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雑用専門ギルド「猫の手」へようこそ!  作者: 子寅(ねとら)
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アカツキの|復讐者《リベンジャー》(笑)

   Small Talk   アカツキの復讐者(リベンジャー)(笑)


 ––––嵐のようなデートが終わって、一夜が過ぎ。

 今日からはまた、平常運行の日々が始まる。

 昨日一日を孤都さんの案内で街の散策に費やしたナオヤ君も、今日からギルド(こちら)の仕事に参加して、身体を動かすことに慣れてもらうことになっている。

 ついでに言うと、同類(なかま)が一緒の方がモチベーションがあがるだろう、ということで俺とナオヤ君はコンビで仕事をすることになった。

 そして、初仕事となるナオヤ君を加えての最初の仕事といえば––––


「お~し!小僧ども。道具は持ったな。それじゃ、行くぞ!」

 当然のように、バンディとドブ攫い、だ。

 俺とバンディとナオヤ君。三人連れ立ってスコップ片手にぞろぞろと歩いてゆく。

「あれ?カケル君。それって……」

「あぁ、これ?試作品が完成したみたいで、昨日届いた––––」

 ナオヤ君が指差したのは、俺の腰に下げられた魔導銃(マジックガン)

 六連装の回転式(リボルバー)で、弾丸(バレット)にはそれぞれ別の属性(コア)が使われていて、引き金を引くだけで即席の魔法が使えるという代物だ。

 しかも、それぞれの弾丸には複数の術式が込められていて、音声認証で選択も可能。

 先生からの手紙(説明書?)によると、コイツの名前は『ゼクス・ファルケン』。六翼の……ハヤブサだっけか?

「––––てわけで、試用(モニター)も兼ねてしばらく使ってみて、感想を聞かせてほしいってことなんだ」

「へぇ~。すごい!カッコいいなぁ‼」

 キラキラと瞳を輝かせ、ホルスターから引き抜いたファルケンに熱い視線を送るナオヤ君。

 やっぱ、こういうのってテンション上がるよな。……オトコノコだもん。

 ただ、ちょっと残念なのは、機構サイズの問題から、魔力集束機(マナチャージャー)が外付けになったこと。

 おかげで、腰の後ろに下げた魔力集束機から伸びた導管(チューブ)をグリップエンドに繋いだ形が、エアガンっぽくなってしまったのだ。

 これじゃあ、西部劇みたいに銃をクルクルと回すのができない。う~ん、残念。

 あ、そういえば昨日、ニャンコスキさんがこの銃を届けてくれたらしいけど、受付さんが言うには『凄く落ち込んでしょんぼりした様子でしたよ』とか。

 ……後で差し入れでも持って行こうかな。


「ほら、着いたぞ。いつまでも喋ってねぇで仕事だ、小僧ども」

 ––––そんなこんなで話し込んだりしているうちに、今日の仕事場に到着。

「よぉ~っし、バンディ!勝負だ!俺もあの後、見よう見まねで身体強化フィジカルエンチャント使えるようになったからな!」

「ほぉ、面白れぇ。受けて立ってやるよ。けどな、スピードにばっか気を取られてその辺に跳ね飛ばすんじゃねぇぞ?後で苦情が来るからな」

「––––わ、分かってるよ!それよりも……今日こそは俺が勝つ!」

「はっ!返り討ちにしてやるぜ!カケル!」

「……何だかんだで仲いいんだね、二人とも」

 俺とバンディのやり取りを見て、ナオヤ君はそんなことを言ってきた。

「え?そんな風に見える?」

「うん、とっても」

 そうかなぁ。第一印象は最悪だったんだけどな。

「まぁ、でも、あの後からかな?そんなに悪い奴じゃないって思えたのは」

「あの後、って?」

「うん。あの時もこうやってドブ攫いに来てたんだけど、そうしたら––––」

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

「––––そうそう、こんな感じに虫の翅音がして、それでワスプが……って、まさか……」

 おヤクソクじゃないけど、また、ワスプなの、か?

