入学と再会2
引き続きバタバタしております。
熱が落ち着いたと思ったら今度は嘔吐が……。
ソファが全てを受け止めてくれました。
皆様もお気を付け下さい。
少し短めです。よろしくお願いします。
ミズノワール王国は長い戦争の歴史からか、実力主義な風潮が強い。
さすがに王族や高位貴族は血筋を重要視しているだろうが、王立騎士団や王立魔術師団は特にその風潮が強いように思う。
そんなミズノワール王国の王立学園には、能力さえ認められれば平民も通うことが許されている。
特待生として授業料も免除されるので狭き門にはなるのだが、身分のせいで優秀な若い人材を逃してしまわないよう配慮されている。
そして、そんな平民や王都にタウンハウスを持たない下位貴族のために、学園には寮が用意されていた。
女子寮と男子寮に分かれており、それぞれの寮には食堂も付いている。
わたくしもこの寮に3年間お世話になる。
イザベラだった頃は、専属の侍女に身の回りのこと全てを任せていたが、ローレン男爵家は通いの使用人と料理人を合わせて数名雇うだけで精一杯。
もちろん、アリアの専属侍女を雇う余裕などない。
だからわたくしは、アリアとして育っていく中で、母に自分で身の回りのことをする教育を受けた。
そのおかげで、寮での1人暮らしにはそれほど不安はなかった。
(ふぅ、こんなものですわね)
わたくしは、寮の部屋に届いていた制服に袖を通し、姿見鏡に映して全身をチェックしていた。
アリアはあまり背が伸びず、女性の中でも低い部類に入るのでバランスが悪く見えないよう、ただし短くなりすぎないようにスカート丈には気を遣った。
そして母譲りの薄桃色のふわふわとした髪は、自分で手入れが出来るように肩までの長さにしてある。
いよいよ今日から学園生活が始まる。
わたくしは王立学園の魔術師科に在籍することになった。
やはり光魔法はこの国でも希少なので、学園からも普通科ではなく魔術師科を薦められたからだ。
わたくしも、光魔法の扱い方をしっかりと学べるいい機会だと思っている。
そしてもう1つ、わたくしには学園在籍中に婚約者を見つけるという重要な課題がある。
5歳の頃から10年もの間、グルエフ辺境伯が幼いわたくしに無理な縁談が来ないよう、盾になってくれていた。
しかしわたくしも15歳となり、そろそろ婚約者が居てもおかしくない年齢になった。
グルエフ辺境伯の庇護は解かれ、自分で婚約者を見つけなければならない。
「アリアちゃんさえ良ければ、うちのテオドールの婚約者になって欲しいんだけどねぇ」
王都へと向かう数日前に、挨拶に伺ったグルエフ辺境伯邸で、グルエフ夫人はその手入れされた美しい金の髪を指でくるくると弄びながら、そう言った。
「ありがとうございます。でも私ではテオドール様には相応しくありませんから」
いくらわたくしが光魔法を持っていようとも、国の要となるグルエフ辺境伯家の次期後継者と、地方の男爵令嬢とでは、家格が釣り合わないことはよくわかっている。
「ふふっ。我が家は実力主義なのよ?グルエフ辺境伯家の女主人として采配を振るうことが出来るのなら、家柄なんてさして重要なことではないわ」
グルエフ夫人の言葉は嬉しかったが、それでもわたくしがテオドールになんの利益ももたらさないことに変わりはない。
次期後継者になるために彼が必死で努力している姿を知っているからこそ、わたくしが婚約者になるわけにはいかないのだ。
「まあ、アリアちゃんがグルエフ辺境伯家の庇護下に置かれていた事実は消えないから、王族でもない限りそんな無茶な縁談はしばらく来ないはずよ。その間にゆっくり考えてちょうだい。ね?」
「はい。ありがとうございます」
「学園でテオドールに会ったら、たまには帰るように伝えてね?あの子ったら、ちっとも帰って来ないのよ」
少し拗ねたような顔をするグルエフ夫人に、笑顔で了承の意を伝えた。
「はぁ……」
帰りの馬車の中、思わず溜息がもれる。
学園卒業後に夜会などで出会いを求める女性も多いが、大きな夜会はやはり王都や主要都市部で開催される。
地方にあるローレン家から頻繁に夜会に参加するのはなかなか難しい。
なので、なるべく学園で過ごす間にお相手を見つけなければ……。
わたくしはなんとなく心に重たいものを抱えながら、グルエフ辺境伯邸を後にした。
◇◇◇◇◇◇
入学式は学園の広大なホールで執り行われた。
その後は学科ごとに別れ、さらにクラス別に教室へと案内される。
まだ初日なので、クラスの雰囲気もどこか落ち着きがない。
ひとまず、担任の先生からの挨拶の後、順番に自己紹介をすることになった。
わたくしも周りに倣い、簡単に自己紹介を済ませる。
すると、なぜだか強い視線を感じた。
その方向にちらりと視線を向けると、1人の男子生徒と目が合ってしまう。
金髪に色白のきめ細やかな肌、そしてぱっちりとした青紫色の瞳をした中性的な美しい顔立ち……。
わたくしは内心焦りながらも、失礼にならないように軽く会釈をしてからそっと視線を外し、再び前を向いた。
(だ、男性よね?)
あんなに美しい男性を見たのは初めてだった。
なんというか、人を惹きつける容姿だ。
そして自己紹介の順番は進み、その美しい彼の番になった。
「ルカ・ミズノワールです。よろしくお願いします」
その瞬間、クラス中がざわめく。
この国の名を持つということは、彼が王族であるということ。
そしてルカ・ミズノワールというのは、この国の第二王子の名だった。