わたくしの幼馴染2
どこからか、賑やかな楽器の演奏が聞こえてくる。
テオドールが言っていた通り、街は様々な装飾が施され、華やかな装いだ。
そしてたくさんの人達が明るい色の服を着て、楽しそうに笑顔で歩いている。
それが祭りの雰囲気をますます盛り上げる。
この国の大きな祭りといえば、国と神殿が共に主催する、唯一神ラクトフォルスを讃えるためのものが有名だが、この街の祭りはグルエフ辺境伯領独自のものだ。
戦地に赴く騎士達を讃え、鼓舞する為に村の娘達が舞い踊ったのが祭りの由来らしい。
常に隣国との戦火に晒され続けた、この領地らしい祭りといえば、そうなのだろう。
この祭りに参加する人は必ず明るい色の服を着て、派手な格好をするというルールがある。
わたくしも少し派手な、赤いワンピースを選んで着て来た。
隣を歩くテオドールも珍しく、明るいパステルグリーンのシャツに濃いグレーのズボンを履いている。
「テオがそういう色の服を着てるの珍しいね?」
「今日はお祭りだからね。いつもの服じゃ、この祭りに参加できないから」
テオドールはいつも白のシンプルなシャツを着ていることが多い。
「そういう色も似合ってるよ!」
「あ、ありがとう」
テオドールは照れた顔で俯く。
(かわいい……)
恥ずかしそうな彼の反応に、ついそんなことを思ってしまう。
「あの、アリアの服も似合ってる。その、かわいいと思う」
「あ、ありがとう」
カウンターをくらった。
照れた顔のまま言われると、こちらまで恥ずかしくなってしまう。
「えっと、お母様が一緒に選んでくれたの。明るい色の服ってどんな感じにすればいいか迷っちゃって」
「そうなんだ。僕も母上が服を用意してくれていたんだけど、僕が着るにはちょっと荷が重いデザインだったから、自分で選んだんだ」
少しだけテオドールが遠い目をした。
荷が重いデザインってどんなデザインなんだろうか?
(今度、グルエフ夫人に聞いてみようかしら?)
今日のお昼前にグルエフ辺境伯邸に到着すると、グルエフ夫人も出迎えてくれた。
「いらっしゃい、アリアちゃん。暫く見ない間に綺麗になったわね〜。これはテオドールも大変ねぇ」
「母上っ!」
「あら、テオドールの顔が怖いわぁ。今日はしっかりアリアちゃんをエスコートするのよ」
「わかっています」
グルエフ辺境伯は急な仕事で、朝早くに出掛けてしまったらしい。
「あの人もアリアちゃんに会うのを楽しみにしてたのよ。ごめんなさいね」
そう言ったグルエフ夫人の顔は、明るい言動に反して少し不安そうに見えた。
◇◇◇◇◇◇
テオドールと一緒に屋台が並ぶエリアをゆっくりと見て回る。
ランチは食べ歩きにしようと話していたが、種類が多すぎて目移りしてしまう程だ。
「そこのお嬢さ〜ん!そんなシンプルな帽子じゃあ、この祭りには参加できないよ〜!」
笑いながら、屋台の店主である年配の女性に声を掛けられる。
その屋台は様々な髪飾りや帽子を売っているお店だった。
お祭りの為に用意された品々はどれも派手でカラフルで、普段使いなんて絶対に出来ないようなデザインのものばかりが目に付く。
そして、わたくしが日除けに被っている帽子は、クリーム色のシンプルなものだった。
服はお祭りの為に派手なものを買ってもらったが、帽子は普段から使っているものを被ってきてしまったのだ。
「帽子に飾りを付けるだけでも変わるよ。どうだい?」
たしかに周りを見てみると、派手な色の鳥の羽が付いた帽子や、カラフルな花で作られた冠、動物の耳が付いたカチューシャなんかを被っている人もいる。
(シンプルだと逆に浮いてしまうのね……)
