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受難の日2(sideテオドール)

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

看病でバタバタしておりまして、書く時間があまり取れず今回も少し短めです。


※今話もテオドール視点のお話になります。


よろしくお願い致します。

午後の授業をサボってしまった僕は、魔術師科の校舎の出入り口付近で、アリアが出て来るのをひたすらに待つ。


アリアときちんと話をしようと決意はしたものの、様々な思いが浮かんでは消えて、頭の中をぐるぐると回る。


──入学してから今まで何があった?

──噂のせいで嫌な思いをしたんじゃないか?

──クレメント嬢から何かされたのか?


アリアが傷付いたのではないかと心配だった。

でもそれ以上に、ずっと気掛かりだったことがある。


──君は、レオンハルトのことをどう思ってる?


しかし、これをストレートに聞いてもいいのだろうか……。

噂を真に受けていると思われて、アリアを余計に傷付けてしまわないだろうか……。


結局答えが出ないうちに、授業を終えたアリアが校舎から出て来てしまった。


「アリア!」


僕が声を掛けると、驚いた顔をしていた。

授業をサボってまで話に来たとはさすがに言えず、自主練を抜けて来たと誤魔化した。


校舎からは少し離れたベンチに並んで座り、話をする。

僕はアリアを傷付けてしまわないよう、慎重に言葉を選びながら、気になっていたことを聞いてみた。


すると、クレメント嬢とのことは彼女が自身の手で、すでに解決してしまっていた。

どうやら騎士科に回ってくる噂は少し遅いようだ。安心すると共に、さすがアリアだと感心する。

彼女は幼い頃から賢く、頭の回転も早かった。

僕はそういったことに疎い自覚はあるので、もしも僕がアリアと同じ立場になったらこうは上手くいかなかっただろう。


その話の流れで、なぜこんな噂が流れたのかも聞くことができた。

そして、アリアの話を聞いて確信する。


(レオンハルトはアリアのことを好きになってしまったんだ)


入学式の後に偶然出会ったと言っているので、その時に一目惚れでもしたんだろう。

アリアはあまりピンと来ていないようだったが、僕にはわかる。


アリアは元々とても愛らしかったが、2年振りに再会した今では、それに女性らしさも加わって異性の目を惹く容姿と雰囲気になっていた。

この学園で男どもが寄って来ないのは、ひとえにあのオリバーの妹だという理由が大きい。



「仮にそうだとしても、殿下にこんなことをされるのは正直迷惑だわ」


(………っ!)


思わぬところでレオンハルトへの気持ちを聞くことが出来た。


迷惑に思っているということは、レオンハルトへの好意はないと見做していいだろう。

心の中で僕は盛大にガッツポーズをし、現実にはアリアに激しく同意の言葉を吐く。


そのすぐ後のアリアの言葉で、どん底まで落とされるとも知らずに……。



「殿下と変な噂が立つと、私の婚約者探しにも支障をきたしてしまうもの」

「え?」



◇◇◇◇◇◇



用事があると言って立ち去るアリアの背中を見送る。


すると彼女は、背がひょろりと高く、赤みの強い長めの髪を結って制服を着崩した男子生徒に声を掛けていた。


(あの男がアリアの婚約者候補なのか?)


胸が痛み、焦燥感が駆け巡る。


(あんな軽そうな男はアリアには似合わない)


そうは思っても、今の僕にはアリアの行動に口を挟む立場も資格もない。

自分ではない男に笑いかけるアリアを見ていられなくて、僕はベンチから立ち去る。



『だから自分で婚約者を見つけないと』


『だってうちは田舎の男爵家よ?国防の要となるグルエフ辺境伯家とは釣り合わないもの』



アリアの言葉が頭から離れない。


家格の違いなんてわかってた。

それでもアリアと共に居られるように、今まで必死に頑張ってきたんだ。


僕がまだ後継者として認められていないから、アリアを婚約者にはできないのだろうか?



『アリアちゃんさえ良ければテオの婚約者にって言って下さったわ。お世辞でも嬉しかった』



アリアはお世辞だと言っていたが、母は相手に誤解を与えるようなお世辞を言うタイプではない。


(じゃあ、母上は本当にアリアを僕の婚約者にしてもいいと思っている?)


焦りで考えが上手く纏まらない。

母に話を聞かなければ……でも、悠長に馬車で自領まで帰っている時間はない。その間にもアリアが婚約者を見つけてしまうかもしれない。


僕は学園からグルエフ辺境伯家の家紋付きの馬車に飛び

乗り、王立魔術師団の宿舎へと向かった。



◇◇◇◇◇◇



「はい。じゃあ今から転移させるねー。初めての人は魔力に酔っちゃう人も多いから、気を付けてねー。吐く時は魔法陣から離れてから吐いてねー」


語尾を伸ばす独特な喋り方でポータルの注意事項を説明してくれているのは、この国の王立魔術師団の団長その人だった。


明るい茶色の髪に、開いているのか閉じているのかわからない糸目。年齢は20代後半であろう中肉中背のこの男性は、5年程前に王立魔術師団団長に抜擢された。

飄々としていて、掴みどころのない人物だが、この若さで団長を任されているのだ。かなりの強者に違いない。


「あの、今更ですが、急な要望に応えて下さり、ありがとうございます」

「気にしないでー。元々オリバー君に月1でポータル使わせる約束だったからー」


焦りに焦っていた僕は、オリバーを訪ねて事情を説明し、彼の月1でのポータルの使用許可を今回だけ譲ってもらったのだ。


「それに、事情は聞いてるよー。初恋っていいよねー。僕は近所のお姉さんだったなー」


オリバーは団長にどこまで説明したんだろうか。恥ずかしくて顔が赤くなるのが自分でもわかった。


「子持ちの人妻だったから叶わぬ恋だったけどねー」

「………」


その初恋がいつ頃なのかはわからないが、団長は年上の女性が好みだったようだ。


「じゃあポータルを発動させるよー。いってらっしゃーい」


団長の声を合図に、足元の魔法陣が光り輝く。

そして周りの景色が歪み、魔力の渦が身体を揺らす感覚に思わず目を瞑る。

そのまましばらく揺れを感じていたが、徐々に揺れがなくなり、完全に止まる。そっと目を開けるとそこは王城と同じポータルの中だったが、周りの景色が違った。

足元の魔法陣の光が完全に消えたことを確認してから、僕はポータルの外へと歩き出す。


………まだ身体が揺れているような気がする。これが魔力酔いなのだろう。


グルエフ辺境伯領には有事に備えてポータルを複数箇所設置してある。

そのうちの1つに送ってもらった。

僕は魔力酔いもそのままに、急いでグルエフ辺境伯邸へと向かった。



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