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雑用専門ギルド「猫の手」へようこそ!  作者: 子寅(ねとら)
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ルビィ=ルルという女

   Small Talk ルビィ=ルルという女


 ––––女神去りし後。

「……わ、わたっ!私は……私は、は、はれ、破廉恥な女だ……です……」

「ほら、ジョルジュ様。もっとシャンとしてくださいまし!」

 前日の一件についての反省文を書かされて壊れかけのジョルジュと、それを釘バットで小突くマリエラがギルドホールへとやって来る頃。

「ねぇ、カケル。その腰に提げてるのって何?」

「っっっ!」

 正気を取り戻したエリュシアを引き連れたルビィは、物珍しそうに辺りを眺めた後、カケルの腰に提げられた魔導銃(マジックガン)に視線を定めた。

「こ、これ?あ~これな?……言っとくけど、これは俺専用の––––」

「見して♪ちょーだい♪触らして♪」

 本能が鳴らす警鐘に従って、どうにかごまかそうとしたカケルに、ルビィはズイ、と手を差し伸べながら言い放った。

「ヤダよ!やらねーよ!大体、普通そこは『ちょーだい』じゃなくて『貸して』じゃねえのかよ!」

「ふっふ~ん。私相手に普通だの常識なんてものを期待してるんなら……大間違いよ!」

 腰に手を当て、ドドン!と薄い胸を張るルビィに、カケルはいつかどこかで誰かに聞いた話を思い出していた。––––このテの女に『いいもの』を渡したが最後、ソレ(、、)は絶対に戻ってくることはない––––と。

「と、とにかく!絶対(ぜって)ぇに渡さねえからな!」

「……ふぅ~ん?そういうこと言っちゃうんだ。……エリュシア。やっちゃいなさい!」

「……え?え?あの……ごめんなさぁ~~~~~~い!」

 唐突に指名されたエリュシアは、キョロキョロと左右を見やると、意味も解らぬままに取り敢えず、カケルに向かって突撃を敢行した。

 ろくに前も見ずに駆け寄るエリュシア。カケルに迫る、二つの巨大すぎる膨らみ!

 あまりの事態に呆気にとられ、一瞬の思考の空白に陥るカケル。そこへ、「危ない、カケル君!」と、カケルを庇うように両者の間に割り込むナオヤ。結果––––

「うわっもぶっ!もがもごごご……っ!っ!」

「きゃあっ!ごご、ごめんなさい見知らぬ人!––––ひぁぁっ!さ、さけ、叫ばないで!こ、声が響いて胸の間から微妙な振動(バイブレーション)が……」

「ちっ。身代わりを立てるとは、中々やるじゃない」

 エリュシアの豊かすぎる胸の谷間に顔面を圧殺され、もがき苦しむナオヤ。どうしたら良いものか判らず取り乱すエリュシア。舌打ちをしながらもカケルに謎の称賛を送るルビィ。

 混沌(カオス)ここに極まれり!といった事態に啞然とするカケルは……

「……え~っと、俺、なんにもしてねーよな?あと、エリュシアさん?とりあえずナオヤ君を解放してやってくれます?」

 ひとまず事態の収拾を試みた。


 ––––––––––––


「……し、死ぬかと思った♡」

「……ナオヤ君、実は結構喜んでない?」

「っ!そっ、そそ、そんなことは、ナイヨ?」

 いやいや、声が裏返ってるから。顔、トロットロに緩んじゃってるから。

 そんなナオヤ君に親近感を覚えながら介抱していると––––

「もうっ!いいかげん観念してソレ、見せなさいよ!」

 再び喰ってかかるルビィ。

「ヤダよ!ってか、何を観念するんだよ!」

 クレクレ相手に、はいそーですかと渡す道理はない。

 がるる……と唸り声を上げるルビィと睨みあっていると、「っ!ねぇ、じゃあ見るだけでいいから。お願いっ♡ね?ね?」なんて、パン!と合わせた両手を顔の横に添えて言ってきた。