 そう思って振り返ろうとしたら––––


「おうおうおう!ワシの可愛い子供らイワしてくれよったんはオンドレらかぁ‼」

 俺たちの背後から、キンキンと頭に響く怒声が叩きつけられた。

 驚いて振り返ると、そこにいたのはおおむねヒト型だけど、頭の上には髪飾りのように虫の複眼と触角がついていて、全身には黄色と黒の衣装を身に着け、お尻の先から更にハチの腹部が生えている。いわゆる『ハチのモンスター娘』みたいな、身長ニ十センチ足らずの女の子が宙に浮いていた。


「……え~と、誰?」

「なんじゃワレ、ワシのことを知らんのかい!……まぁええ。冥土の土産に教えたる。––––コホン、何を隠そう、ワシこそがワスプの女王、クイーンビー様じゃあ!!!」

 咳払いを一つして、両手を腰に当て、どどん!と胸を張ってそいつは名乗りを上げた。

 ただ、何だか面倒くさそうな相手だったので––––

「……ツ〇ンビー?」

「そうそう、丸っこぉて手足生えとってなんでか空に浮かんどるベルをカンカンカンカン!いうて撃ちまくったりベル取ってパワーアップしたりしてなー……ってちゃうわアホー!」

「……じゃあ、クリ〇ビュー?」

「––––これ一本で家中の窓がピッカピカー!って、だからちゃうわボケェ!誰が窓ふき洗剤じゃワレコラボケカスナスがぁぁぁっ‼」

 試しにちょっとボケてみたんだけど、なんかメッチャ乗ってきた。

「………………」

「……って、もうないんかーーーい!」

「っていうかさ、よく今のネタに反応できたな?どっちも(この)世界には無いはずだけど」

「はっ!これやからトーシロはあかんのじゃ。ええか、耳の穴かっぽじってよぉ聞けや。……お笑いは世界の壁も越えるんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 うわっ!俺の耳元まできて思いっきり叫びやがった!けど、今はガマンガマン。

「へぇ、そうなんだ。勉強になったよ。それじゃあ」

「ほんならまた。さいなら……––––って!ちょお待てやちょお待てやちょお待てやぁ‼」

「……何?腹でも斬るの?」

「誰が斬るか!ワシの話はまだ終わっとらん!むしろ、まだ始まってすらおらんのじゃあ!」

 ––––ちっ。うやむやにしてごまかそうと思ったけどダメだったか。

「んで?話ってなによ?」

「決まっとるやろがい!オンドレらがワシの子供ぉイワしてくれよったっちゅうから、(かたき)ぃ討ちに来たんじゃあ‼」

「……子供って?」

「ワスプじゃワスプ!最初に『ワスプの女王』じゃ言うたやろがい!怒るでしかし!」

 やっさんだ!やっさんがいる!どこから取り出したのか、四角い黒縁メガネを掛けてクイクイやってアピールしてる!

「オラァ!ワシの子供ぉ()ったんはどいつじゃあ!」

 可愛らしい見た目とは裏腹に、濃厚なチンピラ臭を撒き散らしながら気勢を上げるクイーンビー。なので––––

「それなら、ほとんどバンディ(こいつ)が倒したよ」

 とりあえず、正直に教えてやった。

「あぁ~ん?––––っ‼ワ、ワシの子供ぉ()ったんは、どいつじゃあ‼」

 下から睨み上げるようにバンディを見て、クイーンビーはビクン!と肩を跳ねさせ、冷や汗をタラリ。慌てて俺たちの方に向き直った。

 コイツ、相手が強そうだからって見なかったことにしたな。

「だから、バンディ(こいつ)だって。まぁ、俺も一匹倒したけど……」

「––––っ‼オンドレかぁ‼よぉもワシの可愛い子供ら()ってくれよったなぁ!……仇討ちじゃあ。死にさらせやぁ‼」

 あ、()ったねぇ。バンディ相手じゃ勝てないからって俺に目ぇつけやがった。

 俺相手なら勝てると思ったのか、自分の身長ほどの長さの槍を突きつけ、クイーンビーは戦闘態勢に入った。


 二メートル程の距離を置いて、クイーンビーと睨みあう。

 ガルル……と唸り声を上げるその目は、()る気に満ちている。

「くっくっく……ワシの前に現れたのが運の尽きじゃあ。オンドレなんぞ、この毒槍で一突きしたったらイチコロじゃからのぉ……」

 嗜虐的な笑みを浮かべて、べろぉ~りと槍の穂先を舐めるクイーンビー。そして––––

「くーっくっく!れろぉ~(サクッ)っ‼()ったぁ!ひたひった(舌斬った)!ひたひったぁ!––––っ!ぐおおぉ、毒が、毒が回るぅぅぅ!…………あ、毒消し(アンチドーテ)を……………………!」

