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雑用専門ギルド「猫の手」へようこそ!  作者: 子寅(ねとら)
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ニュクスさんのお散歩バンザイ!

   Small Talk ニュクスさんのお散歩バンザイ!


 ––––エディさん達との話も一区切りがついて、彼らが滞在中の借り家を建てると言ってエディさんは裏の空地へ向かった。(なんと、ハーヴェストが魔法で建てるという)

 ちらっと見てみたけど、岩石創生魔法ロック・アーティファクトは圧巻の一言だった。だって、地面から岩石がニョキニョキ生えてきて、あっという間に二階建ての建物が完成したんだぜ?目の前で見たインパクト、ハンパねぇ。

 そんな話題で盛り上がりながら、ナオヤ君とホールを歩いていたら、向こうから小走りで、パタパタと駆けてくる人影があった。

「お散歩いたしましょう!カケル様!」

 開口一番、興奮気味にそう言ってきたのは、黒夜馬(ニュクスコーン)のニュクスだ。

「––––は?お散歩?何でまた急に––––」

 訝しげに言いながら、目を向けると。

 腰まである黒髪に、黒色のローブ。整った顔立ちの、その頭の上には馬の耳を生やし、お尻には馬の尻尾が揺れ––––

「––––って、なにその耳と尻尾⁉コラボ?もしかしてコラボ狙ってる?言っとくけど無理だからな?絶対(ぜって)ぇ無理だから!」

 彼女は、ヒト型になっているにも関わらず、馬の耳と尻尾を生やしていたのだ。

 ついさっきまで生えていなかったはずなのに!

「はい?カケル様がどこのウ〇娘のことを仰っているのか存じませんが、とにかくお散歩です!カケル様は乗馬経験はおありですか?もしもまだでしたら、ぜひ、ぜひ!このニュクスの背にお乗りいただきたいとっっ!」

 とって喰わんばかりの勢いで言い寄ってくるニュクス。その鼻息は、もうバッフン♡バッフン♡言ってて、容姿や雰囲気など、あらゆる美点を台無しにしていた。

「あぁ、また…………」と、頭を抱えるナオヤ君。

「え?また、ってナオヤ君も言われたの?」

「うん、まぁ……」

 重い吐息を吐きながら彼が言うには、こうなってしまった(、、、、、、、、、)ニュクスはしつこくて、それこそ入浴中・就寝中から、トイレの中まで、どこにでも凸ってきて精神的に追い詰められてしまったのだとか。

「……だから、一回だけでも乗ってあげて……それで、終わると思うから……」

 重々しいため息を吐くナオヤ君。それだけで、このストーカー被害者の苦労が察せられるような気がした。だから––––

「~~~分かった。乗るよ」

 頭をガシガシと掻きながら、了承の意を伝える。せっかくの忠告を無下にするのも悪いし。

「よろしいのですか⁉それではさっそく♡さぁ♡お乗りくださいマセ♡」

「––––って、そのまま⁉やだよ!俺、そんな趣味ねぇから!」

 興奮したニュクスは、ヒト型のまま四つん這いになって俺を誘う。

 っていうか、そんな『お馬さんごっこ』、デキネエから!やだから!

「…………さようでございますか?はぁ……それでは、表までお越しくださいませ……」

 がっかりしたように、力なく歩むニュクス。途中、「あぁ……!」なんて言ってふらついて見せたりしている。多分わざとだろうけど、そんなにショックか?


 正面扉をくぐって表に出ると、既に黒馬の姿になったニュクスが待っていた。

『さぁ、カケル様♡お乗りくださいませ♡さぁ♡さぁ♡』

「分かった!分かったから!––––って、鞍は?」

 そう、ニュクスはハミ?こそ噛んでいたものの、その背に鞍を乗せていなかった。

『あんなもの飾りに過ぎません!エライ人には裸馬の良さが分らんのです!』

「意味わからねえし。どこのアカハナだし。エライ人って誰だし」

 ––––そもそも脚の話じゃなかったか?

