僕の幼馴染1(sideテオドール)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
※今回はテオドール視点になります。
馬車に乗りながら、ソワソワとした気持ちで外の景色を眺める。
ローレン家に遊びに行くのが楽しみで、気持ちばかりが急いてしまう。
僕は気持ちを紛らわすように、彼等に渡すお土産の入っている袋の中をガサガサと確認する。
━━喜んでくれるだろうか?
オリバーはとりあえず食べ物なら何でも「美味い美味い!」と喜んで食べてくれる。
しかしアリアは何を渡しても笑顔だが、本当に喜んでいるのかわかりにくい。
でも僕は、そんなアリアが意外と可愛らしいデザインの物が好きなことに気が付いた。
それからは、アリアが喜んでくれそうな可愛らしいものをいつも用意している。
僕はまた外の景色を見ながら、ローレン家の兄妹について考えていた。
◇◇◇◇◇◇
僕はグルエフ辺境伯家の一人息子として産まれた。
グルエフ辺境伯領は隣国との国境に位置しており、屈強揃いと有名な私設騎士団も所有している。
そんな家門の長である僕の父も、武芸に秀でている。
しかし、唯一の後継者であるはずの僕は、幼い頃から運動が苦手で、外で遊ぶよりも部屋で本を読むほうが好きな子供だった。
そんなある日、父の幼馴染であるローレンのおじさんが、息子を連れて遊びに来た。
その子の名前はオリバー・ローレン。
薄桃色の短い髪に翠の瞳をした、快活な少年だった。
彼は僕より1つ年上で、兄弟の居なかった僕は彼にすぐに懐いて、彼の後について回った。
オリバーはとても遊び上手で、彼と外で遊ぶのが楽しくて仕方なかった。
そんな僕を見た両親は、頻繁にオリバーを連れて来るようにローレンのおじさんに頼んだ。
きっと両親は、オリバーの影響を受けて、僕に活発な子供になってもらいたかったんだと思う。
「オリバーには妹が居るんだよね?」
「ああ。今3歳だ」
「妹ってどんな感じ?やっぱりかわいい?」
何がきっかけでこんな話になったのかは忘れてしまったが、僕はひとりっ子だったから、妹という存在に少し憧れがあったんだと思う。
「うーん。高貴な感じ」
「高貴な感じ?」
高貴な感じの3歳児とはどういうことだろう?
「なんか、父さんも母さんも『アリアは高貴な方の生まれ変わりだー!』って言ってるから」
「なんだかよくわからないね」
「まあ、お嬢様みたいな感じだな」
「お嬢様?」
ローレン家は男爵家なので、オリバーの妹は男爵令嬢になる。
それならお嬢様には間違いない。
「まあ、会ったらわかるよ」
「そっか」
結局よくわからないまま、オリバーの妹についての話はこれで終わった。
そして僕は、アリアに会うまでこの会話をすっかり忘れてしまっていた。
◇◇◇◇◇◇
「おはつにおめにかかります。アリア・ローレンともうします。ほんじつはわたくしのために、わがやしきまであしをはこんでいただきありがとうございます」
目の前の愛らしい少女が、完璧なカーテシーを披露しながら見事な挨拶をしている。
僕はただ、まじまじと彼女を見つめることしかできなかった。
彼女はオリバーの妹のアリア・ローレン。
オリバーと同じ髪と瞳の色をしていて、ひと目で兄妹だとわかる。
しかし、ひたすら元気でやんちゃなオリバーと違い、アリアの仕草や話し方はまるで……。
「本物のお嬢様みたいだ……」
僕は思わずそう呟いてしまっていた。
お嬢様に本物も偽物もあるのかどうかは知らないが、彼女を見た瞬間、ただそう思ってしまった。
僕はアリアの5歳の誕生日パーティーに招待され、ローレン男爵家に母と共にやって来ていた。
オリバーはパーティーよりも、僕と外で遊ぶのが楽しみでうずうずしている。
いつもは、僕とオリバーの2人で遊んでいるが、今日は初めてアリアと3人で遊ぶことになった。
最初の挨拶は5歳とは思えない程の所作だったが、一緒に外で遊んでみると、僕らと変わらないただの子供だと思った。
追いかけっこや、鬼ごっこで遊ぶのが初めてだったらしく、瞳をキラキラさせながら、必死に走り回っていた。
意外だった。
てっきりオリバーと毎日外で遊んでいるものだと思っていたから。
僕は年下のアリアも楽しめるように、手加減をしながら走って追いかけた。
最年長のはずのオリバーは全く手加減していなかったけど……。
しばらく走り回って遊んだら、今度はオリバーが木登りで競争しようと言い出す。
そしてスルスルと器用に近くの木に登り始めた。
「ほら早く!お前らも登って来いよ!」
オリバーの言葉に僕は焦る。
だって、木登りなんてやったことがないから……。
(どうしよう……)
ちらりとアリアを見ると、彼女は困った顔で兄を心配していた。
そして、今度は僕の顔を見つめる。
その瞬間、僕はアリアに木登りも出来ない奴だと思われたくなくて、気付けば木にしがみ付いていた。
なんとか、オリバーの見様見真似で、ゆっくりと木に登って行く。
そして、オリバーにかけられた声に返事をして気を抜いた瞬間、僕は木から滑り落ちていた。
身体が動かない。
変だな、痛みは何も感じないのに……。
オリバーとアリアの声が聞こえる。
そして、アリアが僕の顔を覗き込んでいた。
彼女のその愛らしい顔が、なぜかくしゃりと歪んでしまっている。
それでも僕は、そんな彼女をぼんやりと見つめることしかできない。
なんだか瞼が重い。
僕はそのまま、ずるずると暗い底へと意識が引き摺り込まれていく。
ふと、身体が温かくなった。
また、ぼんやりと彼女を見つめた。
不思議なことに彼女は細かい光の粒に包まれていた。
(綺麗だなぁ)
ただ、ただ、そう思った。