僕の幼馴染3(sideテオドール)
読んでいただき、ありがとうございます。
※今回もテオドール視点です。
最後に少しだけアリア視点になります。
「テオ!今日もやろうぜ!」
僕はローレン家に遊びに来ていた。
持って来たお土産は2人共喜んでくれた。
幼い頃の僕達は、3人で外を走り回って遊んでいたが、
成長するに従って遊び方も変わってくる。
今ではもっぱら、僕とオリバーが手合わせをすることがほとんどだった。
「アリアはいつも通り救護班な」
「……わかったわ」
一拍間が空いた後に、返事をしたアリアをちらりと見る。
僕は14歳、アリアは12歳になっていた。
肩まで伸びた薄桃色の髪はふわふわで、パッチリと大きな翠の瞳はとても愛らしい。
アリアはあまり背が伸びず、小柄なままだった。
逆に僕はぐんぐんと背が伸びてしまい、気付けばかなりの身長差になっていた。
だから、彼女が僕の顔を見る時は自然と上目遣いになっていて、その瞳を見るたびに僕はドキドキしてしまう。
「テオ、……怪我にはくれぐれも気を付けてね」
「ああ、大丈夫だよ」
僕は自分の気持ちがバレてしまわないよう、自然に振る舞うことに全力を使う。
アリアの言葉遣いはすっかり普通になった。
しかし、完全に言葉遣いを変えることは出来なかったらしく、慌てている時などは以前の丁寧な喋り方が出てしまう。
あと、どうしても喋る前に一拍間が空いてしまうらしい。
それでもあの片言だった頃に比べれば、すごい進歩だ。
(僕は前の丁寧な喋り方もかわいいと思うけど)
言葉遣いを変えようと努力している彼女には言えないが、前の言葉遣いのままでもいいのに、と思う。
「よし!準備はいいか?」
オリバーの声に我に返る。
僕とオリバーは距離を取り、向かい合った。
手合わせは武器無し、魔法と体術のみというルールだ。
なぜなら、オリバーは僕と違って剣術の稽古を受けていないから。
「いっくぞ〜!」
掛け声と共に、オリバーがこちらに向かって駆け出した。
そしてその身体に風の魔力を纏い、一気にスピードを上げる。
僕は自身の体に強化魔法を掛け、オリバーを迎え撃つ。
オリバーはスピードを上げた勢いのまま、右手に魔力を乗せて僕に打撃を繰り出す。
それを強化した両肘で受け止める。
━━重い。
強化魔法を掛けていても、両肘がびりびりと痺れる。
今度は僕が攻撃に転じようとすると、するりと離れ上手く距離を取られてしまう。
オリバーも10歳になった頃に魔力が発現した。
風魔法だった。
これが、子供の頃から体を動かすのが好きなオリバーには合っていたようで、みるみるうちに風魔法を使いこなすようになっていった。
そして、強化魔法が発現した僕と手合わせという名のお遊びが始まった。
初めはただの遊びだった。
しかし、僕は家で稽古を受けていたので、オリバーと対等に手合わせが出来てしまった。
そのことがオリバーに火を点けた。
オリバーは我流で風魔法と体術を組み合わせることにハマってしまう。
僕が遊びに来るたびに、手合わせをすることになった。
それが今でも続いている。
戦績はだいたいいつも互角の引き分け。
そう、互角だ。
僕は7歳の頃からほぼ毎日、教師に厳しい稽古をつけてもらっている。
しかし、オリバーは誰にも教わらず、全くの我流だ。
それにもかかわらず、互角……。
オリバーの才能には驚くしかない。
そして、同時に羨ましい気持ちにもなる。
(僕にもオリバーのような才能があれば……)
それでも、なんとか互角で持ち堪えているのは、アリアが見ているからだ。
アリアの前で負けるのだけは嫌だった。
その意地だけでなんとかここまでやってきた。
そして、あわよくば……
(戦う僕を見て、ちょっとはカッコいいとか思って欲しい)
