入学と再会1
読んでいただき、ありがとうございます。
家族がコロナ陽性になってバタバタしており、少し投稿間隔が開いてしまうかもしれません。
やっと、やっと夏休みが終わったのに……。
よろしくお願い致します。
王都の商業エリアから少し離れた通りを母と2人で歩く。
3年振りの王都は、以前と変わらず活気に溢れていた。
わたくしは王立学園へ入学するため、母と共に王都にやって来ている。
今回もやはり父は領地でお留守番だ。
わたくしが家を出ることを父はずいぶんと寂しがり、出発する日の朝は目が真っ赤になっていた。
(な、泣くほどですのね……)
出発するまでの間、父に、長期休暇は必ず帰ること、まめに手紙を送ることを何度も約束させられた。
母はそれを呆れた様子で見ていたが、父の気持ちもわかるのだろう、特に何も言わなかった。
さすがに出発の時間が近付いてくると、わたくしを離そうとしない父にイライラしていたようだったが……。
王都に到着してから、まずは王立学園の学用品一式の注文をするため、母と専門店へと向かった。
前回、オリバーの学用品を注文するためにこのお店に来た母は、あまりの客の多さと、注文をするために並ぶ列の長さに辟易したそうだ。
だから今回は早い時間に到着したのだが……。
「これは、開店時間に来ないと駄目だったかも」
すでに注文を受付するカウンターには長蛇の列が出来ていた。
しばらく母と共に並んでいたが、なかなか列が進まない。
どうやら、1人1人の注文や配送手続きに時間がかかっているようだ。
「まだまだ時間がかかりそうね。アリア、先に待ち合わせの広場に行って、オリバーと合流しておいてくれる?」
結局、前回と同じようにわたくしとオリバーの2人で広場でランチをすることになるのかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
わたくしは広場のベンチに腰掛けて、オリバーを待っていた。
オリバーは王立魔術師団に就職が決まったが、入団式まではお休みだ。
だから、今日はオリバーが王都を案内してくれることになっていたのだが……。
(……遅いですわね)
待ち合わせの時間を過ぎてもオリバーは現れない。
(お兄様は今日の待ち合わせのこと、ちゃんと覚えているのかしら?)
普段から適当だったオリバーの行動を思い出し、急に不安になる。
しかし、この場所から動いてしまうと、行き違いになってしまうかもしれない……。
「ねえ?誰かと待ち合わせ?」
不意に男性の声がした。
その声の方に顔を向けると、オリバーと同い年くらいの青年が2人、わたくしのすぐ側に立っていた。
「………?」
あまりにも自然な声の掛け方に、誰だったかしら?と記憶の中を探ってしまう。
しかし、この2人の顔に見覚えはない。
「さっきからずっと1人でベンチに座ってるから、気になっちゃって」
もう1人がそう言った。
どうやら、わたくしがオリバーに待ちぼうけを食わされている様子をずっと見ていたらしい。
(知らない方に心配をかけてしまいましたわ)
わたくしは彼等を安心させるために、事情を説明する。
「ご親切にありがとうございます。でも、待ち合わせの相手が来るまで、もうしばらく待つので大丈夫です」
そう伝えると、彼等は顔を見合わせた。
「でもさ、その待ち合わせ相手は来ないかもしれないよ?」
「え?」
「そうそう、約束忘れちゃってるのかも。ひどいよね〜?」
たしかに、オリバーが約束を忘れている可能性は大いにある。
「だからさ、その相手が来ないんだったら俺等と遊ぼうよ」
「えっ?でも」
「ねえ、君いくつ?かわいいね」
「あの、行き違いに」
「大丈夫、大丈夫!」
この人達は何を言っているのだろう……。
全く話が通じない。と、いうか、話を聞いてくれない。
気付けば、ベンチに座るわたくしの両隣に勝手に腰を下ろしている。
(なんて失礼な方達なの!?)