「最初っからそう言えばいいじゃねぇかよ。いいか、見るだけだからな?」

 そう言って俺は、こっそりと魔力集束機(マナ・チャージャー)から延びているプラグを外しながら、ルビィに魔導銃(マジックガン)を差し出した。

「ありがとー♪––––ふっふっふ、渡したわね?これもーらいっ!––––って重っ‼」

「……やると思った」

 念には念を入れて使えない状態で渡したんだけど、そう言えばこいつ、非力だって言ってたっけ。

「ほら、そんなんじゃ扱うどころじゃねぇだろ?撃つところぐらい見せてやるから返せよ」

 ちぇーっ、と言いつつ渋々魔導銃を返してくるルビィを促して、ギルドの裏手に向かう。

 ここには、エディさん達の仮宿になっている建物の他、鍛錬用の的やら木人的なものが設置されている。


「––––やあ、カケル君。君も鍛錬に来たのかい?」

 広場に足を踏み入れると先客がいた。両手にそれぞれ大振りの丸盾(ラウンド・シールド)を装備したエディさんだ。

 見ると、その盾には鎖が付いていて、防具としてだけでなく敵に投げつける武器としても使えるもののようだ。アル〇スの戦士か?

 しばらく鍛錬を続けていたらしいエディさんは、裸になった上半身––––細身だけど、しっかり鍛えられた––––にも、その顔中にも珠のような汗を滴らせ、その奥には汗拭き用のタオルを手に、ヨダレを垂らしそうな表情のパノンさんが立っている。

「あぁ♡お年を召されてもやっぱり素晴らしいですわ♡細マッチョなマスターの広背筋♡上腕二頭筋♡そのナイス♡カットな腹筋……うっ、鼻血が……今宵のオカズはフルコースッ♡」

 …………………………………………………………………………

「うっわ、キモッ!なにあれ」

「……言うなよ。俺だってアレに追っかけ回されたばっかなんだから」

「もはや清々しいまでのヘンタイさんですねぇ。お姉さまにうつったら大変ですぅ」

 遠慮のないルビィの叫びに、俺もウンザリして応える。そして、呆れたように意味不明の心配をするエリュシアさん。

 パノンさん(あのひと)も、黙って澄ましてればキレイな人なのに。

 とにかく、いつまでも突っ立っているわけにもいかないので、エディさんに挨拶を返して射撃用の的に向かう。

 普段はライアーあたりが手裏剣やらクナイを投げつけている、蛇の目の丸的だ。

「それじゃ、一つ派手なヤツでも……」

 そう言いながら、撃鉄(ハンマー)半起こし(ハーフクリック)

「【炎弾(フレイム)徹甲(AP)火球(ファイヤーボール)】」

 弾種選択(バレットチョイス)を行うと、銃身の周りを囲むように光の文字が宙に浮かぶ。

 浮かび上がるその文字は〈φλογα(フローガ)〉。火とか炎を意味する言葉で、その周りにも細かな文字や幾何学模様が浮かび上がっている。

 それらを確認して、撃鉄(ハンマー)全起こし(フルクリック)。これで準備完了。

 狙いを定めて引き金を引くと、圧縮された火の玉が発射され、パカァン!という小気味いい音を立てて的を貫通。少し遅れて的全体が炎に包まれた。

 ちなみに、的の後ろには土嚢が積まれているのでご心配なく。

「––––!ウソマジ⁉……いーなー。やっぱ欲しいなぁー」

「言っとくけど、これ試作品だから。問題がないかレポート書いて先生に送らなくちゃならねーから」

 後ろで眺めていたルビィは諦めきれないのか、じーっと物欲しそうな視線を魔導銃に送る。

「……そんなに欲しいなら、先生ンとこに行って相談してみれば?」

「先生って?」

爬虫人類(リザード・ピープル)のヒト。街の南の方に研究窟?があるから」

 あんまり突っぱねていると何かやらかしそうなので、ルビィには銃の設計をお願いした先生を紹介することにした。

 そもそも非力で俺の銃は持てないわけだし、デリンジャーみたいな小型銃を造ってもらえばいいんじゃね?ということで、簡単なイメージ図も書いてやる。

「マジで⁉ありがとー!お礼にキスしてあげる!」

「––––はぁ⁉」

「エリュシアが!」

「––––ええっ⁉???……だだだ、ダメですよぉ!私の唇はお姉さまのモノですから!」

「……あんた、そう言ってこの間フェルネットにキスしたの忘れてるでしょ」

 唐突にとんでもないことを言い出すルビィ。やっぱブッ飛んでるな、こいつ。

「ていうか、え、なに?お前らそういうカンケーなの?」

 いわゆるユリ的な?

