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素晴らしいこの世界の片隅で。

プール

作者: ニチニチ

小学生のころ、夏休みには、午前中だけ水泳をやっていた。

僕は、どうしても気が乗らなくて。

何だか馴染めなくて。

ひとり、家の近くで時間をつぶしていた。

 

 



アリが増えてきた。

動かなくなった虫の周りに集まってくる。

それはやがて、体をパーツに分解する。


器用に小さくしていって、やがて穴の中に消えていく。

僕は、無心にその様子を見つめていた。



そろそろ時間かな。

ゆっくりと立ち上がる。


ギラついて攻撃的な太陽。

公園の水道で、頭から水をかぶる。

からからに乾いた、水着やタオルも、濡らしていく。



滴り落ちる水は、やがて罪悪感になっていく。

それは、少年の小さな心に、日ごとに少しずつたまっていった。


 



家に帰ると、兄が言う。

小学校から、水泳に全然来ていないという連絡があったと。


兄が言う。

夏休みが始まってから、一度も水泳に行ってないだろうと。

 

 



僕は、小さくこくりと頷いた。

 

 



兄は、少し眉をひそめたあと、いつも通りやさしく笑った。

 

 



僕は気が付いていた。

心の中の罪悪感が、ゆっくりと溢れ出してくる。

それは、一度溢れ出したら、どんどん勢いを増していく。


いつの間にか、僕は溢れ出した水の中にいた。

そして、いつしか溺れそうになっていた。

 



母親が帰ってきた。

僕は、雷が落ちると思って、身構えた。

 



いつ雷が落ちてくるのか、ヒヤヒヤしていたけど。

結局、怒られることはなかった。

何もなかったかのように、いつも通りだった。

 



何だか拍子抜けするとともに、少し安心した。

兄が、隣でいつものように、やさしく笑っていた。 

 

 

 

いつの間にか、僕の周りの水はひいていた。

体はすっかり乾いている。

僕は、何だか水が恋しいと思った。

 

 

 

 

 

僕には、守ってくれる人がいると実感した。

学校をサボってしまっても、とがめずそっと見守ってくれる。

何だか、馴染めなかった自分がちっぽけに感じた。 


 



翌日。

行ってくるね、兄ちゃん。

やっぱり、兄がやさしく笑っていた。

 



僕は朝から元気に水の中に飛び込んでいった。

水の底から、青空を見上げる。

そこには、やさしく太陽の光がゆらめいていた。

 

 



今でも、覚えている。

 

 

 


あのときの水面の冷たさと。

水の中のあたたかさを。

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