動き出す者1
読んでいただき、ありがとうございます。
今話はアイザック視点の続きになります。
(視点はアリアに戻ってます)
よろしくお願い致します。
「えーっと、まずは俺の恋愛アドバイス……くそっ、自分で言ってて恥ずかしいな!これ!えー、まあ、そのアドバイスは、『これをすれば必ず上手くいく』というものは無いということを前提で聞いて下さい」
腹を括ったらしいアイザックが、わたくし達4人に向けて話し出した。
「それではアドバイスにならないのではないですか?」
ライラがすぐさま反応する。
「そうですね。恋愛は学問ではないので、明確な答えはないんです。ただ、なんとなく傾向はあります。」
「傾向……ですか?」
「はい。男はこういう女の子に弱いっていうやつですね。ただ、それは相手の性へ……いや、好みにも左右されるので……。そう、例えばですね『りゅうのきしものがたり』は皆さん読まれたことはありますか?」
突然、子供向けの本のタイトルが出てきたことに驚いたが、読んだことがあるので全員が頷く。
『りゅうのきしものがたり』とは、この国で読まれる童話のうちの1つで、とある国のお姫様に惚れてしまった魔王が、その姫を攫ってしまう。そんな姫を助け出すために騎士が立ち上がり、ドラゴンを仲間にして魔王を討ち取り、最後は助け出した姫と騎士が結婚する。
そんな、ありきたりな物語だ。
「あの本を読んだ女の子のほとんどが、姫を助けたヒーローの『騎士』をかっこいいと思ったはずです」
わたくしとローズとマデリンは頷く。
「でも、あの物語を読んで悪役の『魔王』をかっこいいと思った女の子も居ると思うんです」
なぜか、ライラがびくっとした。
「他にも、姫が攫われてオロオロしている『兄王子』や、『魔王の配下』を好みに思う女の子も存在するはずなんです。それは男でも同じことで、ヒロインの『お姫様』が好きな男が多数ですけど、中には『意地悪な魔女』が好みの奴もいる……つまり、それ程に人の好みは千差万別ということです」
「なるほど。よくわかりました」
ライラが鷹揚に頷いた。
「で、これらを恋愛に当てはめると、男は単純なので『女の子に褒められる』のが好きな奴が多いんですよ。この方法は多数の男には通用します。しかし、中には褒めるとは逆の『女の子に罵られる』のが好きな男も存在するんです」
「まあっ!」
ローズが口元に手を当てて驚いている。
「なので、まずは大多数の男が好むであろう行動をお教えします。しかし、必ずしもそれが通用するとは思わないで欲しいんです」
「通用しない場合はどうすればよろしいのでしょう?」
今度はマデリンが質問をする。
「それは相手の様子をみながら、やり方を変えて好みを探っていくしかありませんね」
「なかなか難しそうですわね……」
ローズが少し落ち込んだように呟く。
「大丈夫ですよ。俺なんかは複数人を相手にしているので大変ですけど、ローズ様はレオンハルト殿下だけを見極めればいいんですから」
「………」
いい笑顔をしたアイザックのフォローに、ローズは無言になる。
「じゃあ、今から具体的な内容を話していきますね」
本格的な恋愛指南が始まった。
◇◇◇◇◇◇
(これは……思った以上に為になるわね)
アイザックは事前に何も準備をしていないにもかかわらず、恋愛指南という難役を見事にこなしている。
まず特筆すべきは、彼のトーク能力の高さだろう。
時に自分の体験談を交えながら、時にクイズ形式にしたりして、飽きのこないトークを中心に展開している。
体験談には失敗談も含まれているので、気になってつい聞き入ってしまう。
他の3人も同じようで、今では前のめりで参加していた。
そして指南が進むに連れて、ある恐ろしい事実が浮びあがる……。
(もしや、わたくし……駄目な行動ばかりしていたのではないかしら?)
これは今ではなく、前世のイザベラの事を指す。
最初にアイザックが「男は単純なので女の子に褒められるのが好きな奴が多い」という発言から、嫌な予感はしていたのだ。
「あの……ちょっと聞きたいんですけど」
「はい。妹ちゃん、どうした?」
「例えばなんですけど、男性が失敗した時には叱咤し、振る舞いを都度注意して、全く甘えない女性ってどうですか?」
「そうだな……相手がいつも口煩いだけだと、煩わしく感じて距離を置かれることが多いんじゃないか?」
「………」
(ああああ〜、やっぱりそうでしたのね!)
わたくしは、婚約者だったブラッドに対して多数の男性が喜ぶであろう行動とは逆のことばかりをしてしまっていた。
その事実に今更ながらに気付き、愕然としてしまう。
「まあ、一般論だぞ。相手との関係性にもよるし。もちろん、そういうのが好きな男もいるからな」
「………はい」
どうやらブラッドは一般的な感覚の持ち主だったらしい。
「普段は口煩くても、2人きりの時に甘えられたりすると、そのギャップにやられることもあるし」
「……なるほど」
前世にアイザックのような恋愛アドバイザーに出会っていれば、イザベラの人生は違うものになっていたかもしれない。
(王太子妃教育の教師陣に、彼のような人物を加えるべきでしたわね)
全ては今更だ。
それはわかっていても、あの時にああしていれば、こうしていれば……後悔の念が押し寄せる。
ちらりと、真剣にアイザックの話を聞いているローズを見る。
せめて今世では、ローズがイザベラのような結末にならないよう願うばかりだった。
◇◇◇◇◇◇
アイザックの第1回恋愛指南は大好評のうちに終わった。
今回の指南内容を参考にしてみて、また困ったことがあれば、第2回を開催することで解散となる。
アイザックは指南の後に、ちゃっかりマデリンだけでなく、ローズやライラにも商品を紹介する約束を取り付けていた。
そして翌日、わたくしはいつものように教室で授業を受けている。
今までは、まだ入学したばかりということで座学のみの授業だったが、そろそろ実技や課題なども増やしていくと教師が説明をする。
「じゃあ、初めての課題に取り組むために2人組になってくれ。ただし、必ず違う属性同士でペアを組むように」
魔法属性は多岐に渡る。
これは自分とは違う魔法をより知るための課題だった。
わたくしはエミリーとペアを組もうと思っていた。
彼女の魔法属性は風。
兄であるオリバーと同じなので、わたくしにとっては勝手知ったる属性ではあるのだが、それだけに課題をこなすのは楽だと思ったのだ。
さっそくエミリーに声を掛けようと、席を立つ。
と、そこへ1人の人物が音もなく近付いて来た。
「ローレン嬢。良ければ僕とペアを組んでもらえないかな?」
まるで絵画から抜け出したような美貌の第二王子が微笑んでいた。