わたくしは店主に手招きされるまま、その屋台の品物を
物色し始める。
(うーん。無難に花飾りを帽子に付けようかしら……。でも、ちょっと花が大きいわね。あら?これは)
わたくしが手に取ったのは、先程見かけた動物の耳が付いたカチューシャだった。
本物の動物の耳とは違い、どれもカラフルな色に染められていて、派手だがとても可愛らしい。
「お嬢さんはそのカチューシャが気に入ったのかい?」
「ええ。でも、帽子の上からカチューシャは被れないわ」
「それなら、その帽子に耳だけ付けてあげようか?」
「まあ!そんなことができるの?」
店主のアレンジ能力の高さに吃驚する。
「ああ。お代もカチューシャの金額と同じでいいよ。で、どの耳にするんだい?」
「どれにしようかしら?どれもかわいいわ」
「そこに鏡があるから、試着して選んでいいよ」
わたくしは、様々な動物の耳のカチューシャを着けて鏡を見てみる。
が、どれが似合うのか自分ではいまいちよくわからない。
「テオ!ねえ、どの耳が似合うと思う?」
「えっ?」
「自分じゃあよくわからないのよ」
「いや、どれも似合うと思うけど……」
今まで静かに見守ってくれていたテオドールは、いきなりの質問にしどろもどろになっている。
「テオがこの中で1番いいって思ったのはどれ?」
「えっと、じゃあ、そのピンクの猫の……」
「これね?」
わたくしはさっそく猫耳のカチューシャを着けてみる。
「どう?」
「う、うん。凄く似合ってるよ」
なぜかテオドールが顔を真っ赤にしながら、こくこくと頷いている。
「じゃあこれにするわ」
「そうかい。ちょっと待ってな」
そう言って店主は器用にカチューシャから猫耳だけを外すと、その猫耳に今度はピンを取り付けて帽子のリボン部分に装着出来るようにしてくれた。
わたくしは店主にお礼を言ってお代を支払うと、さっそく猫耳帽子を被ってみる。
帽子の下から見える薄桃色の髪色と、猫耳のピンク色がとても合っている。
「さすがテオね!私の髪色と合わせてくれたのね?」
「え?あ、ああ。うん」
店主の言った通り、帽子に飾りを付けるだけで、なんだか周りの人達と一緒にお祭りに参加できている気分になる。
「テオも何か被ればいいのに」
「いや、僕は……」
「そうだわ!今度は私が選んであげる」
「え?いや、僕はいいから」
とても楽しくなってきてしまったわたくしは、テオドールに似合いそうなものを物色する。
「お揃いなんてどうだい?色違いもあるよ」
また店主が声を掛けてくる。
「まあ!それは素敵だわ!」
わたくしは濃い翠の猫耳のカチューシャを見つけて、それをテオドールにプレゼントした。
「着けて」
「……」
有無を言わせないわたくしの笑顔と言葉に、テオドールは渋々といった様子で、猫耳カチューシャを着けてくれた。
恥ずかしいのだろう。顔も耳も真っ赤になっている。
「……」
(かわいいわね。思った以上に破壊力があるわ)
なんだか、わたくしより似合っている気がする……。
「坊ちゃん。今日は祭りなんだから、楽しんだもん勝ちだよ」
店主は恥ずかしがるテオドールを見て、笑いながら声を掛けた。
「そうよ!恥ずかしがってちゃ駄目よ。皆被ってるんだから!さっ、行きましょう」
「……うん」
機嫌よく少し早足で歩き出したアリア。遅れてその後ろに付いて歩くテオドールの「はぁ、猫耳の破壊力が凄い……」という切実な呟きは、祭りで賑わう喧騒に掻き消され、誰にも聞こえなかった。
私も書いていて、久しぶりに夢の国へ行きたくなりました。
行く度に、新しい耳付きカチューシャや帽子を買ってしまうんですよね。