「違うわよ!この子が、勝手に、言ってる、だけっ!私にそんな趣味はないっつーの!」

「痛っ!痛っ!痛っ!痛いですお姉さまぁ!」

 イラついたように、右手に装備したハリセンでベチッ!べチッ!とエリュシアさんの頭を(はた)いたルビィは、仕上げとばかりにスッパーン!と大振りの一撃を叩きこみながら否定の叫びをあげた。

 ていうかエリュシアさん……痛い痛い言いながらもすり寄っていくその姿は、まるで叩かれても放り投げられても尻尾を振りながら戻ってくる子犬のようだ。


「ただいまぁ♪」

「只今戻りましてございます」

 ––––ルビィ達のどつき漫才を眺めていると、ホールの方から声が聞こえてきた。

 そろそろ他のみんなも戻ってくる頃合いになっていたみたいだ。

「あ、お帰りなさい、孤都さん、鏡孤さん。今日は何の仕事に行ってたんでしたっけ?」

「ただいま、カケルちゃん。ウチらは食堂の洗い場を手伝(てつど)うてきたんよ。ほら、お土産ももろうてきたから、後でみんなで食べようなぁ♪」

 上機嫌な孤都さんが持ってきたバスケットを開けると、その中にはまだほんのりと湯気の上がる饅頭や、きつね色に揚がった揚げ饅頭(ピロシキ)が入っていた。そして––––

『カケル様!カケル様!この鏡孤、数多のお皿との格闘を制し、本日もカケル様のために誠心誠意頑張って参りました‼』

 俺の姿を見るなり銀孤に変身した鏡孤さんが、ブン!ブン!とその尻尾を振りながら駆けてくる。褒めて♡撫でて♡ということなんだろう。

「……えーっと。きょ、鏡孤さんも、お疲れ様、でした」

『うふふふふふ♡お褒めにあずかり、恐悦至極にございますぅ♡』

 ぎこちなくその頭を撫でると、鏡孤さんは気持ちよさそうに目を細めて、すりすりと俺の足に身体を添わせてくる。

 こんな時、いつもは孤都さんが張り合って巨狐(きつね)の姿で寄ってくるんだけど––––

「カケルちゃん?この子ら、新しいお友達?」と。

 顔自体は笑顔なのに、じっとりと値踏みするような目つきでルビィ達を見つめている。

「あ……と。お友達っていうか、俺とナオヤ君に用があって来たっていうか……」

 孤都さんの得体の知れない『静かな威圧感(プレッシャー)』に気圧され、訳も分からずに答える。一体何をピリついてるんだろう?

