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26 これはラブレ……いや果し状か。

 封筒を見たグレンの疑問の声に、レナードが近寄ってくる。そして少しだけ楽しそうな顔になった。


「それ、もしかしてラブレターじゃないの?」

「こんな力強いラブレターがあるか?」


 封書の宛名の名前は、実に力強く書かれていた。グレンにラブレターを送るなら女性だが、女性が書いたとは思えないほど強い意志を感じた。――怨念を感じるというか。

 その証拠にグレンが封書を持った瞬間、くっついていたらしい黒モフが一匹消えたのを見た。やはり怨念入りである。


「このタイミングだ。絶対に誰かがオレをおびき寄せるために、ラブレターっぽく書いたに決まってる」

「そうとは限らないじゃないか」

「いいや、絶対そうだ。で、ノコノコと現れたオレをボコボコにするつもりなんだ。決まってる」


 こんな襲撃が始まったタイミングに怪しい封書の登場だ。そう考えない理由がない。実に単純な罠だ。


「そうかなぁ……で、中身はなんて?」

「こんな、あからさまなのに読むのか?」

「読まないと真実は分からないじゃないか。本当にただの手紙だったら、相手に悪いよ」

「……わかったよ開けてみる」


 直ぐに捨ててしまいたかったが、レナードが反対するので渋々開けることにした。一応封書に刃物がついてないか確かめたが、そういった罠はなかった。

 グレンはラブレターなどとは一ミリたりとも思っていなかったので、レナードに見えてもいいと思い手紙を大きく開いた。


「なになに……グレン・カースティン殿 先日の」

「うんうん」

「事件について、貴殿に話がある。本日夕方図書館裏に現れたし」

「……うん?」

「決して逃亡せぬよう。もし現れなかった場合、こちらは地の果てまで追いかける決意がある」

「……うん」

「こちらが貴殿の逃亡を確認した時点で一生後悔することになるだろう……覚悟しておくがいい」

「……」

「以上」


 うきうきした表情で聴いていたレナードだったが、最後になるにつれて表情が強張ってくる。


「……これはラブレターか? オレには果し状にしか思えないが」

「け、けど! “お話がある”ってことだし、果し状ってことは」

「じゃ会話の直後に殴りかかってくるかもな」

「……」


 流石にレナードもラブレターなどという甘い考えは持てなくなったらしい。表情が無になっていた。


「じゃあ、どうするんだい。無視するのかい?」

「……いや気が変わった、行ってみる」

「え?」


 読む前までは行く気など全くなかったが、文面に出てきた「事件」と「図書館」の二つの単語が気になった。


(嫌な記憶だけど……もしかしてって可能性もあるし)


 可能性があるならグレンの立場としては逃げるわけにはいかない。なにせ仕事がらみの可能性が高いからだ。

 ――そのまま何事もなく放課後になった。

 レナードの予想が当たっていたらしく、さすがに教室内や三人でいる時にはちょっかいをかけてくる奴らはいなかったおかげで、勧誘をうけていたときよりは平穏な状況だった。

 他の生徒が完全にいなくなってから、教室を出ると三人で図書館への道を歩く。


「お前ら、帰って良いって」

「果し状だって言っていたのは、君じゃないか、だったら一人じゃない方がいいよ」

「ヤー」


 呼び出された図書館裏へ行こうとするグレンの後を二人はついてきた。

 ユリウスは状況が分かっているのか知らないが、「ヤーヤー」と言いながら腕を振り回していて、なんだか乗り気になっている。


「ユリウスはともかく、レナードは眼鏡もないんだろ。余計にもめ事だったらマズイだろうが」

「全く見えないわけじゃないし、どうにかなるよ。それに君は喧嘩だったら逃げるつもりだろ?」

「まあ、そうだけど」

「それなら問題ないよ。僕も殴り合いに参加する気はないし」

「……じゃあなんのために来るんだよ」

「野次馬? もしかしたら告白かもしれないから、それを見てみたいという好奇心?」

「……お前、真面目だと思ってたけど、けっこう変わっているよな」

「そうかな?」


 レナードは何故か嬉しそうに笑っている。顔のガーゼや切り傷は痛々しそうに見えるが、なんだかだいぶ元気になったらしい。そう思うと無理矢理追い返すのも気が引ける。

 そんな風に三人で話しつつ、図書館裏にやってきた。

 図書館の裏は森が迫ってきているせいで不気味な雰囲気だった。夕方が近いため、あたりが薄暗くなっていることも原因だろう。図書館に入れるような場所も見当たらないため、当然警備の人間もいない。

 しばらく待ってみたが、だれも現れなかった。


「こないな……」

「僕らがいるから、出てこないとか?」

「その可能性もあるか」

「……今から隠れる?」

「いや遅いだろ」

「――遅いです」


不意に凛とした声が響いてきた。先ほどまで気配を感じなかったが、よく見ると図書館の建物から人の影が伸びているのに気付いた。


「まったく。きちんと来たことに関しては、当然とはいえ少しは認めてあげたというのに」


 影がふわりと動いた、同時に足元の布――制服のスカートが揺れるのが分かった。


(女子生徒?)