 ……なんて言ったらいいものやら。お約束中のお約束、自分の毒槍で自分の舌を切ったクイーンビーは、毒が回ってきたのかその場でポテっと落ちて、ヒクヒクと痙攣する手を伸ばしながら毒消しを懇願してきた。

「何やってんだか。……どうする?バンディ」

「まぁ、面白れぇからいいんじゃねぇか?……ほれ」

 バンディのお情けで垂らされた毒消しがポタリと掛かると、クイーンビーは瞬く間に顔色が良くなり、勢い良く飛び上がった。

「毒消し喰ろうて元気六倍!ワシ、復活!」

「ビミョー。六倍って……ハンパ過ぎねぇ?」

「じゃあっしゃい!ワシが復活したからには今度こそ!……オンドレをコロす……っ!」

 なんだかなぁ……もはや緊張感も緊迫感も全くないけど、毒は喰らいたくないので銃を構える。

 そして、撃鉄(ハンマー)半起こし(ハーフクリック)して、弾種と効果を選択する。

「【炎弾(フレイム)威嚇(ブラフ)】」

 今回選んだのは、威力も魔力消費もほとんど無い、まさに驚かせる程度のもの。例えるなら、ライターのガスを掌に溜めて火を付けたくらいの炎が上がるだけ。

 ––––だってこいつ、言葉の割にどこか憎めないところがあるし。だから、ちょっと脅かして頭を冷やしてもらおうかと。

「念仏唱えるヒマくらいは……くれたらん!死にさらせやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 セコい!けど、その間に撃鉄(ハンマー)全起こし(フルクリック)して準備は整っている。俺はクイーンビーに向けて、迷わず引き金を引いた。


「!!!」

 突進してきたクイーンビーに、魔法弾が着弾する。

 ポンッ!という音がして、派手に燃え上がった炎は、一瞬でかき消えた。

「––––ケㇹッ!ケㇹッ!……ケンカにチャカ持ち出しよって。卑怯もんがぁ!」

 いや、毒はいいのかよ。

 炎が晴れると、そこにいたクイーンビーは……頭はチリチリパーマ、顔中ススまみれで、昔の爆発コントのようなありさまでギャンギャンと吠えていた。

 しかし俺は見逃していない。こいつは炎に包まれる瞬間、どこからか取り出したチリチリパーマのカツラを被り、自分で顔中にススを塗りたくっていたのだ。

「……どうでもいいけどさ。取ったら?そのカツラ」

「チィッ!目はええようじゃのぉ。……コゾウ、名を聞いといたろうか」

 なんとなく大物感を出そうとしてるっぽいけど、全くキマッてないからな⁉

「––––カケル。カケルだよ」

「ほぉ、カケルか。ほんならカケルよ、次で決着じゃあ。……次の一撃が、ワシらの最後の別れになるじゃろう」

「いや、どこの世紀末兄弟ゲンカだよ!」

 仕方なく名乗ると、何かを悟ったようなキリッとした顔でそんなことを言ってきた。

 やらないよ⁉攻撃すり抜けてアタァ!とかやらないからな⁉

「もはやワシらに言葉は無用!天に滅せい!カケルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

「––––それ死ぬ方のセリフ‼」

 俺の一瞬の逡巡の隙をついて、最期の特攻を仕掛けてきたクイーンビーはそのまま––––


「––––スンマセンでしたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ‼」

「…………………………………………へ?」

「ジブン、調子ぶっこいとりましたぁ!ほんっっっまに、スンマセンでしたぁぁぁっ‼」

 決死の形相で俺に向かって突進してきたクイーンビーは、しかし俺の目の前で自ら地面に叩きつけられる勢いで急降下。ビターン!と音がする程に勢いよく土下座をかました。

「え~と、何やってんの?」

「ジブン、よっっく理解しました!飛び道具には敵いまへん!降参じゃ!これこのとーり!じゃから、飛び道具は!飛び道具だけは!」

 地面に顔を埋め、頑なに頭を上げようとしないクイーンビーに、「も、もういいから。頭を上げて。これ以上突っかかってきたりしなければ、何もしないから。な?」と、ちょっと憐れになって声をかけた、次の瞬間。