◇◇◇◇◇◇
「え?経営学科?」
手合わせを終えて、オリバーと共に地面に座り込んでいる。
アリアは僕達にタオルを渡すと、冷たい飲み物を邸宅にもらいに行った。
「ああ。だって俺、ここの領主になるんだぞ?」
「いや、そうだけど……」
オリバーはあと3ヶ月後には王都にある学園に通うことになる。
王都の学園は、ほとんどの貴族の子供が15歳から3年間通う場所だ。
僕はてっきり、オリバーは騎士科か魔術師科に入ると思っていた。
「いつも家庭教師の授業サボって怒られてたのに、座学しかない経営学科で大丈夫なの?」
オリバーはじっと座って授業を受けるのが性に合わないといつもぼやいていたのだ。
「まあ、そこは、なんとかなるだろ」
「……」
「なんだよ?」
「いや、オリバーもちゃんと将来のこと考えてるんだなって」
正直なところ、勿体無いと思う。
彼ほどの才能があれば、騎士団でも魔術師団でも充分にやっていける。
「まあ、俺しか跡継ぎ居ないからな、仕方ないだろ?」
「でも……アリアも居るじゃないか。婿養子に来てもらえば……」
「何?お前、うちの婿養子になれんの?」
「え?」
「俺が跡継がないなら、アリアは婿養子になれるどっかの貴族の次男か三男と婚約することになるけど?」
「……」
ニヤニヤした顔でオリバーは言う。
「まあ、そういうことだよ」
オリバーはそう言って、僕の肩をポンポンと叩いた。
まさか、オリバーに僕の気持ちがバレているとは思わなかった。
「それより、そろそろ動かないとやばいんじゃないか?」
「動く?」
「お前もあと1年ちょっとで入学だろ?そしたらアリアとしばらく会えないんだぞ?」
「そうだけど……」
ずっと幼馴染として3人で過ごして来たのに、今更どうしたらいいのかわからない。
「ちょうど俺が学園に行ってる間はお前ら2人で会えるんだから、その間になんとかしろよ」
そう、オリバーが王都に行った後の僕が入学するまでの1年間は、ローレン家に遊びに来ても、オリバーはいない。
つまり、初めてアリアと2人きりで過ごせる。
「とりあえず、デートに行って来いよ」
「デート!?」
「そう。若い男女が2人きりで出掛けること……それがデートだ」
「そ、そんな……」
アリアと2人きりで過ごすだけでもドキドキするのに、デートだなんて。
「デートでお前の男らしいとこ見せるんだ」
「男らしいとこ?ど、どうやって?」
「そうだな……暴漢に襲われそうになったアリアを助けるとかだな」
「え!?そんな危ないところにアリアを連れて行けないよ!」
「うーん。じゃあ、お前の財力を見せろ」
「財力?」
「そう。高級レストランとか貸し切れ」
「え?そんなの僕のお小遣いじゃ無理だよ」
「そこは、親に頼んで……いや、お前んとこの母さん怖いから無理か」
「うん」
僕は即答する。
「うーん。じゃあ、お前は見た目悪くないんだから、もっとこう、色気が必要だな」
「色気?」
「そう。いつもカッチリした服着込みやがって。ほら、胸元をもっとはだけさせてだな」
「そんな、恥ずかしいよ」
「いや、女は筋肉が好きらしいぞ。お前いい体してんだから、もっと見せつけろ」
「や、やめてよ」
(……わたくしは何を見せつけられているのかしら?)
冷たい飲み物を持って来たら、なぜかオリバーが嫌がるテオドールの服を脱がしにかかっていた。
完全に声をかけるタイミングを逃してしまう。
(この2人は本当に仲が良いわね)
わたくしは、生温かい目でじゃれ合う2人を眺めていた。
今回はテオドールとアリアの話を書くぞ!と、書き始めたはずなのに、気付けばテオドールとオリバーのイチャイチャする話になってしまいました。
次回からアリア視点に戻ります。




