがわかったの?」
「えーっと、昔、実際に氷魔法で作って見せてもらったことがあるんです」
「星型の氷を?」
「はい。あとはクマやウサギなんかも作ってくれましたよ」
すると、ルカはその美しい青紫色の瞳を大きく見開いた。
「その人はかなり複雑な魔力操作をやってのけるんだね……王立魔術師団の人間?」
「いえ、あの、幼い頃のことなので誰かはよく覚えてないんです。ただ、私を喜ばせるために作ってくれただけで……あっ!次は私の番ですね」
前世の兄に作ってもらったとは言えず、わたくしはなんとか誤魔化すしかなかった。
◇◇◇◇◇◇
「では、私も光魔法を披露したいのですが、どうしましょうか?」
光魔法は癒やしの力だ。
わたくしの魔力量は並よりも少し多い程度で、擦り傷などの軽い怪我の治癒くらいは普通に出来る。
ちなみにそれ以上となると、どこまでの治癒が出来るのかは不明だ。
なぜなら、それを知ろうとすると実際に怪我人を用意して実験をすることになってしまうから。
入学前はオリバーとテオドールの手合わせの救護班として、彼等の傷をよく治していた。
しかし大怪我となると、わたくしが5歳の頃にテオドールが木から落ちた時に使った光魔法しか経験がない。
(ルカ様にどのように披露するべきかしら? わたくしがちょっと指先に傷でも付けてみて、それを治して見せようかしら?)
さて、どうしたものかと悩んでいると、ルカが無言で右手に魔力を込めた。
何をするのかと黙って見守っていると、右手に氷の刃が現れる。先程わたくしに向けられていたものより刃が薄く、ナイフのようだ。
そしてその氷のナイフを自身の左腕に軽く突き立てて、「スパッ」と音がしそうなくらい勢いよく引き裂いた。
「ひっ……!」
ルカの白い左腕に付けられた切り傷からは、すぐに真っ赤な血が溢れ出す。
「なんてことを!」
傷を負うならば男爵令嬢であるわたくしだ。
慌てるわたくしを無視して、ルカはその左腕を差し出した。
「さあ、これを光魔法で治癒してみせて」
「そんな、血がたくさん……!」
「いいから。そのためにわざわざ怪我したんだから」
わたくしはパニックに陥りながらも、これは怪我をさせたままのほうが不味いのではと、頭のどこかでは冷静に考えていた。何せ、彼は王族なのだ。
わたくしは瞬時に頭を切り替えて、両手の掌に魔力を纏わせる。そうしてたくさんの光の粒が現れて、ルカの左腕の傷口を覆った。
ルカは無言でじっとわたくしを見ている。
「本当に光の粒が舞うんだね」
集中しているので話しかけないで欲しい。
「たしかに挿し絵のままだ」
「挿し絵、ですか?」
無視をする訳にもいかず、魔力を途切れさせないように注意しながら、ルカに応える。
「ああ、光魔法を使う少女の挿し絵だよ。知らない?」
「私は見たことがないですね」
「そう……」
「光魔法の学術書ですか?」
王族であるルカに傷跡を残すわけにはいかない。
わたくしは会話を続けながらも、集中力を切らせないようにするのに必死だった。
だからルカが探るような目でわたくしを見続けていることに気付かなかった。
「いや、ただのくだらない物語だよ」
誤字脱字報告ありがとうございます。
助かります。




