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王都へ1

わたくしは母と兄オリバーと共に馬車に乗り、王都へと向かっている。

15歳になったオリバーが王都にある王立学園へと通うので、学園の寮に送り届けるためだ。


領地から王都へは片道約1週間かかる。

せっかくなので、わたくしと母は王都観光も兼ねて付いて行くことにした。

さすがに2週間も領地を離れることはできない父は、泣く泣くお留守番となった。


イザベラだった頃はずっと王都で暮らしていたので、アリアになってからの、自然いっぱいの領地暮らしが物珍しかった。

しかし、今はこの国の王都がどんな所なのか、楽しみで仕方ない。



「おっ!アリア見てみろよ!」


オリバーに言われ、窓から外の景色を見る。

どうやら王都に着いたようだ。

そのままずっと窓に貼り付いて、王都の街並みを見つめ続ける。


まず、驚いたのが道幅の広さだった。

馬車がすれ違っても、まだまだ充分な広さがある。

そして商業エリアに入ると、露店が所狭しと並んで活気に満ち溢れていた。


「まずはお買い物にしましょうか」


母の言葉にわたくしの胸は高鳴った。

今日のために、今まで貯めていたお小遣いを持って来ていたのだ。


イザベラは公爵令嬢だったので、買い物といえば、邸宅に直接商会の人間がやって来て、品物を選ぶことがほとんどだった。

未来の王太子妃として、最高級の宝石やドレス、絵画などを直に見て、身に纏い、その審美眼を養う。


しかし、ローレン男爵家は貴族だが、それほど裕福な家ではない。

そのため、母がアリアとオリバーを領地の市場に連れて行き、実際に買い物をする姿を見せた。

そして、お金の価値を教わった。


イザベラは最高級品の値段と、その価値を理解していた。

しかし、銅貨1枚で何を買うことが出来るのか?といったことはアリアになってから知ることが出来た。

民の暮らしを良くしたいなどと考えていながら、実際に平民がどれくらいの金額で、どのように暮らしていけるのか……本当の意味では何もわかっていなかったのだ。


(わたくしは王妃に向いていなかったのかもしれませんわね)


アリアになってからそう感じることが増えた。


◇◇◇◇◇◇


馬車から降りて、歩いて街を散策する。

あちこちからいい匂いがして、食欲がそそられる。


「まずはオリバーの学用品から買いに行きましょう」

「えーっ!」


自分の学用品なのに、オリバーが不満気な声をあげる。

王立学園で使用する学用品は、王都の専門店に売られている。


「俺、腹が減っちゃってさ。先に飯にしたいなぁ」

「もう!あなたが使うものでしょ?」

「でも、リストに書いてある物を注文するだけだろ?俺が行っても行かなくても一緒だって」


学用品一式の注文と支払いをしたら、寮に送ってもらうように手配すればいいらしい。


「アリアだって腹減ってるだろうし」

「はぁ……」


母は溜息をつき、アリアとオリバーに食事をしたら広場で待っておくように言うと、学用品リストと地図を持ちながら、早足で去って行った。

いつもの母なら、オリバーを学用品店まで引っ張って行っただろうが、今日からしばらくは離れて暮らすことになる、少しだけオリバーを甘やかしたようだ。


「よし、何から食う?」

「……あの串焼き美味しそう」

「じゃあ、まずはあれからいくか」


わたくしとオリバーは、肉や海鮮など数種類の串焼きが売られている屋台の列の最後尾に並ぶ。

串焼きに齧り付くなんて、前世では考えられなかった。


(どの串焼きにしようかしら?)


わたくしは背伸びをしながら、並ぶ人の列の隙間から、屋台のメニューを見ていた。


と、その時、ドンッと突然後ろから衝撃が来た。


背伸びをしていたわたくしは、バランスを崩して前に倒れ込む。

それを、すんでのところでオリバーに支えられた。


「おい!危ないだろ!」


オリバーがわたくしの後ろに向かって怒鳴っている。

わたくしも後ろを振り向くと、1人の少年が地面に転がっていた。

どうやら、この子がわたくしの後ろからぶつかったらしい。その拍子に彼も転んだようだった。


「い、痛い……」


呻きながらも、周りをキョロキョロと見渡している。


「おい!聞いてるのか?」

「あ、ああ、すまない」


そう言いながらも、オリバーが手を貸して、少年を立ち上がらせた。


「ちょっと追われていてな、前方不注意だった」


明るい茶色の髪に、焦げ茶色の瞳をしたその少年は、オリバーと同い年くらいに見えた。

髪と瞳の色はありふれた色だが、顔立ちはとても整っている。


「追われてる?」

「ああ」

「何かやらかしたのか?」

「いや、ちょっと家の者が、その、過保護なんだ……」


少年はオリバーの質問に言い淀んでいる。

対して、オリバーは興味津々で、目がキラキラと輝いていた。

わたくしは、嫌な予感がした。


「よし、じゃあ俺等が助けてやるよ」

「お兄様っ!」


わたくしは慌ててオリバーに待ったをかけた。

オリバーは子供の頃から好奇心の塊で、危ないことでもなんでも、すぐに首を突っ込みたがる。


しかし、オリバーはわたくしの声など全く聞いていない。


「どっちから逃げて来たんだ?」

「えっ?あ、あっちから……」


少年が指差す方を確認すると、オリバーはわたくしと少年を両腕でがっしりと抱え込んだ。


「じゃあ、逃げるか。動くなよ」

「え?」


戸惑う少年をよそに、わたくしはオリバーが何をしようとしているのかを瞬時に察して、体を縮こませてオリバーにしがみつく。

オリバーは風の魔力でわたくし達を包み込んだ後に、そのまま少年が指差したのとは逆方向へと走り出す。

わたくしと少年の体はふわりと浮かび上がった。


「うわっ!ちょっと待て」


少年が慌てて叫んでいたが、オリバーは意に介さずに、スピードを上げて、人通りの少ない路地へ入り、そのまま駆け抜ける。

わたくしは目を瞑り、どんどんと風魔法でスピードを上げるオリバーに必死にしがみつくしかなかった。




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