表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑用専門ギルド「猫の手」へようこそ!  作者: 子寅(ねとら)
2/17

初仕事 双剣とドブ攫いとワスプ

   Day 1. 初仕事 双剣とドブ攫いとワスプ


 ––––結局、腹は減ったし当てもないしで、俺はここ、雑用専門ギルドの世話になることにした。

 空腹は最高の調味料って言う通り、晩飯は旨かった。

 何のこともない、パンとチーズ、野菜のスープだったけど。

 そして、一晩経って、俺はまだ微睡(まどろ)みの中にいた。


「ん、ん~~……」

 疲れてもいたし、まだ眠いなぁ、なんて思っていたら。

 ガンガンガン!ガンガンガン!と、けたたましい音がして、

「みなさ~ん!朝ですよ~!起きてくださ~~い!」

 ……なんて声で、起こされた。


「あ~、もう朝かよ……ふあぁ~あ」

 伸びをしながら、ようやっと身を起こすと階下から、

「早く来ないと、朝ご飯がなくなりますよ~~!」

 朝飯抜きは勘弁してほしいなぁ、ということで部屋を出た。


 一階のホールに出ると、少ないながらも人の姿があった。

 朝からカードゲームに興じる、エルフとドワーフ。

 小卓で(たお)やかに茶を嗜んでいるのは、狐の獣人か。

 視線を巡らせ、壁のシミか何かの影かと思ったら、そこにいたのは、忍者のような恰好をした人物。

 そして最後に、長椅子に腰掛ける、昨日のおっさん。


 ホールの反対側、大テーブルには、何やら見慣れた料理が湯気を立て、傍らには、先ほど鳴らすのに使ったであろう、鍋とお玉を手に、受付嬢がこちらを見て微笑んでいる。

「おはようございます、コマツカさん。よく眠れましたか?」

「あぁ、はい。お陰様で。それと、カケルでいいっすよ」

 昨日の問答もあって、苦笑を浮かべながら、そう応えた。


「そうですか。それでは、カケルさん。朝食の用意ができていますので、テーブルへどうぞ」

「はい。っていうかこれ、受付さんが作ったんですか?それに、和食、じゃないんですか?これ」

 見た感じだけど、テーブルに並んでいたのは、肉じゃが?とお揚げ。

 だし巻き卵、と、お揚げ。みそ汁の具も……油揚げ。

 何故か、全てに『お揚げ』がセットになっている。

「ワショク、というのか分りませんけど、メニューは順番に、皆さんの好みのものをお出ししているんですよ。今日のメニューは、極東風のメニューでして。リクエストされたのは……」

「あ、大体分かりました。あっちの、キツネの人、でしょ?」

 お揚げと言えばキツネ。うん、間違いないだろう。

「え?よくお分かりになりましたね!その通りです!」

「まぁ、何となく?ハハハ……」

 自分のことはあんまり思い出せないのに、こんなどうでもいいことはすぐに分かるって、変な感じだな。


 朝食が終わると、受付嬢が声を上げる。

「はい、それでは皆さ~ん!新人さんを紹介しますよ~!こちらは、今日から一緒に働いていただく、コマツカ カケルさんです」

「……どうも」

 なんと言って良い物やら、取り敢えず会釈をする、と。

「小間使い?」

 例のおっさんが、すかさず揶揄(からか)うように煽ってくる。

()っげ~し!駒塚だよ、コ・マ・ツ・カ!」「い?」

 重ねての煽りに、カっ!と頭に血が昇る。

「おう、おっさん。やんのか?やろうってのか?受けて立つぞ?俺は弱えぇけどな!」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいカケルさん。バンディさんも、揶揄うのはいい加減にしてくださいね?」