『まぁ良いではございませんか♡それよりも、ほら♡早くお乗りになってお散歩いたしましょう♡』

「ハートウゼエ……っていうか、(あぶみ)もないんじゃ乗り辛いから、踏み台になるもの持ってくるよ……」

 どうあっても鞍を着ける気はないようなので、仕方なくその辺のタルを持ってきて、それを踏み台にニュクスの背に乗る。

『はぅんっ♡』––––と、それだけでビクン!と身体を震わせる黒馬。

「…………やっぱ降りていい?」

『あぁっ!そんなご無体な!……ハアハア♡ここへきての焦らしプレイ♡……はぁぁっ♡やはりカケル様は心得ていらっしゃいますぅぅぅぅぅぅぅぅ♡』

「––––焦らしてねぇし!キメぇし!ソレ(・・)続けんだったら、マジで降りんぞ!」

 イラッときて、ホントに降りてやろうかと腰を浮かした途端に、跳動(ギャロップ)。振り落とされそうになって、慌ててニュクスの首にしがみつく。

『あら、カケル様?馬上で急に動かれては危のうございますよ♪』

「こんのヤロ……」

 ムカつくけど、『お散歩』が終わるまでは俺を離す気はないらしい。

 仕方ない。その辺をパカポコ歩いてさっさと終わらせるか。


『––––いかがでございましょうか?馬の背からの景色というのも、なかなかに良いものでございましょう?』

 街の中の街道を、のんびりパカパカと歩く。普段の倍もある高さからの見晴らしも、確かに悪くない。

「そ~な。……時々ケツの下でビクン!て震えるのがなかったら、もっと快適かもな」

『そんなつれない事を仰らないでくださいませ。カケル様の温もりを、この背中(せな)で直に感じられるとあっては……無理からぬことでございます♡』

「……そ~いうこと言うからダメなんじゃね?」

 ––––馬の背に揺られて、弛緩した(きのぬけた)ような会話を交わす。慣れてくると、こののんびりとした揺れが、眠気を誘うほどに心地良い。

『カケル様。そろそろ軽く駆けてみませんか?』

 程よく眠たくなってきたころ、ニュクスがそんなことを言ってきた。

『そろそろ街のはずれまで参りましたし、軽く早駆けなどして、全身で風を浴びるのも気持ちの良いものですよ』

「あぁ、それもいいね。それじゃあ––––」

『ですから、軽くでも良いので、ひと鞭くださいませ♡さぁ♡お早くぅ♡』

 ––––それが狙いか!

「でも、言葉でコミュニケーション取れてるよね。ムチいらないんじゃ––––」

『ダメでございます!馬にとっては、その鞭こそがスイッチ♡それなくしては実力の半分も発揮できないのでございます!』

 食い気味に、猛然と訴えられて、押し切られるように「……じゃあ、軽くな」と言ってピシリと鞭を入れた……のが、大失敗のもと。

『おおっほおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ♡♡♡』

「––––––––––––––––っっ!!!」

 耳元でキュンッ!といったような音がしたと思ったら、辺りの景色が一瞬にして消え去った。

 思わず閉じてしまった瞼を、恐る恐る開いてみると、そこは見慣れた街の景色––––ではなく。どことも知れない、深い森の中だった。「……どこだよ、ここ」


『申し訳ございません。(わたくし)、つい(たかぶ)ってしまって、空間跳躍をしてしまったみたいでございます』

「空間……跳躍?」

『はい。あ、まだ申しておりませんでしたでしょうか?私は〈時間と空間を飛び越える〉能力を持っているのでございます』

 ……サラッと言った。言いやがった。

「分かった。……よ~く分かった。で?ここどこよ?」

 そんな大事なことはもっと早く言え!と思ったけど、今はどうしようもないので、ひとまずスルーして話を進めることに。

『森、なのは分かりますけれど……』

 辺りを確かめるように、ぐるりと首を巡らせるニュクス。

 すると、頭の上から降ってきた声が、話しかけ––––いや、唄いかけて(、、、、、)きた。


 ––––♪ ニンゲンサンヨ

 ––––♫ ニンゲンサンネ

 ––––♬ オ馬ニ乗ッタ ニンゲンサン


 見上げると、木の枝に留まった三羽の鳥––––いや。

 鳥の身体に女性の頭部。身体も、肩からへその辺りまでの前面が人の形を成している。

「あれって、ハーピィ?」

『そのようでございますね。ということは……すみません、カケル様。どうやら大陸を渡って、ロンド・アーナ大陸の南東、ハーピィの(ネスト)まで来てしまったみたいです』

「へぇ、大陸を渡っ……て、はぁ⁉大陸を渡ったって、どれくらい離れてるんだよ‼」

『通常ですと、馬で二週間ほど、そこから船で一刻くらいの距離ですね』

 なんてことのないように言ってるけど、つまり、それだけの距離を一瞬で飛び越えたってことか?それはそれで凄ぇけど。

「……帰れるんだろうな」

『それは勿論でございます。ただ、今すぐに、となりますと、私も昂ったままですので、どこまで跳んでしまうか判りかねます。ですので、ここは少々休息を挟んだ方が宜しいかと』

 そこまで言われては無理強いもできないので、このポンコツ馬が落ち着くまで待つことにした。『はあぁん♡ポ・ン・コ・ツ♡このような駄馬めに、ご褒美のお言葉まで––––』

「うっさい、黙れ、とっとと回復しろ!」

 ––––誰かこの馬を凹ませる方法を知りませんか?


 ––––♪ ニンゲンサン ニンゲンサン

 ––––♫ ドコカラキタノ?

 ––––♬ ナニシニキタノ?

 ––––♪ アソビニキタノ?

 ––––♫ ソレトモ ソレトモ

 ––––♬ イジメニキタノ?