「ふぅん。その用事言うんは、もう終わっとるん?」

「……はい」

「そんならお嬢ちゃんたち?暗くならんうちに(はよ)うお帰り。そない媚薬の(けったいな)匂いプンプンさしとったら、『襲ってください』言うようなもんやからね」

 しっしっ、と追い払うように手を振りながら言う孤都さん。そう言えば、ETDに挑戦しているルビィ達には、媚薬ガスの残り香みたいなのが染みついてるんだった。

「––––あぁーら、ご忠告ありがとう、上乳オ・バ・サ・ン。これがホントの老婆(・・)心ってヤツなのかしらねぇ!」

 対するルビィも––––何かに火が付いたのか––––負けじと薄い胸を張りながら、挑発的な態度で孤都さんを煽り返す。


「…………………………………………………………………………」

「…………………………………………………………………………」


 無言で睨みあう二人。

 一触即発の空気の中、孤都さんはおもむろに燃え立つような赤い刀身の匕首(あいくち)を構え、ルビィも応えるように右手に持ったハリセンを瞬時に片刃の剣に変え……

「––––って!ストップストップ!ダメだって孤都さん!」

「離してぇや、カケルちゃん!こないなメスガキ、いっぺんガツンと分からしたらなアカンねん!心配せんかて生焼け程度で手加減したるよって!」

「––––はぁあっ⁉手加減はこっちのセリフだっつーの!そっちこそ浄化され過ぎて残り少ない寿命が無くなっちゃわないように気を付けなさいよ、オバサン!」

「お、おち、おち、落ち着いてください、お姉さまぁ!ケンカはダメですぅぅぅ!」

「離しなさいよ!エリュシア!……あいつ、コロせないでしょ!」

「––––おもろいこと言うなあ!えらい貧相な身体(むね)しよってからに!」

「はぁあああ⁉デカきゃイイってもんじゃないでしょうが!このタレ乳がぁぁぁっ!」

「おーおー、ナイチチの(ひが)みは惨めやなぁ!やっぱりここらで、身の程言うのんをキッチリ叩きこんだらなアカンかぁ⁉」

「––––なによっ!」

「––––なんやの⁉」

 ヤバい。ヤバいヤバいヤバい!二人とも火に爆弾を放り込む勢いでヒートアップして、とてもじゃないけど俺の手には負えない!

「––––誰か!誰かこの二人を止めてくれぇぇーーーーーーーーーーーーっ‼」


「––––何をなさっているんですか?」

「全く。うるさくてゆっくり眠ってられないし––––チカ、やれし」

 俺の叫びに応えた声は二つ。

 貼り付けたような笑顔に、底知れない迫力を滲ませた受付さんが目を向けると、ばつが悪そうに匕首をしまって目を泳がせる孤都さん。

 そして、寝起きで機嫌の悪そうなディジーの指示でチカ––––スネグーラチカが手をひらめかせると、一生懸命に止めようとしていたエリュシアさんもろ共ルビィが氷漬けになる。

 いや、それはちょっとやり過ぎじゃね?

「あ、あんな?ウチはただ、カケルちゃんに悪い虫がつかんように––––」

「孤都さん。お座り」

「……はい」

 恐る恐る、といった感じの孤都さんの言い訳は、受付さんの一言のもとにバッサリと切り捨てられ、しょんぼりとした孤都さんは大人しくその場に正座をした。

「ぷぷっ!怒られてんの。ダッサwww」

「––––ルビィさん。貴女もですよ?いくらお客様とは言っても、限度というものがあります。先程からの品位に欠ける言動は目に余るものがありますので、そちらに座ってください」

「えー⁉私はただ売られたケンカを買っただけよ!そんなこと言われる筋合いは––––」

「……座ってください?」

「っ!……はぁい」

 続いて、氷漬けから解放されたルビィが勝ち誇ったように煽り態勢に入ろうとするも、有無を言わさぬ笑顔を浮かべる受付さんに促されて、渋々と正座をした。

 さすがはこのギルドのお()ん。さしもの俺様女・ルビィですら叶わないと思わせる何かを持っているようだ。


 それから三十分ほど受付さんのお説教タイムが続いたころ––––

「あの。ごめんくださいまし」と、正面入り口の方から女の人の声が聞こえてきた。

「すみません、カケルさん。お客様かもしれないので、少し見てきてくださいますか?私もすぐに行きますので」

「あ、はい。分かりました」

 受付さんに言われ、特にすることもなく、椅子に座ってお茶を飲みながら様子を眺めていた俺は、軽く返事をして正面入り口に向かった。

「あら、こんな時間にお客様?」

「フラグっぽく言うな。ルビィ(おまえ)もお客さんだろ?一応」

 そもそもまだ三時くらいで日も高いし。

 こいつ、絶対分かって言ってるよな。

 そんな感じでブツブツとぼやきながら向かった入り口にいたのは––––


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