初対面でいきなり近付いて、勝手に隣に座るなんて有り得ない。
わたくしは、座っていたベンチから立ち上がる。
「ねえ、ちょっと待ってよ」
へらへらと笑いながらそう言って、わたくしは左手首を掴まれる。
その手を振り払おうとした瞬間
「おーい、何やってんだ?」
オリバーの呑気な声が聞こえた。
「お兄様っ!」
「なんだ、待ち合わせってお兄ちゃんと?」
「ん?……誰、こいつら?知り合い?」
状況が飲み込めていないオリバーに、わたくしは知らない人だと、ジェスチャーで首を横に振って伝える。
「お兄ちゃんが遅いから、待ってる妹ちゃんと遊んでてあげようと思ってさ〜」
「……あっそ。じゃあ俺が来たからもういいだろ?」
そう言うと、オリバーはわたくしの左手首を掴んでいた男の手を掴む。
「こいつから手を離せよ、な?」
「痛っ!」
「おい、何するんだよ!」
「それはこっちのセリフ。妹に触るなよ」
オリバーはわたくしをぐっと引き寄せた。
「おいっ!」
「ナンパの失敗ぐらいで騒ぎを起こすつもりか?昼間っから警備隊の世話になりたいんなら止めないけど?」
「チッ!」
オリバーの言うとおり、こんな目立つ広場で騒ぎを起こしたくはないのだろう。男達は不満気な態度だったが、渋々ベンチから立ち上がると、そのまま去って行った。
(な、ナンパでしたの!?あれが?)
わたくしは、初めての経験に驚く。
話には聞いたことがあったが、あれがそうだとは思わなかった。
そもそも、自分がそんな目に合うとは思ってもいなかった。
「なんでお前1人なの?母さんは?」
「お母様はまだ学用品のお店で並んでいるわ」
「あー、だからかぁ……」
「それより、遅いわよ!ずっと待ってたんだから」
「それは悪かった」
オリバーは素直に謝った。
そして、わたくしもオリバーと無事に合流できたことに、こっそりと安堵していた。
「それにしても、アリアはもう少し気を付けたほうがいいな」
「何?」
「いや、お前は中身は気が強いんだけど、見た目は甘ったるくてチョロそうに見えるんだよ」
「は?なにそれ?」
「特に男は、アリアみたいな見た目に弱い奴が多いから、勘違いして変な奴が寄ってくるかもしれん…。学園でも気を付けろよ」
「そんなこと言われても……」
「困った時はテオを頼れよ?そしたらあいつが助けて……あっ!」
喋っていたオリバーが、急に声をあげる。
「さっきのナンパ……テオに助けてもらえば良かった……」
「え?テオ?」
テオドールはここに居ないのに?どうやって?
その後もオリバーは、男らしさをアピールとかチャンスを潰したとかなんとか、ぶつぶつと呟いていた。
◇◇◇◇◇◇
オリバーとベンチに座りながら、母を待つ。
今日も広場には屋台が並んでいて、いい匂いが漂っている。
「ねえ?ランチはどうする?」
「あ、王都で美味いって人気のレストラン予約してあるんだよ」
「えっ!」
オリバーが?
あのオリバーが、こんな気の利いたことが出来るだなんて……。
やはり、この3年で彼も成長し、大人になったのだ。
「俺は広場の屋台で適当に食べればいいやって思ってたんだけど、エリーヌが予約してくれてたんだ」
「そう……」
やっぱりね……。
エリーヌにはこれからも兄がお世話になりっぱなしになるのだろう。
「そういえば……」
わたくしは広場の屋台を見て、ふと彼のことを思い出した。
「学園でレオには会えた?」
「レオ?」
「3年前にここで一緒に串焼きを食べたじゃない」
「ああ!あの軟弱な世間知らずか!」
「………」
結局彼がどこの貴族だったのか、少しだけ気にはなっていたのだ。
「学園では見かけなかったなぁ」
「そうなの?お兄様と同い年くらいかと思ったのだけど……」
「向こうだって、俺に気づいたら声掛けて来るだろうし、学園に入学してないんじゃないか?」
そうなのだろうか?
どう見ても高位貴族の子息にしか見えなかったのに。
(もしかしたら、実はすごい年上か年下だったとか?学年が被ってなかったのかもしれませんわね)
そうこうしているうちに、母がやっと広場に現れた。
わたくし達はそのまま、エリーヌが予約してくれたレストランへと向かう。
王都で人気というだけあって、そのレストランのランチはとても美味しかった。
食事を終え、オリバーに王都を案内してもらうと、あっという間に時間になる。
わたくしは馬車で学園の寮の前まで送ってもらい、馬車から荷物と共に降り立つ。
母とオリバーに別れを告げ、たくさんの荷物が入った大きなトランクを運びながら、新しい生活に向けての一歩を踏み出した。