 ニュクスと話していると、三羽、三人?のハーピィが続けて唄う。

 それぞれ、桜色、鶯色、赤と青のキツツキのような色の羽根を揺らし、警戒しているようにも、怯えているようにも見える態度で、誰何という奴をしているんだろう。

「どうする?なんか怪しまれてるみたいだけど」

『彼女たちは、基本的に臆病な種族ですので……カケル様。私の首に提げている袋に果物が入っております。それを彼女たちにあげて、害意はないと示してはいかがでしょう?』

 確かに、無駄に嫌われるのもなんだし、名案かも。そう思って、袋の中から赤い果物を取り出してかかげ上げる。

「俺たちは迷ってきただけで、イジメに来たわけじゃないんだ。良かったらコレ、食べてよ」

 声を掛けると、互いの顔を見合わせた彼女たちは、軽やかな羽音を立てて俺たちの近くまで降りてくる。


 ––––♪ クダサルノ?

 ––––♫ ホントウニ?

 ––––♬ ホントニ ホントニ タベテモイイノ?


 彼女たちは、滞空したままで俺の顔をのぞき込んだり、果物の香りを嗅いだりしていた。

「いきなり出てきて、驚かせちゃったみたいだから、そのお詫びってことで」

 そう言うと、彼女たちは嬉しそうに俺の手の上から果物を食べてゆく。


 ––––♪ ウレシイワ

 ––––♫ オイシイワ

 ––––♬ トッテモ トッテモ オイシイワ


 気に入ってもらえたようで、彼女たちは俺の周りを、舞うように飛んでいた。

 そうしてひと(しき)り空中のダンスを披露すると、元の木の枝に泊まって何事かを相談しているようだった。


 ––––♪ オカエシシナキャ

 ––––♫ オカエシシマショ

 ––––♬ ワタシタチカラ オカエシヲ


 ––––♪♫♬ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♪♪


 森の中に、鳥たちのきれいな合唱(ハーモニー)が響き渡る。

 歌でお返ししてくれてるのかな?と思っていたら、やがて歌声は風になり光の緒を引いて、俺の目の前に集まりだした。

「––––?なんだ?」

 風が歌い、光が踊り、輪舞曲(ロンド)のリズムは集束へと向かい……

 ついには、淡い緑光を宿す、小さな卵型の水晶となって、俺の手の中に収まった。

「これ、は……」


 ––––♪ オクリモノ

 ––––♫ オクリモノ

 ––––♬ ワタシタチカラ オクリモノ


 ––––♪ イツカ フタタビ デアエルヨウニ

 ––––♫ マヨイノ森ニ サトラレヌヨウ

 ––––♬ 交ワシマショウ ()ヲ 永遠(とわ)(つい)エヌ誓イノ唄ヲ


 ––––♪ ワタシハ ミレー

 ––––♫ ワタシハ レファーラ

 ––––♬ ソシテ ワタシハ ラシド


 ––––♪♫♬ アナタハ ダァレ?


 再び枝を蹴り、円を描くように飛び交わすハーピィ達から、(いざな)うような問い掛けの唄が響く。

「俺は、カケル、だよ」

 気がつけば、導かれるようにして名乗っていた。


 ––––♪ カケル サン

 ––––♫ カケル サン

 ––––♬ オボエマショウ ソノ名ヲ 言祝(ことほ)ギマショウ コノデアイヲ


 ––––♪♫♬ 唄ニチカラヲ 翼ニ調(しらべ)ヲ  心ニ光ヲ


「水晶に……なんか浮かんできた?」

 ハーピィ達の声が重なるたび、水晶は震え、降り注ぐ光を蓄えて、紋様のようなものが浮き上がってくる。

『カケル様。それはもしや【卵晶石(クリスタル・エッグ)】ではないでしょうか』

「クリスタル・エッグ?」

『えぇ。魔族が親愛の証に生成するとも言われる、稀少石の一つです』

「––––え、そんな貴重な物を……貰っちゃっていいのかな?」

『よろしいのではないでしょうか?彼女たちにしてみれば、道中の御守り程度のつもりかもしれませんし』

 手の中のエッグを眺めて、ハーピィ達を見やる。今はまた三羽とも木の枝に留まって、クスクスと楽しそうに顔を見合わせたりこちらを見たりしている。

 ……まぁ、くれるって言うなら、それでいいのか?

「ありがとう!これ、大事にするよ!」

 掲げ上げたエッグを軽く振ってお礼を告げると、ハーピィ達は嬉しそうに笑顔を咲かせ、再び美しいコーラスを響かせる。


 ––––♪♫♬ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『カケル様。私の体調(テンション)も戻りましたし、そろそろ帰りましょうか』

「あ、うん。……じゃあ、俺たち、もう行くよ!また来るから!」

 改めて手を振ると、ハーピィ達も歌声で返してくる。


 ––––♪ キット キット マタ来テネ

 ––––♫ 今度ハ イッショニ 歌イマショウ

 ––––♬ ヤクソク ヤクソク マッテルワ


「––––それじゃあ行こうか」

『はい。楽しいひと時でございましたね。宜しければ、また参りましょう』

「今度は、みんなでな」

 そう言って、街に帰るため馬首を巡らせた。

 ちなみに、勢い余ったニュクスは、今度はパンジョ村まで跳んでしまった。

 まぁ、ここまで来れば残りは大した距離じゃない。ハーピィ達の楽しい歌声を思い返しながら、他愛ない会話を交わして、今度こそ街へと帰ったのだった。


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