 受付嬢が、慌てて仲裁に入る。

「ええと、それではまず、こちらがバンディさんです。まぁ、見ての通りこういった人ですので、あまり真剣に受け取らないでくださいね」

「おい、問題児みたいな紹介やめろ」

「問題『おやじ』な……」

 改めて、目の前のおっさん、バンディは、簡素な皮鎧に皮のハチマキ、腰に二本の剣を差した、無精ひげの男だ。


「次に、こちらの方が……」

「ウチは孤都や。よろしゅうな♪」

 先ほど茶を嗜んでいた、狐の獣人・孤都は、柔らかな笑みを浮かべる。

 手弱女(たおやめ)、といった風情ではあるが、その服装にドキリとする。

 清楚な巫女装束を、大胆に着崩したかのような着こなし、大きくはだけられた胸元からは、存在を主張して余りある見事な双丘。

 秋の夕映えに輝く稲穂を思わせる、深い黄金色の艶髪の狭間から覗くのは、同じく黄金色の、ピンと立った狐耳。

 惜しむらくは、その顔立ちまでもが獣寄りなところか。

 とは言え、そこは思春期のオトコノコ。どうしても気になってしまう、魅惑の膨らみ。その一点に釘付けになっていると。

「クンクン……あぁ~、なんや懐かしい匂いやわぁ~。嬉しなってまう。カケルちゃん、やった?なぁ、もっと……嗅がして?」

 諸手を広げ、ゆるりと抱きついてくる。

 魅惑の双丘に心奪われていた少年は、赤面しつつもこれを躱せなかった。

「え?ちょ、近い近い、近いですって!待ってくだ……ムぐっ!」

 遂にはその柔らかな果実に顔を抱きしめられ、呼吸すらもままならず。

「ん、ん”~!ん~~~!」パン!パン!(タップ)

「クンクン……スウゥ~~~、ハアァ~~~~……んふぅ♡」

 たっぷりと吸われながらも、抱きしめられた温もりと、獣人特有の、日の当たる草原の匂い。幸いというか、毛に覆われたその肌は、匂いとともに、僅かばかりの空気をもたらしてくれた。


「……ッハァ~~~~。死ぬかと思った」

 ようやく解放されたときには、最早立っていることさえも怪しい有様だった。

「ウチ、カケルちゃんのこと気に入ったわ♡また、吸わしてな?」

「……吸われた。なんか、メッチャ吸われた……」

「なに、男子(おのこ)として産まれたからには、それもまた一興であろう?腹上に果つるもまた、漢の本懐というものであるぞ?www」

 気が付くと、忍び装束の男が隣りに立っていた。

「いや、それはちょっと……ってか、あんた誰?」

 しかも、言葉の最後にwww入れてなかったか?

「おぉ、これは失礼した。我の名はライアーと申す。孤都と同じ東国の出で、(グラス)を生業とする者である」

 良しなに、と言って差し出された手の、指の間からは鉤爪が……

「よろしく––––って、うお!危ねっ!」

「おっと、これはこれは。我としたことが」

 白々しくも、「不注意であった」などとのたまう。

 苦笑でもって応えたが、注意しておかなくては、と心に刻む。

「時に」ふと真剣な表情を浮かべて、ライアーが顔を寄せる。

(お主、カケルと言ったか。孤都のこと……如何に思う?)

 ひそひそと、内緒話のように聞いてくるが、

(イカにも何も、今会ったばっかりで分かんないっすよ……もしかして、あんた、孤都さんのこと好きなんデスか?)

 それならば、先の鉤爪のことも納得できる。

(お、お、お、お主!そんな好きとか、そ、そんなんじゃないんだからねっ!)

 うっわ~、おっさんのツンデレとか、ないわ~。などと、かなりヒキ気味に、ライアーとの密談を終える。


「え、え~っと、次ですね、次は……」

 軽く汗を垂らしながら、受付嬢が話題の転換に務める。

「あ~し、パ~ス……適当に言っといて」

 若葉のような緑のショートヘア、ゆったりとした衣装を纏い、気だるげな態度の、エルフの女性だ。

「あ、あははは……あ、あちらが、エルフのディジーさんです。まぁ、ご覧の通り、と言いますかなんというか」

 受付嬢が取り繕うように言うが、当のエルフは爪磨きに夢中。

「あぁ、何とな~くわかりました」

 ダウナー系なのね、とか思っていると、トコトコと歩み寄る人影。

 皮のベストに皮帽子、顔の下半分を覆いつくす厳つい髭。エルフと並ぶ程の有名種族、ドワーフだ。

「……俺ぁ、ジルコだぁ。まンつ、よろしぐな」

 差し出された手を取り、挨拶を返すが……?

