兄と婚約者2
「はじめまして、エリーヌ・ノヴァックと申します」
オリバーが王都から帰って来たその10日後に、エリーヌが婚約の挨拶をしに、我が家へとやって来た。
エリーヌは青銀色の長い髪に、深い海のような瞳の落ち着いた雰囲気を持つ、とても美しい人だった。
とてもじゃないが、オリバーに領地経営の代理を提案するような人には見えなかった。
(美しい方ね。それに聡明そうだし……本当にお兄様が相手でよろしいのかしら?)
オリバーには申し訳ないが、彼女を見て抱いた率直な感想がそれだった。
挨拶と家族を紹介し、応接室へと場所を移す。
「改めて、ノヴァック嬢。遠い所まで来てくれてありがとう。婚約についてだが、我が家はもちろん賛成なんだが……その、本当にうちの息子でいいのかい?」
「オリバーは悪い子ではないのよ?でも、昔からやんちゃな子で……その、大丈夫かしら?」
どうやら、両親もわたくしと同じ感想を抱いたらしい。
「はい。元はと言えば、私のせいでオリバー君が魔術師団長に目を付けられてしまったので……」
「まあ!そうだったの?」
エリーヌの話によると、経営学科の女子生徒はエリーヌだけしかおらず、そのことで魔術師科の男子生徒数名がからんできたらしい。
たしかに、経営学科はオリバーのように次期領主になる予定の貴族や、商人の子息がほとんどだ。
女性が爵位を継ぐことは稀なので、経営学科に女子が居るのは珍しい。
「女のくせに経営学なんて生意気だと……計算よりも花嫁修業をしたほうがいいんじゃないかと言われてしまって」
この美貌だからこそ、余計にその男子生徒達の目にとまってしまったのかもしれない。
「そこにたまたまオリバー君が通りかかって、私を助けるためにその男子生徒達を魔術でやっつけてしまったんです。それが噂になって、今度はオリバー君が魔術師科の人達にからまれるようになって……」
(なるほど。経営学科なのに魔術師科の生徒よりも強いことが噂になったのね)
「それをまたオリバー君が片っ端から魔術で黙らせていったんです。そしてその噂が魔術師団長の耳にまで届いて……」
魔術師団長の耳に届くなんて、一体どれだけの生徒を黙らせたのか……。
両親も複雑そうな顔をしている。
「じゃあ、オリバーに助けられたのがきっかけで、2人は恋人になったのね?」
「いえ、その時は『助けてやったんだから課題手伝ってくれよ』とオリバー君に言われまして」
「………」
母が無言でオリバーを睨みつけている。
オリバーは思い切り目を逸らしていた。
「それからは、よく課題を手伝ったり、試験勉強を一緒にするようになったんです」
「じゃあ、それで2人の仲が深まって恋人に?」
「いえ、どんなに手伝っても、根気強く教えても、全くオリバー君は勉強に身が入らなくて」
「………」
母は恐ろしい顔でオリバーを再び睨みつける。
オリバーはもう目を閉じている。
「それで、オリバー君がこのまま領主になってしまうのが不安で不安で、思わず『私が代わりになります』と言ってしまったんです」
思っていた以上に酷い馴れ初めだった。
さすがオリバーとでも言うべきか……。
「でも、オリバー君はそんな私の言葉を馬鹿にせずに、『凄い名案だ!』って喜んでくれて……」
エリーヌはそう言いながら、ふわりと微笑んだ。
「私は昔から数字や計算が好きなんです。いずれはどこかの貴族の家に嫁がなければならないのはわかっていたのですが、せめて学生の間だけでも好きなことを学びたいと、父に我儘をきいてもらったんです。でも、周りからは貴族の令嬢にそんなものは必要ないと、馬鹿にされることがほとんどで……だから、オリバー君の言葉がとても嬉しかった。それで、婚約することになったんです」
「だって、エリーヌの成績って学年トップなんだぜ?それなのに、貴族の令嬢だからってその才能を活かせないなんて、もったいないだろ?」
オリバーはあっさりと言う。
その言葉にエリーヌは照れながらも、嬉しそうな顔を隠せていない。
「で、そのことを魔術師団長に話したら、そのまま就職が決まったってわけ」
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続きはなるべく明日に投稿したいと思います。
 