「飛び道具は!飛び道具は……フトコロが弱点!これでワシの勝ちじゃあぁぁぁっ‼」

 俺の油断を誘ったのか、クイーンビーはそう叫ぶと、土下座姿勢から跳ねあがるように倒立して、毒針を飛び出させたお尻を突き出し、こちらに突進してきた!けど––––

「甘い!」

 俺だって全くの無警戒だったわけじゃない。あらかじめ腰に回していた左手で、素早くオリハルコンの小剣––––元は斧だったけど、リーチが短いのは心配だったので剣の形にしておいた––––を引き抜いて、剣の腹で毒針を防いだ。

「お゛ぉ゛⁉☆&%$っっ!!!」

 キン、という軽い音を立てて毒針は弾かれ、その衝撃でビリビリと痺れた様子のクイーンビーは、変な悲鳴を上げて涙目で地面に突っ伏している。

 見ると、お尻から出た毒針はカキコキと折れ曲がって、もう使い物になりそうにない。

「……で?どうすんの?」

「………………………………」

 涙目のままでキッ!と俺を見上げるクイーンビー。

 ––––やがて、背中の翅を震わせて、俺の目線の高さまで飛び上がり、怒り(?)に震える拳を持ち上げて……もう片方の手で押さえ込む。

「…………………………………………き」

「…………き?」

「今日んとこはこんくらいで勘弁したるわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

「メダカシショー⁉」

 ハナコ姐さんからのメダカシショーという華麗なコンボを決め、クイーンビーは泣きながら飛び去って行った。

「な……なんだったんだ?一体……」

「さぁな。とにかく、片付いたんなら仕事だ仕事!」

「うぃ~っす」

「はい。……っていうか、何もできなかった上に存在感もない僕って……」

 騒動も終了したと判断してバンディが号令をかける、と。

 何だかナオヤ君が落ち込んでた。……だ、大丈夫大丈夫。今のはクイーンビーのキャラが濃すぎただけだから!ドンマイ!と励まして何とか仕事を済ませた。


 ––––おまけのおまけ。


 ドブ攫いを終えてギルド舎に戻ると––––

 ホールの端の方で、小卓に着いてお茶のカップを片手に読書をしているアースラさんが居た。

「––––!これは、カケルさんにナオヤさん。お仕事帰りですか?お疲れ様です」

「あ、どうも。アースラさん、は、読書ですか?」

「はい。今日は少々時間がありましたので。ジョルジュ様も始末書(デスクワーク)でお忙しいですし」

「へぇ。どんな本を読んでるんですか?」

 ほんのちょっとの好奇心。ホント、軽~い気持ちで聞いてみた。すると––––

「今読んでいるのは、こちらですね。どうぞ」

 差し出された本のタイトルは、『君の生肝(いきぎも)を食べたい』。

 ……………………この人、確か半鬼人(ハーフオウガ)だったよな。

「……え~と。グルメの、話……ですか?」

「いいえ。悲しくも切ない、ラブストーリーですよ?」

 更にグイ、と差し出された本の、オビを見てみる。

 そこには、『全鬼が泣いた!』というアオリのほかに、『悲しみで(ヨダレ)が止まらない!』とか、『私もこんな素敵な出会い(しょくじ)に巡り合いたい!』といった感想文が並んでいた。

「………………………………やっぱこれ、グルメか食リポの話ですよね?」

「いいえ。ラブストーリーですよ?興味がおありでしたら、お貸ししましょうか?私が読み終えてからでよろしければ、ですが」

「………………………………………………………………遠慮しときます」

 ……俺には、中を見る勇気はなかった。だって、どう考えてもオウガの飯テロ話とかしか想像がつかないし。ニンゲンウマー♪とかやってそうだし。

 丁寧にお断りした俺は、その場をそっと離れたのだった。


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