「その、ジルコさんは北方のお生まれでして。中々方言が抜けなくて、コミュニケーションの方で少々苦労されている方なんですよ」

 受付嬢が、そっと耳打ちをして補足する。


「––––これで、一通りの紹介も終わりましたので、早速研修に入っていただきたいんですけど……バンディさん」

「おう」

「ええ~?いきなりこのおっさんと?」

 昨日といい、今日といい、思い返すだに腹も立つ。

「ですけど、研修中は全員と一度は組んでいただきますので、こういうのは早い方が良いと思いますよ?」

「分かりました。行きますよ……」

 嫌々、不承不承、といった感じではあったが、ともあれ、初仕事である。


 ––––そんなこんなで駆り出され。

 街の真ん中辺りに、スコップ片手に歩いてきた。

「で?何すりゃいいわけ?」

「あぁん?見りゃ分かんだろ。ドブ攫いだよ」

 うっわ、ガチで雑用だし。

「働かざる者、食うべからず。とっとと働け、新人」

 おまけに、一緒に作業するのがこのおっさんとか。

「へぇ~いへい。やりゃあいいんでしょ?やりゃあ」

 ザクッ……ベチャッ……と、渋々作業をしていると。

「【IGN(イグニス)AGIアジリティ】!」

 おっさんの身体を光が包むと、その動きが加速した。

 残像を曳く程の超加速。その動きは、∞の軌道を描く。

「あ、あれはまさか!デンプシーロール!?」

 往年の名ボクサーを彷彿させる(見たことないけど)華麗な動き。

 何より、それほどの超高速での作業にもかかわらず、掻き出された泥は、周囲にひと雫たりとも飛沫を飛ばしていない。

「コイツが、俺考案の【八の字ドブ攫い】だ!」

 右に左に、瞬く間に泥が積み上げられてゆく。

 ドヤってる顔に、若干ムカついたけど、正直、素直にスゲエ。

 まさか、ドブ攫いでこんなにテンション上げられるとは思わなかった。

「ほれ、ボケっとしてねぇで、お前もやるんだよ!」

「あ、お、おう!」

 あんなスゴイのは無理でも、俺もやってやろうって気にはなった。

 ––––ザクッザクッと、俺としては一生懸命に泥を掬う。

 垂れてきた汗を拭おうとして、ふと顔を上げると、何やら異音が。


 BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB……


 音がした方を見てみると、仔犬ほどもある蜂の姿があった。

「お、おっさん!蜂!でっけえ蜂が来てる!」

「あぁ、こいつぁワスプだな。なに、こんなもん……!」

 作業の手も止めず、事もなげに蜂を躱してゆくと、

「––––邪魔、くせえん、だ、よ!」

 もののついでとばかり、スコップで蜂を撃ち落とした!

 泥の中に叩き込まれた蜂は、ヒクヒクと痙攣を繰り返すばかり。

 その流れるような手際に、驚嘆を覚えていると、

「近くに(ネスト)があったら、また来るかも知れねえな……ホレ!」

 腰に差した剣を、一振り放り投げて寄越す。

「次に来たら、お前もやってみな」

 事もなげに言うけれど、剣なんて、今初めて持ったばかり。その、ズシリとくる重さに、冷たい汗が噴き出す思いだった。

「ムリムリムリッ!俺、戦ったことねぇもん!」

「何だぁ?お前、冒険者になりたかったんじゃねぇのか?」

 だったらそれくらいやって見せろ、ということなんだろうけど、リアルでの命のやり取りを意識すると、尻込みしてしまう。

「大体、こんなもんでビビッてちゃ……お、来たぞ!」


 剣を抜き放ち、指し示す方を見ると、十匹ほどのワスプの群れ。

 スズメバチなんかは、威嚇のために大顎をカチカチ鳴らすというが、そいつらは、仲間を殺されて気が立っているのか、ガチン!ガチン!と、巨大な顎を打ち鳴らして近づいてくる。

 ナニアレ、すっげえ怖い。あんなので齧られたらひとたまりもない。

 別の意味で、俺の歯がカチカチと音を立てる。

「おい、新入り!他の奴は俺がやっとくから、まず一匹、自分でやってみろ」

 そう言いながら、まるでコバエでも落とすかのように、次から次へと巨大蜂を打ち落としてゆく。

 そうするうち、敵わないと思って標的を変えたのか、一匹がこちらへ。

 震える手で、剣を抜き終わるか否かの刹那、急接近してくる巨大蜂。

「––––ヒィッ!」

 訳も分からず、ブンブンと剣を振り回すけれど、蜂には当たらない。

「バカ!目ぇ閉じてんじゃねぇ!ちゃんと見ろ!」

 そんなこと言われても––––怖い、怖い!コワイ!!

