動き出す者2
読んでいただき、ありがとうございます。
この話を書き終わってみると、ダラダラ長くて読みにくい気がしたので2話に分けました。
続きは本日17時頃に投稿予定です。
よろしくお願い致します。
「で、殿下……」
まさかの人物に声を掛けられ、動揺してしまう。
(なぜ、この方が……?)
「君の光魔法に興味があるんだ。ああ、僕は氷魔法だよ」
魔法属性うんぬんではなく、やっとレオンハルト対策が落ち着いたところで、またもや新たな王族と関わりたくはない。
「他の誰かとペアを組むつもりだった?」
こてん、と首を傾げる仕草がとても可愛らしい。
しかし、ここで負けてしまう訳にはいかないと、勇気を振り絞る。
「はい。あの、エミリーとペアを組もうかと……」
「ふーん。カールソン嬢はたしか風魔法だったよね?」
「はい」
「そして、君の兄上も風魔法の使い手じゃなかったかな?」
「はい。そうです」
嫌な予感がする。
「この課題は自分とは異なる、あまり馴染みのない魔法を学ぶのが目的だよね。だったらすでに君は風魔法にとても馴染み深いんじゃないのかな?」
「そ、そうですね」
暗に「よく知ってる魔法を学んでどうする」と言われてしまった。
見た目とは違い、なかなか手厳しい。
しかし前世でのわたくしも、その兄のセオドアも、氷魔法の使い手だった。
なので、氷魔法にも充分馴染みがあるのだが、そんなことを言える訳もなく……。
「あの、では、殿下。よろしくお願い致します」
「僕等はクラスメイトなんだから、敬称はいらないし、名前で呼んでくれてかまわないよ」
「はい。では、ルカ様と……」
「うん。まあ、それでいいよ。よろしくねアリア嬢」
あっという間にペアとなり、お互い名前で呼び合うことになってしまう。
もちろん、その一部始終は教室のクラスメイト達に見られてしまっていた。
◇◇◇◇◇◇
さっそくペアで課題をこなすことになった。
今回はお互いの魔法について理解を深めることが目的なので、まずは現時点でどんな魔法を使えるのか確認をすることから始める。
今までは教室でのみ行われていた授業だったが、今日からはグラウンドや実験室の使用が許可された。
わたくしのような光魔法は室内でもなんら問題はないが、屋外でないと危険な魔法も多い。
「ルカ様、どちらに向かいますか?」
「そうだね、せっかくだから外に出てみよう」
並んで歩くわたくし達に視線が刺さる。
ルカは全く意に介していない態度だが、わたくしはそうはいかない。
笑顔を貼り付けながら、心の中で悪態をつく。
グラウンドにはわたくし達以外にも、多くの魔術師科の生徒達が出て来ていた。
今日から騎士科の生徒達は遠征訓練の為、学園には来ていない。
いつもグラウンドで稽古をしている彼等が居ないこともあってか、グラウンドがやけに広々と感じた。
「さっそく始めようか」
まずはルカから魔法を披露してもらう。
わたくしからも距離を取った位置で、立ったまま静かに両手に魔力を込める。
すると、ルカの周りに細かな氷の粒が舞った。
ここまでは、魔力量が少ない前世のイザベラでも出来ることだった。
しかし、ルカがさらに魔力を込め続けると、舞っていた氷の粒はどんどんと大きくなっていく。
氷の粒だったものは拳くらいの大きさに、そしてさらにその大きさを増していく。
(これは……流石ですわね)
拳サイズの氷の塊を出現させることはそれ程難しいことではない。まあ、それすらイザベラは無理だったけれど。
しかし、ルカが出現させた氷の塊はその数が異常だったのだ。
数えてはいないが、100近くはあるのではないだろうか?
「とりあえずこんな感じだよ」
ルカがそう告げると、彼の周りに漂っていた氷の塊が音もなく砕け散り、冷気だけが残された。
「素晴らしいですね。ルカ様はかなりの魔力量をお持ちなのですね」
「そうだね。で、他には?」
「他には?とは?」
「そんなおべっか塗れの感想はいらない。僕の魔力量が多いことは見ればわかる。君の意見が聞きたいんだけど?」
「………」
やはり、見た目と中身のギャップが凄い。
だが、ルカの言っていることは間違いではない。
これは授業の一環で、彼はクラスメイトなのだから。
「では、率直に言います。氷の量も大きさも申し分無いとは思ったのですが、形が全てそのままでしたね」
「形?」
「はい。全てただの氷の塊でしたので」
わたくしの前世の兄セオドアは、ルカ程ではないが、かなりの魔力量を持つ氷魔法の使い手だった。
そんな年の離れた兄は、幼いわたくしを喜ばせるために氷で様々なものを作っては披露してくれたのだ。
最初は星の形だったように思う。
その時のわたくしはまだ魔力に目覚めておらず、大層喜んだそうだ。そして「もっと、もっと!今度はくまさんがいい!」と、兄に無茶振りをした。
優しい兄はそれから魔力操作を磨き、氷でくまさんの顔を作れるようになっていた。
そして、忘れもしないわたくしの10歳の誕生日。
兄はパーティーが終わった後、公爵邸の庭でたくさんの小さな星型の氷を浮かび上がらせ、くまさんやうさぎさん等、かわいい氷の動物達をわたくしの周りで踊らせてくれたのだ。
──あの時の光景は今でも鮮明に覚えている。
「形……」
そう呟くルカの声に、わたくしは慌てて過去の記憶に蓋をする。
前世の家族との思い出は、一度思い出すと次から次へと蘇ってしまう。
それはみっともなく死んでしまったイザベラの、死後の彼等のことを考えてしまい辛くなるし、アリアを愛してくれている今の家族に申し訳ない気もして、なるべく思い出さないようにしていた。
だってもう、わたくしはイザベラとして二度と彼等には会うことはできないのだから。