 思わぬ人物の登場に驚きながら、グレンは逆光に目を細めて視線を向ける。


「三人で現れるなんて、本当に男子って幼稚。集団でしか行動できないの? 情けない」


 女子生徒だが背は高かった。グレンよりも背が高い。スカートは膝丈だがスタイルが良く髪は短い。


「だから男子なんて大嫌――」


 こちらを振り返った女子生徒が、木々の影に入りようやく顔が見える。向こうもちょうどこちらに視線を向けた瞬間だった。


「あれ……君は?」

「っ―――!」


 髪の短い女子生徒。どこかで見たことがある。それは――先日第二校庭の水場で出会った美少女だった。

 彼女はさきほどまで饒舌に話していたのに、グレンを見た瞬間声を詰まらせた。

 そしてまつ毛の長い瞳を瞬かせ、顔を真っ赤にさせた後。


「お……おう、ひぃさま……」

「え? なに?」


 と、意味不明な言葉を呟いた。グレンは上手く聞き取りが出来ず、間髪入れずに聞き返してしまう。

 けれど女子生徒はその声が聞こえなかったのか、焦ったようにポケットを探りだす。彼女の顔は赤く、表情はふやけてしまいそうなくらい柔らかい。大事そうに小袋を取り出すと、グレンの目の前に小走りで近寄ってきた。

 登場時とは違った雰囲気に疑問を抱きつつも、グレンは相手から攻撃的な気配を全く感じないため警戒を解いた。


「あ、あの! この間はご親切にしていただいて! 本当に! ありがとうございました」

「え、あ、うん。その後は大丈夫?」

「は、はい! おかげさまで、体調も良くなって。とても感謝しています!」

「そうか、良かった」

「あ、あのこれ、お借りしたハンカチです。きちんと洗いました!」


 ここで初めてグレンは彼女にハンカチを渡したことを思い出した。小袋は確かにそれくらいのサイズだ。しかし綺麗な紐と布でラッピングされていて、ハンカチを返す、というよりこれではプレゼントを貰った感じである。


「ここまでしなくてよかったのに」

「そ、そんなわけにはいきません。綺麗にプレスもしておきましたので。あ、あとお礼の品も一緒にいれています」

「お礼? そんなの良かったのに」

「わ、私の感謝の気持ちですので、ぜひ受け取ってください。お気に召していただければ宜しいのですが……」


 ニコリと笑う美少女の笑顔は、とても可愛らしく流石の威力だった。

 グレンは少し照れながら美少女の視線に負けて袋を早速開けてみる。


「あ、クッキーだ。売店で見たことある。ちょっと高いやつだよね? いいの?」

「もちろんです! ほ、本当はもっと高級な物が良いかと思ったのですが、ナタリーが手作りと残る物とあまり高い物はやめなさいというもので、こんなものしか……」

「ううん、十分嬉しいよ。ありがとう」

「っ……!」


 グレンが食べ物を貰ったことに単純に喜んでいると、美少女は口元に手を当てて、そのまま後ろを向いてしゃがみ込んでしまった。頭をブルブルと振っている。

 それが痙攣しているようにも見えて、顔をひきつらせたグレンは声をかけようかと思ったが、後ろから肩をポンと叩かれた。


「なんだか僕の予想が当たってたんじゃない?」

「ヤー」

「予想?」


 レナードの予想はラブレターだったが、グレンはハンカチを返してもらっただけだ。

 全然呼び出しの内容が違うだろというと、レナードは残念そうな視線を向けてきた。


「グレンってそういう感じなんだね」

「なんだよ、そういうって」

「確かにクラスの子とかも全然意識している様子なかったし」

「ヤー」

「チームメンバーの話の時も、候補がひとりも出なかったし」

「ヤー」


 レナードの話の内容が絶対に分かっていないはずのユリウスが、タイミングよく返事をしているのを見て、なんだかイラっとしてしまう。


「お前ら何を――」


 グレンが文句を言おうとした瞬間だった。


「ティーナ、何かあったのかしら?」

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