「ムリ!やっぱムリ!こんなの倒せる勇気、持ってない!たった今、気がつきましたぁ!」

 情けないけど、ゲームじゃないんだ。負けたら、死んでしまう。けれど。

「バカ野郎!勇気なんて、最初から持ってる奴はいねえんだよ!

まず、動け!その後で、勇気ってのはついて来るんだよ!」

 動く……動かないと、勇気は、出てこない?パニックになりながら、その言葉に引っ張られるように、両目を開ける。涙で、視界が滲む。

「––––そうだ!べそ掻いても、鼻水垂らしてたっていい、まずは、

何も考えないで、俺の言うとおりに動いてみろ!」

「言われた、通りに……」

「お前を勝たしてやる––––俺を、信じろ!」


 そこからは、只ひたすらに、言われた通りに剣を振るう。

「剣は正面に。絶対に切っ先を相手から逸らすんじゃねぇぞ!」

「……剣は、正面。相手から、逸らさない!」

 まだ、手は震えていたけど、やらなきゃ、やられる。

「最初のうちは、振り回したって上手くいかねぇもんだ。だから、隙を見て突きを入れろ!」

「はい!」

 言われるがままに、右へ、左へ。蜂の刺突を躱し、大顎を避ける。

 夢中になって動くうち、不思議と手の震えは止まっていた。

 途中、これなら自力でイケるんじゃないか?と、勝手に動こうとして、危うく刺されそうになって、怒られたりもした。

 やがて。

「右一歩、下がって……そこだ!」

 遂にやってきた、絶好の好機!思い切り踏み込んで、剣を突きこむ!


 Kyeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!


 巨大蜂の、断末魔の咆哮。勢い余って、剣を突きさしたまま、地面に蜂を縫い留める。

「よぉ~し、まだ油断するなよ?(インセクト)種は、しつこいからな」

 言われた通り、慎重に腹を踏みつけて、抜いた剣で頭を落とす。

 生命の残滓で、蠢いていた脚が、次第に力なく動きを止める。

 すっかり沈黙して、魂の抜けたソレを確認して、吐息をひとつ。

「か……勝ったの、か?」

 未だ実感の湧かない、命を屠った感触。

「あぁ、よくやった。お前の、勝ちだ」

 ポン、と頭に置かれる、ゴツイ手の感じ。見上げてみると、傍らに立ったおっさん、バンディが満面の笑みを浮かべている。

「やっ、た……やった?……お、おおぉああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 スゲエ!スゲエよ!俺、勝ったんだ!

 心の奥からこみ上げてくる達成感に、もう、もう、何が何だか!

「こいつぁ、間違いなくお前さんの成果だ。誇っていいぞ」

 差し出された手拭いで顔を拭って、喜びを爆発させる。

「おっさん!いや、バンディさん!俺、自分でなんかやり切ったの、

初めてかもしんねえ……スッゲエ嬉しいよ!」

「そうか。そりゃ何よりだ。それと、俺のことはバンディ、でいいぞ」

 ニカッ、と男前な笑みを浮かべるバンディ。なんていうか、仲間って感じで、それもまた嬉しかった。

「じゃあ、ドブ攫いも大体終わってるし、帰るか?カケル(・・・)

「……!おう!」


 ギルドに戻って、報告を済ませる。

 ワスプに遭遇して、俺も戦ったという知らせを受けて、心配したような顔で、孤都さんがスッ飛んできたりして。

 そんなこんなで、みんなでワイワイと晩飯を食べていると、あぁ、なんかいいなぁって、こんな賑やかに皆で食べる飯って、こんなに美味いんだなぁって、そう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